LOVE &BABY
暗い、暗い闇の中で「僕」は生まれた。
そこは何も見えなく何も聞こえない。
温かい、優しい感覚だけが「僕」を包み込む。
「僕」は何者なのだろう、なぜここにいるのだろう。そんな疑問が次から次へと生まれてくる。
しかし、その答えはいつまでたっても分からなかった。
そんなある日・・・「僕」の耳に声が聞こえてきた。
「外」から聞こえてくるものだ。
・・・この子はどんな子なんだろうね。
・・・きっと俺に似て賢い顔をしているよ。
女の人と男の人の会話だった。
そこで「僕」は分かった。
「そうか。「僕」は赤ちゃんなんだ。そして今聞こえた声の人たちが僕のお父さんとお母さんなんだ。」
「僕」の耳が聞こえるようになってから、外のお母さんの話しかける声が
とても温かく感じられた。
・・・元気に生まれてきてね。
・・・お母さんも頑張るからね。
・・・お前はお父さんとお母さんの大切な命なんだよ。
「僕」はそんなお母さんの言葉に頭の中で「うん、うん」と返事をした。
何日がたち、お母さんが“つわり”というもので苦しんでいるのが分かるようになった。
毎日毎日食べたものを吐いてしまっているらしい。
その原因が「僕」にあるということも分かるようになった。
それ以来お母さんが苦しむたびに「僕」は悲しい気持ちになった。
「お母さんごめんなさい。「僕」のせいでお母さんを苦しませてしまって・・・ごめんなさい。」
そんなことを思うたびにお母さんは、
・・・お母さん頑張るからね!絶対元気に生まれてくるのよ
そういって励ましてくれた。
「僕」にはそれが本当に嬉しかった。
長い“つわり”生活も一段落し、お母さんも安定期というものに入った。
ぽっこりとしたお腹にお父さんが頭をくっつける。
・・・名前はどうしようかなぁ。そうだ!セカチューからとって朔太郎にしよう。
「お父さん、それは勘弁してください」
僕はお腹の中でそう思った。
お母さんの本当に嬉しそうな笑い声が聞こえた。
それからまた何ヶ月も経ち、外は冬という季節になっているらしい。
お母さんは「僕」を気遣い、家にいるにも関わらずあったかい格好をしてくれているみたいだ。
お母さんと一緒に家でお父さんを待っていると、お父さんが帰ってきた。
・・・ただいま〜クリスマスケーキ買って来たよ。
今日はクリスマスというめでたい日だそうだ。
そういえばお母さんもたくさん料理を作っているみたいだ。
・・・来年は三人でお祝いだね。
・・・そうだなぁ。毎年クリスマスプレゼントが大変だな。
二人とも本当に嬉しそうだった。
二人の楽しそうな声を聞くのが「僕」には本当に嬉しいことだった。
冬の寒い季節も過ぎ、三月に入ったある日・・・
お母さんが突然苦しみ出した。
そう、「僕」が生まれるのだ。
外の「声たち」が突然騒がしくなる。
お母さんが慌しくなる。
お母さんのお母さんも慌しくなる。
お母さんのお母さんのお母さんも慌しくなる。
・・・すぐ病院に連れて行くからね。頑張れ!
そんな声が飛び交う。
お母さんの苦しそうな声も飛び交う。
病院に着くとすぐに分娩室に連れて行かれた。
お母さんが苦しむ。
「お母さん、頑張れ!」
僕も励ます。
そうこうしているとお父さんも来たみたいだ。
・・・頑張れ!俺がついてるよ!
お父さんはお母さんの手をぎゅっと握ってくれているみたいだ。
そこからすごい力が体に入ってくるのがわかった。
「あぁ、この二人は愛し合っているんだな。」
こんな時にも関わらず「僕」にはそれがとても嬉しかった。
みんなでお母さんを応援する。
どんな応援団もびっくりな迫力だ。
「「僕」もがんばらなきゃ。」
「お母さんの体の中はすごい居心地がよかったよ。離れていくのは寂しいけれど、そろそろ生まれないとお母さんがかわいそうだから・・・ばいばい、ありがとう。お母さんの体さん。」
お母さんが体に力を入れた。
僕も力を入れた。
・・・おぎゃ〜おぎゃ〜
大きな泣き声が聞こえた。
と同時に大きな歓声も聞こえた。
お父さんがすごい喜んでいた。
お母さんのお母さんもすごい喜んでいた。
でも「僕」はその中にいなかった。
その赤ちゃんは「僕」ではなかった。
「僕」はその赤ちゃんではなかった。
・・・あぁ、そうか。僕は赤ちゃんではなかったんだ・・・
「僕」はようやく自分の正体に気付いた。
そう、本当は気付いていた。
「僕はお父さんとお母さん“二人の愛”だったんだ。」
そう、君は二人の愛。
本当に心がつながった二人の間に生まれた愛。
赤ちゃんが出来た時に一緒に生まれたんだね。
赤ちゃんと一緒に成長してきたんだね。
二人が辛い時、二人が嬉しい時、君はずっと側で見守っていてくれたんだね。
ありがとう。
みなさんの心の中にも「僕」は存在していますか?




