真犯人?についての考察
11
どうにか警察の目を逃れて、河野たちはニューヨークの街中を走っていた。車は相変わらずスピードを出していて、河野はスピード違反で警察に捕まらないかびくびくしていた。
何度もそのことについてスコットに注意はしてみたものの、どうしても気がせくのか、車のスピードは上がっていた。幸い、今のところは警察には捕まることはなかったけれど、それをどうにかしないといけないことは河野にもわかっていた。
昼過ぎのことだった。
「お腹が減ったわ」ソフィアは突然に言いだした。
「確かに、俺たちは昨日の夜から何にも口にしてないな」
確かにそうだった。河野たちは昨日の夜からずっと食べ物らしい食べ物を口にしてはいなかった。
「じゃあ、そのへんでドライブスルーにでも寄るとするか」
「そうだな。レストランでゆっくり食事、っていう気分じゃないしな」スミスは退屈そうに言った。
「それに金の問題もある」
「確かに、いつまでこの逃亡生活を続けなければならないかわかったもんじゃないからな」
「じゃあ、手ごろな場所のドライブスルーにでもよるとするか」
スコットが車をしばらく走らせると、ファーストフード店が道路沿いにあった。
しかしそのファーストフード店のドライブスルーはちょうど昼過ぎ、と言うこともあり、かなり混んでいた。
「ちくしょう、これじゃあ、ハンバーガーを食べる前に日が暮れちまうぜ」スコットは言った。
「しかし、ほかのドライブスルーでも同じだろうよ」
「じゃあ、どうするんだ?」
「仕方ないから店の前に車を停めて、買いに行くとしよう」
「確かに、それは名案だな」
スコットは言ったとおりに車を店の前に止めて、ハンバーガーを買いに行くことにした。
「俺とスミスで買いに行ってくるから、二人は車で待っていてくれ」
「わかりました」
「じゃあ、スミス、行くぞ」
「わかった」
スミスとスコットは車を離れ、ハンバーガーを買いに行った。
「そういや、ありがとうね」
スミスとスコットがいなくなるとソフィアは言った。
「何がです?」
「いや、あの時だよ、私が警察に捕まりそうになったとき。素直に助けてくれて感謝してるのよ。私は」
「気にすることないですよ」
「そのせいで、あなたたちを警察からも追われる身にしてしまった。私は少なからずそれに関しては反省してるの」
ソフィアはうつむいて言った。
「どうせ追われる身だったら、ソフィアさんも助けてあげればいいじゃないか、って思ったんです」
「そう。感謝してるわ」
ソフィアはどことなく顔を赤くし、言った。彼女はとてもきれいだった。父親譲りの金色の髪の毛が河野にはそのときとても魅力的に思えた。
ソフィアにはさっきまでのおてんばな面はどこに行ったのか、わからないくらい、大人っぽく見えた。
「それで先生、これから、どうするの?」
「どうしましょう。私にだってプランはないんです」
「なるほど。もうこのまま二人でどこかへ行ってしまわない?」
「スコットとスミスを置いてですか?」
河野はソフィアの発言にびっくりした。彼女は顔を相変わらず、うつむけて、その上、赤らめている。
「冗談だよ。あの二人を置いてはいけない」
「そうですよ。気を確かに持ってください」
「そうね。あの二人を置いていくっていう発言はあまりにも自己中心的過ぎたわ」
「そうですね」
「どうかしてんだ。私。父さんを亡くしてから」
「そうですね。とても気の毒に思います」
「でも、先生、これだけはわかって、私はあなたにとても感謝してるのよ」
「わかってますよ、あなたの気持ちは良くわかりますよ」
「本当?」
「ええ」
そういうとソフィアはうれしそうにはにかんだ。そして彼女は自らの顔をゆっくりと河野の顔に近づけた。
「何です?いったい」
河野は少し驚いたように言った。
ソフィアの顔が河野の顔に一つまた一つとゆっくり近づいてくる。二人の口と口が合いそうになったその瞬間であった。
「コンコン」
窓を軽くノックする音が聞こえる。二人は驚いたようにお互いの顔を離し、そちらを向いた。
「買って来たぞ」スミスは言った。
「ああ、ご苦労さん」
ソフィアはいつもの状態に一瞬で戻り、そのあとは最初から何もなかったかのようだった。二人が近づいたことを見られたのか?河野はそのことについてひどく恐れた。
ソフィアはそのことについて何も気にしていない様子であった。
スミスは何も言わなかったので、見られていなかったのかもしれない。それとも、スミスは二人の間に気を使ってくれているのか?河野は頭の中をフル回転させてそのことについて考えた。
頭をフル回転させればさせるほど、河野は顔を赤らめて行った。
しかし、いくら考えても、その答えは見つからなかった。
しばらくするとスコットも戻ってきて、袋の中にはハンバーガーなどの食べ物が入っていた。
「それでこれからどうするの?」
さっきまでとは打って変わってハンバーガーをほおばりながら、ソフィアは言った。もちろん、彼女はハンバーガーをほおばった後、飲み物を口にすることを忘れなかった。
「どうするって、このまま逃亡生活をしていてもいつかは金もなくなって、降参することになるでしょうから、いつかは攻めに出なければならないでしょうね」スコットは言った。
「じゃあ、いつなのよ」
「それがわかれば苦労はしませんよ」
「あ、そうか」
河野は何かを思いついた。頭をフル回転させただけのことはあった。こういった行き詰った状態で打開策を示せるのは、いつも河野だけである。
「何か思いついたのか?先生」スミスは言った。
「いや、私、ずっと考えてたんですよ」
「考えてたって何を?」
「考えてたんですよ、最初の殺人のことを」
「最初の殺人って、マーティン一家のボスが殺された時のことかい?」スコットは言った。
「ええ」
「あの事件に何か気になることでもあるのかい?」
「ええ。あの事件、確かにマーティン一家のボスは殺されていました。しかし、私たちはやっていない」
「それは当然のことだ」
「マーティン一家のボスは私たちが彼を訪問する前に殺されていたことになる」
「確かに」
「ということはその前に訪問した人物とは?」
「そうか、ジャクソン・ウィリアムズ」スミスは思いついたように言った。
「誰だ?それは」スコットは言った。
「あの男だよ、ボスに会いに行く前に酒場ですれ違った」
「あの男か。評判の悪いって言っていた」
「あの男に違いねえ」スミスは憎しみを込めた声で言った。
「そうか、そういうことだったのか、俺たちは逃げることに夢中で、何も考えちゃいなかった。奴がマーティン一家のボスを殺した張本人だったのか」
「そういうことです。まだ決めつける段階ではないですが、可能性は高いです」
「しかしよう、先生。俺のボス、つまりマーティン一家のボスは眉間を銃で撃ち抜かれて死んだわけだよな?」
「そうです」
「俺たちがあのボスの部屋に入る前にジャクソン・ウィリアムズは部屋に入ったわけだが、銃声も何もしなかったぜ?第一、銃声がしていたら、ボディーガードが黙っちゃいねえんじゃねえか?」
「簡単なことですよ。サイレント機能を付けた銃を使えば簡単に音を立てずに殺すことができるはずです」
「なるほどな」
「マーティン一家のボスに信頼されているジャクソン・ウィリアムズならば、簡単にボスのすぐ近くまで近づけたはずです」
「なるほどな」
「それですぐに拳銃を取り出し、ズドン。マーティン一家のボスは即死だったに違いありません」
「確かに、あの男ならやりかねねえ」
「どういう理由があれ人殺しはいけません」
「それに俺たちに罪をなすりつけやがったんだからなおのことだな」
それは偶発的なものとはいえ、河野たちを窮地に追い込んだのだから到底許せるものではなかった。
「そうですよ」
「ということは、俺たちはジャクソン・ウィリアムズを探せばいいわけだ」
「そういうことです」
突破口が開けた時だった。少なくとも、ジャクソン・ウィリアムズはマーティン一家のボスを殺した件について何か知っているに違いない。河野はそう確信した。




