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ソフィアの活躍


13


 ジョン・マルティネスが紹介してくれたジャクソン・ウィリアムズに近しい男たちの居場所は、ハドソン川の波止場の倉庫だった。海がすぐ近くまでやってきていて、潮の香りがした。

 多くの波止場がそうなようにコンクリートで地面は塗り固められ、海に近い川がすぐそこまでやってきていた。

 春だというのにそのあたりはどこか殺風景で、どうにもとっつきにくいような気持にさせた。

 車を降りると、潮風が吹き付けた。さっきスコットに貸してもらった銃を強く握りしめて、倉庫に向かった。今ではもうその銃は手になじんで、それに対する恐れはなくなり、どちらかと言うと自分を守ってくれる道具に対して安心感さえ抱いていた。小型の銃だったが、それでも十分身を守るだけの力はある。

 強い風が体に吹き付けた。倉庫の間を通って風は唸るように声を上げ、河野の気持ちを揺らがせた。

入り組んだ倉庫群の中を歩いていき、一つの倉庫の前に、河野たちは立っていた。

「ここだ」スミスは教えられた番地をもう一度確かめた。

「ついに来たんだな」

「ああ」

「もうここまで来たんなら、引き返す必要もない。奴らをぎゃふんと言わせて、聞き出すものを聞き出せばそれでいいだけよ」

 ソフィアは相変わらず強気だった。

「その意気ですお嬢さん」

 スコットは言った。見ると、スコットは片手を懐につっこんでいた。彼はおそらくその手で、銃を握りしめているらしい。

「じゃあ、開けるぞ」

「ああ」

 ガラガラと音が鳴る。大きな倉庫の扉を開けた中にはジャクソン・ウィリアムズの仲間と思われる男が、持ち運びが簡単な簡易の椅子に座っているようだった。

 その男は煙草を吸っていて、座っているので、身長はどれくらいかわからないが細身の、見るからにガラの悪そうな男だった。これぞ、マーティン一家の末端というような男だ。

 彼の仕事はマーティン一家にとってどういう形で役に立っているのかは見当もつかなかったが、この波止場の倉庫で何か番をしているような雰囲気であった。

 倉庫が開いたのを見たとたん、その男はこちらに目を向けた。

「何か用か?」男は言った。

「ああ」

「おまえら、ここがマーティン一家の大事な倉庫だっていうことがわかってんのか?」怒鳴り散らすようにその男は言った。

「そんなにでかい声を出さずともわかってるよ」

 スミスはその声にイラつくような口調で言った。

「じゃあ、何のようだっていうんだ?」

 男は言った。こちら側が四人だとしても物怖じする気配は一向にない。

「ジョシュア・スミスっていうんだが」

「ジョシュア・スミス?どっかで聞いた名前だな」

「思い出せないのか?」

「あ、お前ら、まさか、ボスを殺した奴らじゃないのか?」

「そうなってしまっていることは残念だが」スミスは言った。

「そうかい、おまえら、それで俺に何の用なんだ?」

 その事実を知ってか、突然、その男はにやにやと嫌な笑みをしだした。

「ジャクソン・ウィリアムズの行方を知ってるか?」

「知ってたらなんだっていうんだ?」

「知ってるのか?」

「ああ、知ってるよ」

 その男の顔は前にもましてにやにやしていた。

「じゃあ、教えてくれないか?」

「それはできねえな。そしてお前らをここから帰すこともできねえ」

「帰すこともできねえだと?」

「ああ。おまえら、よく、見てみな」

「いったいなんなんだ?」

「上の方をだよ」

 河野は倉庫の上の階を見た。倉庫は二階建てになっていて、ちょうど河野が入ったところあたりは吹き抜けになっていて、二階からは簡単に見下ろすことができるだろう。

 そして最もびっくりしたことには、その二階の両脇には二人の男が銃を構えて、河野たちを狙っているではないか。

「しまった」

 スミスは言った。河野やスコット、ソフィアでさえも固まって中に入ってきていたから、標的にするには格好の位置だった。

「おっと、動くんじゃねえ、動くとおれの仲間がお前らをハチの巣にするだけだぜ?」

「どうするつもりだ」

 スコットは言った。

「当然、お前らをマーティン一家の上層部に引き渡すつもりだよ。ごっそり報酬をいただいてな」

 その男はやはりにやにやしながら言った。

「そういうことかい」

 スミスは苦虫をかみつぶしたような顔になって言った。

「さあ、お前ら、銃を捨てな」

「……」

「あんたたちを生きてマーティン一家に引き渡すことは重要だが、死んでても一向に構わねえんだぜ?死体がお前らかどうか判別できればいいだけだからな」

「まあ、どうせ、死ぬのが早くなるか遅くなるかのどっちかだがな」

上方から声がした。勝ち誇ったような声だった。奴らはそれから一斉に趣味の悪い笑い声を出した。

「さあ、早く」

「仕方ねえ、従うしかねえか」スコットとスミスは懐から銃を捨てた。

「おっと、待ちな。その学者面した賢そうな先生もだ。持ってるだろ?」

 河野は銃を捨てた。

「お嬢ちゃんは銃を持ってないよな」

 にやにや顔の男は言う。

「ちくしょう」ソフィアは言った。

「おっと、お嬢ちゃん、騒がないでいただきたいね。まあ、騒いでも助けはこないだろうけれど」

 何か手はないか?河野は必死でその頭で考えた。二人の男が上方からピストルを構えて狙っている。一人は自分たちと同じ高さにいて、上方からの援護があるから大きな態度で油断しきっているには違いない。

 いま、男の言うとおりに助けを呼んでも、こんなさびしい波止場に助けはやってこないだろう。

「私をお嬢ちゃん呼ばわりするな」

 ソフィアは完全に相手の挑発に乗る形で完全に激昂している。

「お嬢ちゃん、あんたよく見ると本当きれいだね」

「うるせえ」

 銃を捨てさせた安心感からと、上方から仲間が援護してくれる安心感からか、男はソフィアに近づいてくる。

「近づくんじゃねえ」

 ソフィアは言った。それでも男はにやにやしながら、ソフィアに近づいてくる。

 男がソフィアのすぐ近くまでやって来た。それから、男はソフィアの体に触れようとする。

「動くな」

 その時だった。男の頭に突き付けられた銃。ソフィアが持っていたものだった。恐ろしく小型のもので、護身用のものであることは歴然だった。

「手を挙げろ」

 男は何も言わずいうとおりにした。

「お嬢ちゃん、あんた、本当に撃つ勇気なんかあるのかい?」

 男はやはり笑っていた。しかし、今度の笑いは恐怖を必死で隠そうとするような笑い声だった。

「そうかい」

 ソフィアはそう言うと。銃を発砲した。一発高らかと倉庫内に音が響く。

「うぎゃあ」

 そのあとに悲鳴とも嗚咽とも言い難いその声が倉庫内に響いた。男の声だった。ソフィアの撃った弾は男の左腕を貫通していた。男は必死で、左腕から滴り落ちる血液を止めようとしている。

「わかった、もう、わかった」

「わかったなら、ジャクソン・ウィリアムズの居場所を教えな」

 ソフィアは逃げるどころか、その男に尋問を始めたのだった。

「ちくしょう、わかったよ、やつは、ハーレムのウェスト3000ストリートのカーペンター・マンションの302号室に住んでいやがるよ」

「みんな銃を拾って」

 河野たちはみんな銃を拾った。それから、一歩一歩人質を取りながら、工場の出口まで下がった。

 上方にいた男たちはいつの間にか、下の階に下りてきていて、人質を放すのを今か今かと待っていた。

「とまりなさい」

 ソフィアは男たちに言った。男たちは止まるよりほかなくソフィアたちは人質を取りながら、車の近くまでやってきた。男たちは車に乗り込む河野たちを見ていまいましそうに見つめていた。

 人質を車の後部座席の真ん中に乗せて、スコットは車は出発させた。

「いつになったら解放してくれるんだ?」男は言った。

「心配しなくてもすぐに解放するわ」

 ニューヨークの街をしばらく行って、人気がない場所に近づいてくるとスコットは車を停めた。

「そろそろ解放してもいいころじゃないですか?」

「そうね」

 ソフィアはそう言うと合図を送った。河野が車を降り、人質を解放した。人質を解放し、また河野は車に乗り込んだ。

「ちくしょう、覚えてやがれよ」車が出発するとき、男は言った。

「ソフィアは何も言わずに車を出発させる合図を送った」


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