河野のひらめき
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やはり、というか確実に問題は発生していた。
「どういうことよ。スコット。あなたが元CIAだったなんて。聞いてないわよ」
ソフィアは完全にご立腹のようで、河野からしてみれば、それも仕方がないような気がした。
「違うんですよ。お嬢さん」スコットは弁明するように言った。
「違うって何が違うのよ?」
「私はCIAとは全く関係がありません」
「どういうことよ?あの警官は確かにスコット、あなたの名前を呼んだうえであなたがCIAだということを言ったじゃない」ソフィアは問いただした。
「きっと何かの間違いですよ。あの男は身に覚えありませんでしたよ」
「そう、だったらどうして、あの男と、まるで知り合いかのように会話していたのよ?その会話がなければ私たち、きっと警察に捕まっていたわよ?」
「確かにそうですね。しかし、私はあの男が言うようにうまく口裏を合わせて、あの男が思い描いている男を演じたまでなんです。そうすることで、あのどうしようもない状況をうまく切り抜けることができる、と思ったものですから。実際のところはあの男のことなんて一切知らないんですよ」
「先生。どう思う?」
「そうですね。私はスコットさんがそういうのならそれ以上は何も追求できない、と思います」
「わかってくれ、おれは本当に何も知らないよ。一つ言えるのは、CIAが何かを仕掛けてきやがったのかもしれないということさ」
「なるほど。確かにその可能性はありますね」河野はうなずいた。
「そうだろう?」
「ええ」
「先生。そんなことで納得できるの?」
「納得できるも何も、スコットさん自体がそういうのなら、それはきっとそうだ、ということなんでしょう」
「信じてくれるのか?先生」
スコットの意見も考えると、河野はどういうことか訳が分からなくなってきていた。
確かに、CIAが何かをしかけてきている可能性はありうる。しかし、何をしかけてきている、というんだ?
河野たちを捕まえるために、仲間割れを画策しているのか?それともほかの何かか?
河野には事件の状況が全く見てとれなくなった。事件のほんの浅はかな部分は簡単に読み解くことができたのだが、事件のもっと深い部分に関してはいまだ闇に包まれたままだった。
今回の警官たちがはっきりと河野に放った事実とはいったいなんだっていうんだ?
河野は一層考えつくした。一晩中、車の後部座席に座り、腕を組みながら、目をつぶって考え続けた。
殺された2人のマフィアのボス。激しい銃撃戦の末に死んだ、スミスさん。彼らの命を無駄にしてはいけない。
この事件では少なくとも3人の命が犠牲になった。その命を無駄にしては絶対にいけない。河野はその3人の命のためにも必死で考えに考えた。
ジャクソン・ウィリアムズはマーティン一家のボスを殺したが、しかし、キャンベル一家のボスは殺していない、と言う。
これはおそらく事実だろう。奴は確かにマーティン一家のボスを殺しただろうが、キャンベル一家のボスを殺した可能性は少ない。
それは、あの状況での部外者からの殺人のやりにくさという事実が証明している。
キャンベル一家のボスが泊まるホテルの部屋の前にはボディーガードが2人いた。
その状況で、部外者の人間が殺人を犯すことはかなり無理があるだろう。
たとえ、スコットが言うようにボディーガードのうちの一人と組んでいた、としても、だ。
いや。今回の事件の浅はかな部分、それは大体、解けているんだ。
河野は考えを別の方向へ向けた。
ジャクソン・ウィリアムズは確かに自分の手でマーティン一家のボスを殺した。そう言っていた。
そのうえ、やつは、ほかの人間に依頼されてやったわけではない、と言っていた。
動機もしっかりしていたし、それは事実と認めざるを得ないだろう。
しかしながら、その裏には何か大きな陰謀があるような気がしてならない。
陰謀があるのは事実だろう。しかし、それがどういうものなのか、はいまだにはっきりとしない。
河野は頭をフルに回転させた。
それに、スコットのことだ。
彼はあの警官が言うようにCIAと関係があるのか?それともCIAが自分たちにゆさぶりをかけているのか?
それはどちらか見当がつかない。
それに野球賭博。これが大きくかかわっていることはきっと事実だろう。そして野球賭博で八百長が行われたこと、そのことが事件の核心部分と何か関係があるに違いない。
すべての事実が向かっている方向へ向かうんだ。そのベクトルが答えを出してくれるに違いない。それが真実で、すなわち、陰謀を解き明かすことにつながるのだから。
河野はさまざまな可能性を思い起こしては捨てるという行為を何回も繰り返した。
殺された二つの組織のマフィアのボス。そしてスミスさん。隠された陰謀。
八百長が行われた野球賭博。
そうだ、ジャクソン・ウィリアムズはその八百長が原因で自らのボスを殺したんだった。
とすれば、やはり、八百長と殺人はかかわって来ることは必然だろう。
とすれば……。そうか……。
河野はここまで来て、ある一つの考えに達した。そして、今まで瞑想のように目を閉じ続けていたことをやめ、目を見開いた。
「そうか」河野は言った。
「そうかって、いきなり叫んじゃって何よ?先生」
ソフィアは驚いたように河野の方を向いた。
「すみません。でも、わかったんです」
「わかったって?」
瞑想を解いた河野の前にはあまりに現実すぎる現実がそこにあった。
「わかったんですよ。ついに今回の事件の真相が」
「わかったの?ついに?事件の隅から隅まで?」
「そうですよ」
「先生が言っていたあの陰謀のこともよね?」
「ええ」
「なるほど。それは一大事だわ」
「ええ。スコットさん。みなさんを集めてください」
「みなさんって?」
「マーティン一家の者から、キャンベル一家の者たちすべてです」
「警察は集めないでいいのか?」
「もちろん、警察も呼びましょう」
「わかったよ」
スコットはすぐにジョン・ウィルソンに電話をかけて、河野が今やりたいことを説明した。ジョン・ウィルソンは何とか敵対しているマーティン一家の連中まで、集めることに努力しようと約束してくれた。
河野は車の窓を開けた、外からはさわやかな五月の風が吹いていた。
新緑が風によってざわめき、太陽はいつの間にか雲の間から顔をのぞかせていた。
すがすがしい天気。
私の推理が正しければ、これですべてが解決するはずだ。
河野は確信を持っていた。そして、すべてを解決すべく、河野たちはジョン・ウィルソンがいるあの場所へ向かった。




