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始まりと原因


 アンソニー・スチュアート上院議員は、今朝も妻に作ってもらった軽い朝食を食べ、車に乗り込むところだった。

 彼はいつも朝食には軽いものを食べていくことにしている。あまり食べすぎると眠くなるうえに、おなかが張って仕事がしにくいからだ。

 ニューヨークを基盤に活動してきた彼は何もかもが普段通りであることに満足していた。

 代々引き継いできた郊外の豪邸に住むスチュアート家は豪邸と同じくらい広い敷地を持った庭があった。刈りそろえられた緑の芝生に、きれいに切りそろえられた庭木、すべてが完璧だった。その庭を眺めながらスチュアート上院議員はとても幸せな気持ちになった。もうすぐ娘にも婿が来る。そうすれば、スチュアート家はまた繁栄することになるだろう。

「グレース、行ってくるよ」

議員は妻に軽くキスをして出迎えの車に乗った。

「行ってらっしゃい、あなた」

妻のグレース・スチュアートは議員を、手を振って見送った。

 車にはお抱えの運転手がいてサミュエル・リベラと言う。

「サミュエル、今日は急いでないから、少しゆっくりと走っても結構だよ」議員は言った。

「そうですか、スチュアートさん。では、出発します」

 車は議員がびっくりしないようにゆっくりと発進し、いつものようにスピードを上げずに走った。いや、議員がゆっくりでいいと言ったから、いつも以上にスピードを上げずに走った。窓の外の景色が本当にゆっくりと移り変わる。

「もうすぐ野球の世界一決定戦ですね」

 サミュエル・リベラは突然に、車をゆっくりと走らせながら言った。

「ああ、そうだね」

その日の新聞に目を通していた議員は聞いているのか聞いていないのかわからないような返事をした。

「もう、対戦カード、決まってますよね?」

リベラはわくわくして言った。

「そうなのかい?」

「どこでしたっけ、確かわれらがウィナーズと……」サミュエル・リベラは少し考え込んでウィナーズの対戦相手を思い出そうとした。

「ファイアーズだよ」

「ああ、そうでした。ファイアーズでしたね。よくわかりましたね、スチュアートさん。私はてっきりあなたは野球に興味がない人間だと思ってましたよ」

「確かに私は野球にそれほど興味はないけれどね、書いてあるんだよ、新聞にでかでかと」

「なるほど。そういうことでしたか」

「そういうことさ」

「どちらが勝つんでしょうね?」

「私にはそんなことどうでもいいんだよ」

スチュワート上院議員は新聞に集中した。

 車内にはスチュワート上院議員がとても気に入っているクラシックのオペラが流されていた。車内はいつもの平和な空気が流れ、何も起こらない日常の幸せをスチュワート上院議員はかみしめた。

「そりゃ、そうですよね。野球に興味がないスチュワートさんに聞いた私が馬鹿でしたよ」

「まあ、そういうことだ」

 そんな時だった。スチュワート上院議員のスマート・フォンがけたたましくなる。ほんの最近、誕生日プレゼントとして娘からもらったスマート・フォンだ。グレース・スチュアート、妻からだった。

「何だろう?こんな時間に」

スチュワート上院議員は普段ならかかってくるはずもない時間帯の電話に違和感を覚えた。

「もしもし?なんだって?」

 話を聞いたスチュワート上院議員は驚きのあまり、大声を上げてしまった。


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