八百長についての考察
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何の解決策さえも見つけ出せずに、時間だけが過ぎて行った。本当にもう、これ以上、何も進むべき道がないようにさえ思えた。
自然と車内は無言に包まれた。それは完全にほかのだれもが落ち込んでいたことを証明していた。
あの後、車に乗り込んだ後、ジャクソン・ウィリアムズがほとぼりが冷めると部屋に帰ってくるかもしれないと踏んだ河野たちは、そこで張り込みを続けた。
しかし、何時間たっても、ジャクソン・ウィリアムズは戻ってはこなかった。だから、一行はもう、ジャクソン・ウィリアムズを待ち伏せすることはあきらめて、ほかのことを考えることにした。
「どうするよ。こうなっちまってしまった以上は、何も手立てがないっていうもんだ」スミスは残念そうに言った。
「いったい、どうするのよ。このまま・ジャクソン・ウィリアムズが戻ってこなかったら……」
「確かにここでずっとやつを待っているわけにもいかないな」
「じゃあ、どうするのよ。次なる手立てを考えなければ、何も解決しないじゃない」
ソフィアは機嫌が悪い。いつものことであるが、彼女は息づまるといつもこうなることに河野は気づいていた。
「あの、大変恐縮ですが」河野は言った。
「何だい?先生。何かいい案でも思いついたのか?」
「いい案ってわけでもないんですけれど、もう一度原点に戻ってみるっていうのはどうですか?」
「原点に?」
「ええ」
「原点って一体、何に戻るんだよ、もっとわかるように説明してくれよ」
「原点、とはつまり八百長です」
「なるほど、先生はもう一度、八百長の事件を追いたいっていうわけだな?」
「そうです。八百長の事件があったから、今回の殺人事件が起き、冤罪を掛けられた私たちは追われる立場となっているのです」
「確かにそうだ。俺たちは何かと言えば逃げることばかり考えてるが、もとはと言えば八百長が悪いんだ」
「ですから、殺人事件を解決するよりかは、八百長の事件をまず解決したほうがいいような気がするんです」
「なるほど。名案かもしれねえ」スミスは言った。
「でしょう?」
「八百長の事件を追うっていうことにするのはいいが、八百長の事件の何を追うっていうんだ?」
「僕は八百長を行った犯人は何らかの形で利益を得ていると思うんですね、例えば、あの野球賭博で大もうけした人をあたって見たりするんです」
「なるほど、その中に犯人がいるかもしれねえ、って考えてるんだな?先生は」
「ええ」
「でもよ、先生。八百長の事件を追うことで、本当にキャンベル一家やマーティン一家のボスを殺した奴にたどり着くことができるもんなのかね?」
「わかりません」
「わからない?」
「ええ、しかし、これだけは言えます。一つの事件を解決すればそれが将棋倒しのようにもう一つの事件を解決することはままあるはずなのです」
「なるほど、もう一つの事件っていうのはキャンベル一家や、マーティン一家のボスを殺した犯人をあぶりだすっていうことか」
「そうです。その可能性はあります」
「しかし、キャンベル一家やマーティン一家のボスを殺した犯人は、ジャクソン・ウィリアムズじゃなかったのか?」
「そうです。おそらくその可能性が高いでしょう」
「じゃあ、どうして八百長の事件を追う必要があるんだい?」
「やつの居場所がその事件を追っているうちにわかるかもしれない」
「なるほど」
「それに、私は思うんですが、なにか、こう、犯人は奴だけじゃないような気がしてるんです」
「では、共犯だと?」
「いえ、わかりませんが、何かこの二つに事件は大きな野望のもとに動かされているような気がするんです」
「なるほど、私たちはその大きな野望のせいで、警察からも、マーティン一家からも追われる身になったわけだ」ソフィアは言った。
「そうです」
「ならば俺たちは言ってみれば被害者みたいなもんだな」
スミスは言った。
「そうです」河野は答えた。
「じゃあ、先生、俺たちは一体何をすればいいんだい?」
「簡単なことですよ、あの野球賭博で大もうけした人物を探せばいいんです」
「大儲けした人物が八百長を仕掛けた可能性が高いってか?」
「ええ、八百長を仕掛けて自分でごっそり儲けたんです。その可能性はあります」
「なるほど」
「みなさん、そういう人、知ってませんか?」
「うーん。俺はちょっと心当たりがないな」
「俺たちはどっちかっていうと末端の人間だから、そういう大儲けした人間についての情報は入ってこねえな」スコットは言った。
「そういえば、聞いたことがあるわ」意外なことにソフィアは言った。
「何か知ってるんですか?」河野は意外にもソフィアが何か知っていることに驚いた。
「ええ、確か、父さんが言ってたの」
「言ってたって何を言ってたんですか?」
「一般市民の人間で大もうけしたやつがいるって言ってたのよ。それはもうその時は苦虫をかみつぶしたような顔で言っていたわ。父さんとしては自分より儲けた人間が悔しかったのかもしれないわね」
「なるほど、で、それは一体誰なんです?」
「ナタリー・ロドリゲス」
「ナタリーって女ですか?」
「ええ、そうよ」
「ナタリー・ロドリゲス、それにしてもどっかで聞いたことある名前だな……」
「当然よ、彼女は芸能人なんだから」
「芸能人?」
「ええ、彼女はニューヨークでも有名な、高級住宅街に住むセレブよ」
「なるほど。厄介な相手かもしれませんね」
「確かに、女で賭け事をやるっているうえに芸能人ということはそれなりの度胸を備えてるでしょうから、かなりやりにくいかもしれませんね」
「とにかく、それしか道はねえんだ」
「先生が言うにはな」スコットはスミスの言うことに付け足しを入れた。
「そうですよ。こんなとこで、くすぶってるわけにはいきません。前へ進むのみですよ」
「先生、その意気だ」
ジャクソン・ウィリアムズを待ち伏せするのをあきらめ、とまっていた車はまた動き出した。まだ希望は残されているのかもしれない。
そんな夕方のことだった。




