件名3:チーかまの片割れ
俺が発案したと思われる(?)火計は成功し……てしまったようだ。
王さんから結果を一応聞くと、敵が森を進軍中に、タタールが囲むようにして火を放ったようだ。
お陰で敵は総崩れ、死傷者は約千五百以上、捕虜は四百以上だったらしい。
敵兵を減らした上、こちらの兵は無傷だったので、西のローシャ奪還もすんなりいった。
それに伴い、主力部隊が敗走した為、北のタルザンを攻めようとしていた敵も退却したらしい。
これにて一件落着……と言いたいが、落着はしていない。
火計が大成功で終わってしまった為、俺の株は超右肩上がり。
王シャロムも額を地につけるレベルだ。
今回はこれで良かったが、今後こんな事か起こったらどうなるんだよ? 俺。
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まあ、ともあれ、火計が成功した後は平穏な日々が続いた。
城の中での不自由ない生活。
模型もチーかまもない俺にとっては不自由極まりなかったが、まあ平和だった。
火計成功から約2ヶ月後のある正午。
俺は、自分の部屋のベッドで仰向けになりながら、帰ったらどの模型を作るか熟考していた。
熟考の末、16番目に作る模型を「みょうこう」に決めた時だった。
「ヤーナト♪」
その声は、俺の悪魔とも言える存在メリナだった。
寝ている俺に急降下馬乗りしてくる。
恐らくこいつは、誰が見ても美人で、モデルも腰を抜かす程のナイスバデェには違いないと思うが、そんな奴に馬乗りされても俺は全然興奮しない。
こんなのよりか、目の前にチーかま一袋現れた方が、よだれを垂らしてよっぽど興奮する。
……チーかまが1本でも目の前に現れたらどれほどいいか……。
もし現れたら、あんなことして…こんなこともして…うへ、うへへへ――
「ヤナト、よだれ垂れてるよ? 」
おっと、チーかまに対しての考えが飛躍しすぎた。
咄嗟によだれをふく。
「…まさか、私に対してあんな事やこんな事しようって考えてるの? もう! その件は別にしていいって前にも言ったよね? お父様にはもう了解得てるから」
メリナはそう言いながら、胸を寄せるようにして両腕をつき、顔を俺へ寄せてくる。
「まさかぁ? お前なんかに興味ねぇよ」
鼻で笑った後、メリナの顔を押し返す。
お前と一緒に寝るぐらいなら、チーかまに埋もれて寝る。
メリナは頬を膨らませる。
「それじゃあ、ヤナトは何に興味あるのよ!」
「チーかま」
「チーかまって……ヤナトに初めて会った時、食べさしてくれたあれ?」
そうだ、あれだ。
あの時は本当に勿体無い事をした。
頭に血が上っていたとは言え、結果としては、高潔なる存在をこの悪魔如きに食べられてしまった。
チーかま神に、俺は会わせる顔がない……。
「ヤナト、ここに来てからずっと寝言で、チーかまチーかまって言っているけど……そんなに美味しいの? あれ。ただ、チーズの味がしただけだったけど……」
チーズの味だけ…?
頭にきました……。
「キャッ!」
メリナを押し倒す。
そして逆に馬乗りする。
てめーは俺を怒らせた。
「あの至高の食べ物を口にしておいて、チーズの味しか感じられないだと…! そんなものは、俗世間に犯された人々の言葉だ!
特に変哲のない味だが、消えたりも、邪魔したりもしないかまぼこ! 小さいがはっきりとその存在を訴えかけてくるチーズ! 持ちつ持たれつのコンストラクション! それがいいんだろ!
どちらが欠けても、どちらが増えてもいけない! あの運命づけられた黄金比率! 切っても切れない二つの存在! そう! 例えるなら月と太陽! また例えるなら、バックダンサーとボーカル! そして、例えるならト○とジ○リー!
チーかまこそ万物の完成系! 己の身を固めて大地を形成するかまぼこ! そしてその大地にひっそりと佇む小さな存在チーズの姿は、まさに地球とその上に生きる生物を表す! まさにこれこそ、チーかま オブ ヂ アース! チーかま万歳!」
そこまで言うと、俺はメリナから離れた。
メリナは少し涙目になっている。
自業自得だ。
少々熱くなりすぎた気もするが、これもチーかまの平和と秩序(と黄金比率)を守るためだ。
比率を乱す反乱分子は早めに修正しておかねばならない……。
「だって……。チーズあんまり好きじゃないもん……」
メリナは鼻をすすりながら、女の子座りで、口を尖らし俯く。
お前が悪いのだ。
元はと言えば、お前がチーズの味だけだと言うのが……ってチーズ?
「えっ! メリナ! お前チーズ知ってんのか!」
衝撃の事実発覚に、俺はメリナの肩を持つ。
メリナが頬を赤らめたが、気にするに値しない。
それより、総チーかま面積の約3割を構成しているチーズの情報の方がよっぽど大事だ。
「知ってるも何も……チーズはこの国の名産品の一つだよ…?」
「なんと…!」
その言葉に俺は絶句する。
ここに来て約三ヶ月。
俺は一度もチーズを目にしなかった。
出てくる料理は大概が肉。
美味しくなかった訳ではないが、チーかま好きの俺にとってはチーズもかまぼこも食べない生活は絶食をしているに等しかった。
それをこの国は……
「なんでここの料理には出てこなかったんだ!」
「だって、あれ庶民の食べ物だもん。それにあんな腐ったミルク――」
「案内せい……」
「……えっ?」
「わしをチーズが売っているところに案内せいと言っておろうに!」
「は、はい! す、すぐに支度して参りますわ!」
メリナはそう言い、慌ててベッドを降り、俺の部屋を出て行った。
……そう言えば、ここに来て三ヶ月も経つのに城下町に行った事がなかったな……。
チーかまの半分、チーズがこんなに近くにあるとは……。
世間は灯台下暗し。
基規 柳斗 一生の不覚……。
チーかま一本でご飯4杯