件名1:元凶の女
ヒロイン登場!
(チーかま>>>越えられない壁>>>>ヒロイン)
俺は携帯の送信ボタンを押した。
「これ届くのかな…?」
圏外マークが付いているのに、なぜか、送信するとエラーが発生しなかった。
「さっきから、何をしているの? ヤナト?」
俺の携帯を覗き込んできたエメラルド=ツイン=ドリル=ロン毛。
こいつこそが、メリナ・ハナーヌだ。
「何って、メールだよメール」
「めいる? めいるって何?」
「えーっとな……。手紙。そう、手紙みたいなもんだよ」
「手紙!? もしかして、ヤナトの軍隊を呼ぶの!?」
「だから違う! 俺は救世主でも、軍神でもない!」
「いや、違わない。ヤナトは、私達サリーヌ王国を勝利へと導いてくれる。間違いない」
メリナは腰に手を当て、自信満々に言う。
本人が言っているのに、なんで否定しないんだよ……。
そう。この女が、全ての元凶。
俺からチーかまを奪った張本人。
こいつに会ったせいで、全てが狂った……。
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それは、俺が塾から帰る途中。
日課となっている、コンビニでチーかまを買った帰り道に起こった。
正確には、二袋目のチーかまを、帰り道の町外れで開けようとした時だ。
夜だと言うのに突然、照明灯のような光が俺の前に射した。
暗い所に慣れた目で、その光に直撃したので、とっさに手で目を覆った。
その時、半分開けていた、一本目のチーかまを落とした。
光への驚愕より、チーかまを落とす自分の握力の弱さに失望していると、光が消えた。
暗闇補正がリセットされた目で前を見てみると、目の前に何か倒れていることに気が付いた。
近づいて見てみると、純白のドレスらしきものを着た人のようだった。
しかし俺は、ファンタジーや、転生や異世界突入フラグに、心をときめかせるような男ではなかったので、無視する。
そして、通り過ぎながら、二本目のチーかまを半分開けた時だった。
「ま、待って…!」
足首をさっきの人に掴まれたせいで、見事に前方へ転けた。
そして、二本目のチーかまは、俺の手を離れ、宙を舞った。
転けた痛みより、一袋の内、半分の二本もチーかまを失ったことに落胆しながら、立った。
「お願い! 待って!」
背中からしたのは女子の声だったが、構わない。
残り(二本)のチーかまをなんとしてでも死守するべく、俺は振り向かずにダッシュした。
恐らく人生の中で、一番の走りっぷりだった。
そんな自分にご褒美をあげるべく、三本目のチーかまを開けた時だった。
「待ってえぇぇぇぇ!」
後ろからドロップキックをされ、俺は、チーかまと共に宙を舞った。
そして、仰向けになった俺に、そいつは馬乗りしてきた。
「ねっ! ねっ! あなたが救世主様でしょ? お願い!私の国を救って!」
可愛い女の子が、馬乗り状態で、急接近して、その上、胸ぐらを掴んで来るが、俺の頭は、俺の口へ入らずに俺の下を去った三本のチーかまで一杯だった。
しかし、そんな今世紀最大の屈辱を気にする事無く、女子は俺の体を揺らしてくる。
「救世主様!」
チーかま……。
「救世主様ってば!」
チーかま…!
「お願い! なんか言ってよ!」
チーかま!
「救せい――
「うるせぇー!」
俺の念は怒りに昇華し、さっきからごちゃごちゃ叫ぶ女の口へ最後のチーかまを入れた。
すると次の瞬間、辺りは光に包まれ、俺は異世界へ飛ばされた。