ジャクソン・ウィリアムズの行方
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「そんな、頼りなのはマーティン一家の構成員である、あなただけなんですよ、スミスさん」河野はわらにもすがる思いで言った。
「せっかく目的と言うものができたのに水を差すようで悪いが、俺はジャクソン・ウィリアムズのことが嫌いだったから、あの男の行方が分からねえ」
「それじゃあ、住んでるところくらいはわかりますよね?」
「わからねえ」
「じゃあ、連絡先くらいは」
「わからねえよ」
「そんな、それじゃあ、何もかもお手上げじゃない」
ソフィアは落胆した。せっかくの良案を台無しにしたくはなかったが、これではあきらめるよりほかない。
「ちょっと待ってくれ、あきらめることはできるが、手はある」
スミスは言った。
「どんな手があるっていうんだよ」スコットはスミスを責めるように言った。
「危険が伴うがそれでもいいというならば、手はいくらでもあると思うぜ」
「仕方ないわ、危険が伴っても前に進まなければならないことは確実なの」ソフィアは言った。
「わかった、俺は、確かに、ジャクソン・ウィリアムズの行方は知らねえ。しかしながら、マーティン一家の仲間で、俺に近しい人物の連絡先は当然知っている」
「なるほど、その近しい人物から、連絡先を聞き出すっていうんですね?」
「そうさ。その近しい人物が連絡先を知らなくとも、そいつの連絡先の中にある人物が、ジャクソン・ウィリアムズの居場所を知っているかもしれねえ。そうやって、順繰りに、ジャクソン・ウィリアムズの行方を聞き出して行けば、いつかはあの嫌な奴の居場所を知ることができるっていうことさ」
「よし、その手で行こう」ソフィアは言った。
「しかし、これだけは言っとくぜ。危険は伴うことだっていうことを忘れるなよ」
「確かに、私たちはマーティン一家のボスを殺したと彼らに思われている以上、彼らは、私たちを捕まえようと躍起になっているでしょうからね」
「当然のことだ。やつらは警察よりもずっと早くに俺たちを捕まえて、自分たちの手で、世界で最もひどい手を使って俺たちを殺そうとしていることには違いねえからな」
「それを言われると少し悩んでしまう」
ソフィアは少し弱気になった。
「そんなことを言っててもダメですよ、ソフィアさん。私たちは前に進むしかないんですから」
「もちろん、細心の注意を払って、一番信頼のおける仲間に話してみるつもりだが、それでもどうなるかわからねえ」スミスは言った。
「いつまでも逃亡生活を続けるわけにもいかないしね」ソフィアは言った。
河野たちはついに先へ進むことに決めた。スミスは彼の言う最も信頼のおけるはずの仲間に連絡をした。連絡は取れ、交渉は思っていたよりも簡単にできた。
「会ってくれることになったぞ」スミスは電話を切ると言った。
「そうですか。よかった」
「しかし、気を緩めるのは禁物だぞ。これはマーティン一家が仕掛けた罠かもしれないのだからな」
「確かに、こちら側と連絡を取っておきながら、マーティン一家の上層部にも連絡を取って、わなを仕掛ける。よくある話ですからね」
「そうだ。俺の仲間はいくら信頼がおけると言っても、マーティン一家の一員であることには違いないんだからな」
「そうですね。油断しないようにしましょう」
河野は言った。15分ほどスコットは車を運転し目的地に着いた。待ち合わせ場所は、ニューヨークのとある雑居ビルの空室だった。マーティン一家に気付かれるとまずいから、と言うことで、相手方はその場所を指定してきたのだが、よくよく考えると、そこは待ち伏せにも格好の場所であることは簡単にわかった。
午後の明るい日差しが車を降りた河野たちを照らした。新緑の季節とあって、街角に植えられた木々は緑色の青々とした葉を全身にまとっていた。
待ち合わせ場所の雑居ビルは、それらの木々のうちの一つのすぐ近くにあった。一階は雑貨などを売っているひっそりとした店が入っており、店の前の道路はまあまあ広いにもかかわらず、人通りは少なかった。
横断歩道の信号青から赤になるために、点滅していた。まばらに信号を待つ人間がいて、青になるのを今か今かと待ちあぐねていた。
雑居ビルの階段はコンクリートでできた頑丈なものであったが、築年数はかなりたっていると見えるうえ、掃除もされていないことが簡単にわかるくらい汚く老朽化も進んでいた。階段は昼間でも薄暗く、どことなくさびしい雰囲気だった。
そのまま階段を上がって、3階まで行くと、待ち合わせの場所だった。
308号室は空室だった。その空室は普段は誰も使っていない様子で、手入れというものが全くなされていなかった。とりあえず、その空室を借りて利用する人間は今のところ誰も居ないようだった。空室の前までやって来ると急に緊張感が増してくる。
果たしてその奥に待ち受けている物は、罠なのか、それとも先へ進むための道しるべになってくれるのか。河野には全く見当もつくわけがなかった。
その確率は半々だった。50パーセント。それが河野たちに用意された助かる確率である。裏を返せば残る50パーセントは罠ということになるわけで、それはとても恐怖に満ちた賭けだった。
「じゃあ、みんな、入るぞ」スミスが空室の扉のノブに手を掛けた。
「よお、スミス」
扉を開けた向こうには、背が高いとも低いとも言い難いような、普通の体系の男が立っていた。アフリカ系で、その部屋が明るくもないのにサングラスをしている。
「ジョン・マルティネス、久しぶりだな」
スミスは恐る恐る部屋の中に足を踏み入れた。罠かもしれない、スミスは恐れていた。扉の裏側に、もしかしたらマーティン一家の人間が隠れていて、スミスたちをとっ捕まえようと待ち構えているかもしれない。
「何ビビってんだ、スミス、お前らしくもない」
「ビビってなんかいねえよ」
スミスは部屋の中に入り、あたりを確認してから、入ってもいい合図を河野たちに送った。河野たちは安全が確認されたようなので、部屋の中に入ることにした。
「スミス、お前たちはボスを殺した犯人なのか?マーティン一家の者の間では大体そういう風になってるぜ」
「俺たちはやってねえよ。第一、俺はボスに恩があるのにそんなことはしねえ」
「なるほど、まあ、お前さんにボスを殺すだけの度胸もないことくらいわかってるけどな」
「うるせえよ」
「それに、お前さんはボスを殺したら、どうなるかと言うことがわからねえほど馬鹿な奴でもない」
「よくわかってるじゃねえか、さすがだな」
「ほめる必要なんてねえさ、それでお前たち、俺に何の用なんだ?」
「おまえだから頼むんだが、ジャクソン・ウィリアムズの行方が知りてえ」
「あの嫌われ者か」
「そうだ」
「あいつに会って何をしようっていうんだ?」
「あいつはボスが殺されたことで何か知っているらしいんだ」
「そういうことか。おまえらは自分たちがボスを殺していないことを証明しようって考えてるんだな?」マルティネスは簡単にこちらの真意を悟った。
「そういうことさ」
「しかし、やつらはそんなこと待っててくれねえぞ。見つけ次第ハ
チの巣にされるのがオチだと思うがな」
「やって見なければわからねえさ」
「なるほど、ジャクソン・ウィリアムズの行方ね」
ジョン・マルティネスはその言葉をかみしめるように言った。
「知ってるのか?」
「知らねえよ」
「なんだ」一同は落胆した。
「しかし、落ち込むのはまだ早え」
「何か知ってるのか?」
「おまえら、危険を覚悟の上でマーティン一家の人間に近づくのか?」
「それはもう、お前に会う前にみんなで相談したことだ」
「なるほど、俺もマーティン一家の人間だったな」
「そういうことだ」
「とすると、俺も、お前らに取っちゃあ、敵になるわけだな」
「そうじゃないことを祈っていたさ」
「そんなことはどうでもいい、なるほど、覚悟はあるらしいな」
「ああ」
「危険を覚悟しているんだったら、やつらに会うっていう手もありかもしれねえ」
「やつら?」
「ああ、ジャクソン・ウィリアムズに近しいやつらさ」
「なるほど」
スミスは言った。
「しかし、やつら、嫌われもののジャクソン・ウィリアムズと仲がいいだけあって、下手するとえらい目にあわされることになるぜ?」
「それでも、俺たちは前に進むしかないんだよ」
「なるほど、よおくわかった。これから奴らのたまり場を教えてやろう」
「感謝するよ、ジョン・マルティネス」
ジョン・マルティネスはジャクソン・ウィリアムズに近しい間柄の連中について教えてくれた。
そいつらはとても危険らしいことを聞いて河野はこれからの道のりが厳しいことを予感していた。




