河野の推理2
24
あたりは静まり返った。しかしこのままではマーティン一家の者が黙ってはいないだろう。
「ちょっと待て、俺たちのボスを殺した張本人をみすみす逃がすって言うのか?」
「確かに、その通りかもしれませんね。しかし、まだ、話の続きがあるのをお忘れなく」河野は丁寧に言った。
「どういう話の続きか、聞いてやろうじゃねえか」
「マーティン一家のボスを殺したのはジャクソン・ウィリアムズ、と言うことにして、今度はキャンベル一家のボスの話です」
「ああ、気の毒なこったな、キャンベル一家のボスが殺されたのはさっき、ジョン・ウィルソンから聞いたよ」トンプソンは同情するように言った。
「そうですね。しかし、話を元に戻しましょう、彼を殺したのは誰か?という話です」
「ちょっと待て、キャンベル一家のボスを殺したのも、ジャクソン・ウィリアムズじゃねえのか?」トンプソンは言った。
「ジャクソン・ウィリアムズは簡単にマーティン一家のボスを殺したことは認めましたが、キャンベル一家のボスを殺したことは最後まで認めませんでした」
「どういうことなんだ?ふつう、被害者は二人でも、犯人は一人のはずじゃないのか?」
「そう思いますよね。私もそれでかなり悩みました。犯人が二人であるということは共犯でもない限り、可能性としてはないに等しいんです」
「共犯じゃないのか?」
「ええ。ジャクソン・ウィリアムズはマーティン一家のボスを殺したことは認めましたが、キャンベル一家のボスが殺されたことは一切、知らないようでした」
「なるほど。ジャクソン・ウィリアムズの話によれば共犯でないことは確かにわかるな」ジョン・ウィルソンは言った。
「そうでしょう?そこが今回の事件の特異なところなんです」
「確かに。別々のボスが別々の犯人によって殺されたって言うのか……。しかも偶然に」
「トンプソンさん、あなたの言うように、別々のボスが別々の犯人によって殺された、までは正しいですが、それは偶然の産物ではありません」
「何?偶然ではないのか?どういうことなんだ?」
「それを話すのはまだ早いです。今はキャンベル一家のボスが殺されたことについて話しましょう」
「確かに。キャンベル一家のボスは、誰によって殺されたんだ?」
トンプソンは言った。
「そういえば。先生は、部外者ではなく内部の人間の犯行だ、って言っていたよな?」ジョン・ウィルソンは言った。
「そうです」
「いったい犯人は誰なんだい?」
「あの時の状況を思い出してください」河野は言った。
「ボスが泊まる部屋の前には二人のボディーガードがいた。ボディーガードは、アイデン・ムーアに、ダニエル・ジャクソンだった。
やつらには部屋の前からいなくなった時間帯がある。それは煙草を買いに行くために開けた時間だった。しかし、アイデン・ムーアによると、ダニエル・ジャクソンが部屋の前を空けていた間、急にトイレに行きたくなり、二人とも部屋の前を空けたこともあった。
その間に部外者の人間が部屋の中に入り、ボスを殺すこともできたが、それは不可能に近い。
なぜなら、二人が開けた時間は全くの偶発的にできた時間で予測することは不可能に近いからだ。
ボディーガードのうち一人が部外者と組んでいても、同じ理由でその可能性は却下される。
とすると、それまでに部屋の中に入った人物。順番に言うと、ベンジャミン・クック、私であるジョン・ウィルソン、そしてソフィアお嬢さんだ。
ソフィアお嬢さんが部屋に入った時はボスはもう死んでいた。しかし、私が入った時はまだ生きていた。
大体、そんなもんだろ?」ジョン・ウィルソンは言った。
「素晴らしいです、ジョン・ウィルソンさん」河野は言った。
「だから言ったでしょう?この状況で一番怪しいのはソフィア・キャンベル、と言うことになる。部外者の可能性が排除されたのならより一層そうじゃありませんかね?」ベイカー捜査官は言った。
「確かに、そのように見えます」
「でしょう?」
「しかし、見方を変えれば全く別の結果になることもあり得るんですよ」
「どういうことかな?」
「ベイカーさん。ボディーガードの視点に立って今回の事件を考えてみてはどうですか?」
「どういうことかな?」
「ベイカーさん。あなたはもうわかっているはずだ。意固地にならないでください。
ソフィアさんよりボディーガードの二人の方が、ずっと犯行に及ぶことが簡単なはずです」
「……」
「ちょっと待ってくれ、俺たちを疑うって言うのか?」
ウィリアム・キャンベルのボディーガードをしていた一人のダニエル・ジャクソンは言った。
「ええ、二人のうち一人は、犯行に及んだ可能性が高いです」
「なるほど。確かにボディーガードのことを考えるのを忘れていたな。こいつらは確かに、片方のボディーガードが煙草を買いに行っている間に、ボスを殺すことができる」ジョン・ウィルソンは言った。
「そうです。ということは部外者の可能性を排除した、としても、一概には、ソフィアさんが犯人である、ということが言えないことがわかります」
「確かにそうだな」
「それでどっちなんです?犯人は?」
「おそらく、二人にはもうわかっていることでしょう」
「片方は無実だということがわかっているから、もう片方が必然的に犯人だ、と言うことがわかるわけだ」ジョン・ウィルソンは言った。
「そういうことです」
「ということは、お前か?アイデン・ムーア」
ダニエル・ジャクソンはびっくりした様子で言った。
「お、お前じゃないのか?」アイデン・ムーアは明らかに取り乱していた。
「あなたの反応から見てもわかりますよ。アイデン・ムーアさん。犯人はあなたです」
「ちょっと待て。反応だけで俺を犯人呼ばわりするって言うのか?」
アイデン・ムーアは焦って言った。
「いいえ、そうではありません。アイデン・ムーアさん。確か、あなた、キャンベル一家のボスが殺されてベイカー捜査官が取り調べをした時、二人とも部屋の前を開けた時があった、と証言なさいましたね?」
「ああ、そうさ」
「そこでベイカー捜査官は確かあなたが嘘をついていた、と主張したわけですが……」
「そこに何か不自然な点でもありましたか?」ベイカー捜査官は不満げに言った。
「いいえ。あなたの捜査官としての勘は正しかったのです」
「でしょう?だから、ソフィア・キャンベルが犯人だって言ったんです」
「しかし、それは違うでしょう」
「どういうことです?」
「アイデン・ムーアさんはうそをついてらしたということは事実でしょう。しかし、ソフィアさんを守るためのうそではなかった、自分を守るためのうそをついたのですよ」
「なるほど。アイデン・ムーアは自分の犯行を隠すために、ダニエル・ジャクソンがいない時に自分も持ち場を離れた、と証言したわけか」ジョン・ウィルソンは感心して行った。
「そうです。ですから、二人、部屋を開けたことはアイデン・ムーアさんしか知りえない事実だった、そこにうそをついているという可能性があると見抜いたベイカー捜査官は褒められるべきでしょう」
「そうでしょう?」
ベイカー捜査官は多少名誉を回復されたのに機嫌をよくしたのか、笑みがこぼれた。
「しかし、問題はうそをついたのは自分が犯人であることを隠すためのものだった。しかし、ベイカー捜査官が自分に都合の良い推理をしてくれたため、黙っていることにしたんですね?アイデン・ムーアさん」
「言いがかりはよしてくれ。俺は犯人じゃねえ」
いかにも不器用そうなアイデン・ムーアはうそをついていることが簡単に分かった。
「都合の良い推理とは気に入りませんね」ベイカー捜査官はまた少し不機嫌になった。
「とにかく。嘘をつくとすればそこしかないんですよ」
「しかし、俺はやってねえ」
「やってない、と言うのなら、あなたの持っている拳銃から何から調べてもいいですよね?私の推理が正しければ、あなたの拳銃を調べれば、簡単にキャンベル一家のボスが殺されたときに打ち抜かれた弾と一致するはずです」
「ちくしょう」アイデン・ムーアは自白ともとれるほどの悪態をついた。
「ということは認めるんですね?」
「そうだよ。俺がボスをやった。間違いねえよ」
「なるほど。動機は何なんですか?」
「簡単なことさ。野球賭博に負けたんだよ。それで俺の財産の大半はなくなっちまった。野球賭場が八百長だってわかった時にかっとなってしまったんだ。ボスが俺をだましてることに気付いたからさ。いくら俺が頭が悪いって言ってもボスに裏切られたことくらいわかったさ。それでどうしても我慢できなくなっちまって殺した。そういうことさ」
「そういうことだったんですね。やはり原因は野球賭博ですか。それも、ボスが八百長をしているのにあなたには大損をさせた、とあなたは思ったんですね?」
「そうだ」
「とすれば、あなたは誰かに依頼されたり命令されたりしてボスを殺したんじゃないんですね?」
「そうだ」




