抗争の始まり
17
ナタリー・ロドリゲスについては完全に空振りだったと言わざるを得ないだろう。河野はまたしてもの空振りに恥ずかしいばかりだった。
「また、先生の当ては外れたわね」車に乗り込むとソフィアは言った。
「確かに」
「先生の当てはいつも外れやがるから、もう信用するべきではないかもしれないな」
「そこまで言いますか」
完全に打ちのめされた河野は静かな声で言った。
「それにしても、また当てがなくなっちまった」
「もとはと言えば何もすることがなかったから、私はナタリー・ロドリゲスのところへ行こうって言ったんじゃないですか」河野は反発して言った。
「なるほど、先生はだめでもともとだったと言いたいのかい?」
「そうです」
「まあ、どちらにしても同じさ、今となっちゃあ、ナタリー・ロドリゲスは空振りだったし、もう、打つ手はない、と言ってもいいかもしれないな」スコットは残念そうだ。
「確かに、ロドリゲスさん、怒ってましたもんね」
「そうさ。あれは完全に無実だっていうことの証明さ」
「確かに、あれだけ怒っていて、うそをついてればかなりの役者ですよね?」
「でも、ナタリー・ロドリゲスは女優よ、それだけのことはやってのけるかもしれないわよ?」
「そういえばそのことを忘れていました」
「それにしても、次なる手を考えなければ、かなりやばいんじゃないのか?」スコットは言った。
「そうですね。私としても、もう打つ手はないです」
「何だ?さすがの先生もネタ切れか?」
「残念ながら」
「なるほど、これは困ったな」
4人の間に沈黙が流れた。そんな時だった。突然、スコットの携帯電話が鳴り響く。
「もしもし?」
スコットは車を路肩に停車させて電話を取った。スコットはしばらく話をすると、電話を切った。
「誰からだったんだ?」スミスはすかさず尋ねた。
「キャンベル一家の上層部からだった。ジョン・ウィルソンからだよ」
「ああ、あのアフリカ系の背の低い男か」
スミスはしばらく考えてから、言った。
「それでいったい何の用で電話が掛かって来たんだ?」
「お嬢さん、どうやら、マーティン一家がついに宣戦布告をしてきたらしいです。キャンベル一家の下っ端のもんがマーティン一家のもんとけんかになったらしいです。それでそのキャンベル一家の下っ端は大けがを負ったけれど助かったんですが……」
「なるほど、確かにやつら、ボスを殺されたんだから、当然か」
「それで、やつら、キャンベル一家に俺たちを引き渡せって言ってきたらしいんです」スコットは残念そうに事情を話した。
「なるほど」
「それで、俺たちをかくまうかどうか話し合いたいから、俺たちに会いたいって電話が掛かってきたんです」
「しかし罠かもしれねえ。やつら、俺たちをとっつかまえてマーティン一家に引き渡し、それで事なきを得ようって考えてやがるんだ」
スミスは口をはさんだ。
「警察はどうなんです?警察に知られていないっていう保証はあるんですか?」
「警察には言わないって言っていた」
「なるほど」
「罠かもしれないが、かくまってもらえるチャンスかもしれないんだぞ?」
「確かに。いくら、キャンベル一家のものでも、部下を殺されかけて黙ってるわけがないわ。その上、忘れちゃいけないことはキャンベル一家のボスである父さんが、マーティン一家の刺客に殺されたと信じている連中もいるはずだってこと。つまり、キャンベル一家のものもマーティン一家のものと抗争になることは覚悟しているのかもしれない」ソフィアは冷静に分析した。
「そうでしょうが、マーティン一家のボスが殺されたことをキャンベル一家の人間はまだ知らない、という事実も忘れてはいけませんよ。あくまでキャンベル一家の人間は八百長のせいで今までたまって来たうっぷんが爆発しただけだと思い込んでいるのかもしれませんからね」
「そうかもしれない」
「でも、キャンベル一家の人間に会うことは価値があることだと思いますよ」河野は言った。
「どうして?」
「だってそうでしょ?今まで逃亡生活を続けてきたけれど、何も得るものはなかったじゃないですか。いつまで逃亡生活を続けられるかわかったもんじゃないし、それにもう、私は飽き飽きしてきたんですよ、この逃亡生活が。このくらいのところで、キャンベル一家と話し合いをしませんか?」
「そうだな。だめなら逃げればいい。銃もあるしな」
スミスは言った。
「そうね、私もこの逃亡生活をいつまで続けるか疑問に思っていたところよ」
「決まりだな」スコットは言った。
「で?どこでやつらと会う約束にしてるんだ?」
「あの廃墟だよ」
「あの廃墟?」
「先生は一度連れて行ったからわかるよな」
「あそこですか」
「あそこか」ソフィアは心当たりがあるらしく言った。
「確か私が目隠しをされて連れていかれたところですよね?」
「そうだ」
河野が一番最初にキャンベル一家のボスであるウィリアム・キャンベルと会ったところだ。
「もう、目隠しをしろ、なんてことは言いませんよね?」
「あそこはおれたちにとって、とっておきの場所だから、本当はそう言いたいんだが、時間もないし、そういう状況じゃないからな」
「なるほど、じゃあ、俺たちはそのキャンベル一家の秘密の場所とやらに今回は特別に連れて行ってくれるわけだな?」スミスは言った。
「仕方ないな。だが、なるべく口外は避けてほしい」
「大丈夫なのかよ?キャンベル一家の秘密の場所を、マーティン一家のおれに教えても」
「大丈夫も何も言ってられないからな」
「まさかこんな事態に陥ってまで、目隠しをさせられたんじゃたまったもんじゃないですからね」
「なるほど、俺がその場所を知った後、口封じのために、まさか殺されるわけじゃないだろうな?」
「まさか」スコットはスミスの冗談に笑った。
河野たちはあの、最初にウィリアム・キャンベルとあった場所にまた、行くことになった。
何が出てくるのかわからない。キャンベル一家は味方なのか?それとも敵なのか?それは河野には全く見当がつかなかった。
いずれにしても、緊張で体がぶるぶる震えるような交渉になるに違いない。
「やれやれ、また、あの場所に戻るのか」
河野は懐の拳銃を握りしめた。車の中でも、ほかの3人の張りつめた緊迫感が、ひしひしと伝わった。




