発端
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「先ほど、アンソニー・スチュワート上院議員のご令嬢のオリビア・スチュワートさんが通りすがりの男に殺害された事件について、速報が入って来ました。
どうやらその男はマフィアの末端の構成員らしく、先ほど、警察により逮捕されました。
犯人は金品目当てにオリビアさんを殺害したらしく、警察はより詳しい事情を犯人に聞いています。ニュースを終わります。
5対2です。ファイアーズがウィナーズを圧倒しています」
現職の上院議員の娘が殺されたという悲しいニュースの後、ラジオから激しい歓声と興奮に満ちたような実況の声が英語で聞こえてきていた。
河野卓一にはこの時まさかあんな事件に巻き込まれるなんて思ってもいなかった。
5対2、ファイアーズとウィナーズの最終戦は、大方の予想通り、ファイアーズが3点リードし、試合を優位に進めていた。
ここに大方の予想通り、と書いたのは、ファイアーズの先発投手はエースのトロイであったが、ウィナーズのエースのヒースは第一戦で故障していたため、ウィナーズの先発投手は、2番手のマックスであったからだった。
マックスはその上、第二戦でも大差で負けていたから、てっきり第三戦で好投したヤングを使うと思われていた。
河野卓一は、ちょうどニューヨークの真っただ中で、車を走らせている時だった。
野球には大して興味がない河野だったが、世界一決定戦となれば別だ。自然と国民みんなが注目する行事のようなもので、河野もそれに乗っかる形で車を走らせながら、ラジオを聞いていた。
ゲームは九回に突入し、九回の表は無得点に終わった。
しかし、九回の裏のことだった。
ファイアーズの監督はどういうわけか好投していたエースのトロイに交代を命じ、クローザーのジョージをマウンドに送った。それはいつもの儀式のようにも思えたけれど、常識から言ってカーペンターを続投させた方がずっといいこともわかっていた。
これが大きな采配ミスとなる。ジョージはどういうわけかへなちょこの球ばかりを投げ、投げる球はすべて真ん中に集まった。そして次々と痛打されてついには満塁となった。
これだけ痛打されても、監督はジョージを一切交代させようとはしなかった。続投の判断をした監督はこの後大きな罵声を浴びせられることとなる。
続投したジョージは、どんな球種の球を投げても、ど真ん中に集まるような状態で、痛打されていた。満塁になったその時、9番打者に回ってきた。もしかしたら、相手は九番打者であったから、監督はジョージを続投させたのかもしれない。
ツーストライクとなって、3球目を投げた時だった。思い切り振りぬいて打ち返された弾は見る見るうちにライトスタンドに吸い込まれていった。満塁ホームラン。
「何ということでしょう。歴史に残る大逆転劇です」
実況の男は言った。河野にはその時の実況の驚いた顔が容易に想像できた。5対6で、ウィナーズがサヨナラ勝ちしたのだった。その通り、ウィナーズの歴史に残る大逆転勝利だった。




