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襲撃系美少女とか流行らないかな?

「子供、欲しいな」

「何だよ、藪から棒に」

 夕方の商店街。今では珍しい古風な街並みを歩くのは、四人の高校生たち。その中の一人、小柄な少女が、唐突にそう言った。

「ん? ただ、なんとなくね」

 彼女は背が低く、手足はやや長いものの完全な幼児体型であり、見るからに中学生―――場合によっては小学生に思える。金糸のように輝く髪を二つに結わえて、くりくりと可愛らしい瞳が特徴的な、童顔の少女。そんな彼女は、隣を歩く少年に柔らかな笑みを向けた。

うるふ君は興味ないの? 子供」

「全くないな」

 狼君、と呼ばれた少年は、間髪入れずに少女の言葉を否定した。平均より少し高い背と、ガリガリにならない程度に細い体の少年だ。少し伸びてきた前髪を鬱陶しそうにしながら、彼はこう続ける。

「っていうか、お前が言うと不穏当なんだよ、闇代やみよ

「心外だよ!」

「そうだよ狼君! 闇代ちゃんだって、別にやましい気持ちがあったわけじゃないんだからね!」

 闇代という金髪少女に賛同したのは、狼を挟んで彼女の反対側にいる少女。茶色掛かった短い髪に黄色のリボンを結んだ彼女は、整った顔を不満げに歪めながら、抗議を続けた。

「子孫繁栄は人類の、ううん、生命の唯一にして最大の課題なんだよ! それを馬鹿にするなんて許せない! というわけで、今すぐ私と子孫繁栄を―――」

「黙れ年上だと思って調子こいてるんじゃねぇぞこの色情魔!」

 リボンの少女の言葉に、狼は全力で突っ込んだ。しかしすぐに、そんなことをしても無意味だと気づいて、冷静になる。

「うぅ、酷い……私はただ、狼君と親密な関係になりたいだけなのに」

「親密の度合いを考えてくれよ。今の時点でも十分すぎるだろ」

「ううん、そんなことない! まだあんなことやこんなこともしてないのに! ねえ、美也さん!?」

「そうだよ! 私だって、狼君とあんなことやこんなことしたいのに!」

「やっぱりさっきのは確信犯か!」

 わいわいがやがや、騒がしく歩いていく彼ら。なんだかんだで楽しそうだな。

「おい、一片もなんか言ってやれよ」

 女子二人の猛攻に耐えかねた狼は、今まで沈黙を貫いていたもう一人の男子に声を掛ける。身長は平均並みで、細くもなく太ってもいない、中肉中背の少年。長い前髪で顔の半分は隠れているが、それでも分かるくらいに目が鋭かった。

「その程度、お前たちにとっては日常茶飯事ダロウ?」

 しかし彼は、狼に対してそんな冷たい態度を取った。その特徴的な口調は、嘲笑っているのか、それとも呆れているのか。

「一々突っ込むのも面倒ダカラナ」

「いや、それは承知しているが、せめて阿呆どもを引き剥がすのくらい手伝ってくれよ」

 見れば、狼の両腕には二人の少女(言うまでもなく闇代と美也だ)が抱きついていた。結局、話の流れでそうなってしまったらしい。

「俺の腕力で、その二人を引き剥がせと?」

「闇代はどうにかなるんじゃないのか?」

「いや、そいつは元々身体能力が高い。完全にホールドされた状態では対処が難しい。後、面倒くさい」

「結局それかよ!」

「狼君。乙女を力ずくでどうにかしようだなんて、男としてどうなの?」

「そうだよ狼君。わたしたち、か弱い乙女なんだよ?」

「か弱い乙女なら、もう少し色々と弁えて欲しいんだが」

 到底か弱いとは思えない腕力で、狼の体にしがみつく二人。それで悲鳴を上げないだけ、彼の体も存外丈夫なのだな。

「ふぅ……」

 狼は溜息交じりに、両脇の少女たちを引き摺るのだった。



 ……その頃、別の場所では。


「……なあ」

「何だよ?」

 狭い車内にて。二人の男が話していた。彼らは作業着に身を包んでいて、そのロゴから運送業者だと推測される。

「後ろに積んでるのって―――」

「やめとけ」

 助手席の男が発しそうになった言葉を、運転手が遮った。しかし助手席の男は、自分たちの後方を振り返って、言葉を続けた。

「後ろの積荷って、やっぱり……子供、だよな?」

「詮索するな」

 二人からは、その「積荷」とやらは見えなかった。ここはトラックの運転席で、荷物は後ろのコンテナに収納されているのだから。

「詮索すると、長生きできないぞ」

「で、でもよ―――」

「俺たちが勝手に死ぬのはいい。……けど、家族に迷惑かけたくないだろ?」

「……」

 運転手の言葉に、助手席の男も黙るしかなかった。―――彼らは一体、何者なのか? ただの運送業者ではないようだが。

「無駄口叩いてる暇があったら、ちっとはナビしてくれよ。この辺、初めて来たから、迷いそうだ」

「……ああ」

 数拍の葛藤を経て、助手席の男は、周辺の地図を取り出すのだった。



 ……さて、彼らは。


「それで、今日はどうするの? うちに来る?」

 闇代は美也に対してそう尋ねた。この四人組の内、美也を除く三人は、とある事情により同居していた。なので、彼女はこのまま帰るのか、それともまだ一緒にいるのか、という質問だろう。

「う~ん……狼君と一緒の時間も捨て難いけど、あんまり家を空けると伯父さんが可哀想だし」

 問い掛けに対して、美也は悩みながらそう呟く。彼女は伯父と二人暮らしで、家事を分担しているので、あまり寄り道はできない。そしてそれ以上に、男友達と一緒にいると悲しい顔をされるので、極力早めに帰宅したいのだ。

「また、「NTRは絶対にやらないんだから……!」とか言い出さないといいんだけど」

「なんだそれ?」

「寝取られ。狼君には一生関係ないワードだけどね」

 美也が呟いた単語に、狼がその意味を尋ねていた。いやまあ、三親等以内の相手(つまりは姪)に対してNTRが成立するのがそもそも間違いというか。……言っておくが、彼女の伯父は決して変態ではないぞ? ゲーム脳なだけで。

「ま、どうでもいっか」

 しかし姪っ子は非情なり。伯父の複雑な男心を「どうでもいい」とバッサリ切り捨て、男の家に入り浸るのだった。

「それなら、みんなでゲームする?」

「またかよ? ここんところ、ずっとじゃねぇか」

 闇代の提案に、狼は露骨に顔を顰める。彼らはここ数日間、放課後になると皆でゲームに勤しんでいた。古いテレビゲーム、それも多人数参加型の格闘ゲームなので、四人で遊ぶには丁度良かった。だがハードが古いので、コントローラーのボタンがなかなか反応しなくて、操作をする際はボタンをかなり強く押さなければならない。それ故に、プレイした後は必ず指が痛くなるのだ。

「いい加減、指が疲れないことをしたいんだが」

「なら―――」

「一片、こいつらが変なこと言ったらしばいていいぞ」

「了解した」

「ちょ、まだ何も言ってないよ!?」

 と。そんな彼らの傍を、一台のトラックが通り過ぎた。別に、人通りや車の通行がない道路でもなく、他の車だって沢山通っている。だが、その一台に、彼らの内二人が反応した。

「……一片君、気づいた?」

「……ああ」

 闇代と一片が顔を合わせ、真剣な様子で頷き合った。……一体、どうしたというのだ?

「狼君、美也さん。ちょっと」

「何だよ?」

「なあに?」

 闇代は狼と美也を呼び止めると、彼らに対してこう言ったのだった。

「今からみんなで、トラック襲撃しよ?」

 と。

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