01
吸い込まれるような濃青のラピスラズリで作られた建物、ダイアナ。
時をつかさどる女神の名前からつけられたその建物は、あらゆる都市へつながる国内最大の中継駅だ。
濃青に散りばめられた白や金の模様はまるで夜空に浮かぶ雲や星のようで、旅人たちに安らぎの時を与えている。
「何回見てもすごいわねぇ。私、ここがとっても好き!」
そういって目じりを下げてうっとりとした顔をするティアは、妖精の国のお姫様のようにみえる。
ーーまぁ、それも見た目だけの話だけどね!
「それはわかる。これだけ見た目の美しさにこだわった建物もなかなかないしね」
ティアに小さくうなずいて、あたりを見回す。
空にかかる路線を走る列車に乗らなくても、見渡す限りの濃青に吸い込まれて、どこにでも行けそうな気になってしまう。
「ロイス!久しぶりっ!」
青年のさわやかな声がする方を振り返ると、そこには見知った顔がいた。
見知った顔…といっても、長い前髪と髭に埋没しているため、その素顔を拝んだことなないのだけれど……。
「ベルク、相変わらずのもじゃもじゃだな…。きちんとした身なりの方が就活には便利だぞ」
「ところがどっこい、これでも結構儲かってる!どこのだれかと違って仕事が早いので有名なんでね!」
お互いに軽口をたたきつつ、にっと笑ってハイタッチする。
ベルクのいう仕事とは法や金に係る事務仕事のことであり、この国ではその処理は煩雑で難しい。
国内であっても法による入都税が高い都市は多くあり、そんなものを仕事の度に支払っていてはとんだ赤字になってしまうため、あらゆる法を組み合わせた減税が必要になる。
昨日まで僕もこの死ぬほどめんどくさい事務手続きにずっと悩まされていたので、その難しさは身に染みて知っている。
この国は美を尊ぶというのに、この国でもこれだけ外見に気を使っていないベルクがお金を稼いでいるということは、仕事が早いというのは間違いないだろう。
あぁ、あわよくば僕の事務担当として雇いたい…。昔からのよしみでちょっとお安く雇われてくれると嬉しい…。
「あ~ら、いつぞやのひげもじゃじゃない!汚らしいから私には近づかないでほしいわ!もちろんロイスにも!!」
ロイスがそんな現金なことを考えていると、今まで周りの景色に見とれていたティアが汚いものを見る目でベルクに悪態をつく。
「やぁ!ティアじゃないか!君は相も変わらず美しいな!!」
そんなティアの態度を全く気にする様子もなく、満面の笑みで話しかけるベルク。こいつは強い…。
「話しかけてこないで!」
そんなティアの言うことを無視して、ベルクはティアに触れようと手を伸ばしたが、ティアは肩をびくりとはねさせて、僕の後ろにさっと隠れてしまう。
「相変わらずつれないなぁ~~~」
「うるさいわよ!バカバカバカ~~~~!!!」
そういわれて嬉しさが駄々洩れているベルクはドMなのかもしれない。そっと心の中の事務担当候補から外してしまうべきか悩みどころである。
とはいえ昔、とある事故に巻き込まれたベルクはティアに助けられたこともあり、彼女に対して特別な好意を抱いていることを、僕は知っている。まずは身なりを整えればもう少し二人の関係性は改善するのでは?と、思うものの、それをしないのはベルクがよっぽどの不細工であるからと推察してる。あくまで推察だけどな!!
「ロイスって心の中ではおしゃべりよね」
「僕の心を読んだの!!?」
「読めるわけないでしょ」
「しれっと俺のこと仲間はずれにしないでくれよ~~」
そんなやりとりをしつつ、ロイスは次の仕事先である工業都市”アテナス”へ行く列車を待つことにした。