お返しはイチゴ味
冬っていいですよね。
チョコレートが美味しい季節です。
夏より断然チョコレートの種類が増えるんですよ。
やっぱり夏はチョコが溶けやすいから種類も少なくなります。
でも最近は溶けにくいチョコなんかも増えてるんですけどね。
本当にチョコレート菓子開発者さまさまですよ。
そして、この時期はイチゴを使った商品が多いですよね。
イチゴはチョコレートと関係なく大好物です。
そのまま食べても美味しいですし、練乳つけてもまたウマウマ。
つぶして牛乳と砂糖入れてイチゴミルクにしちゃうのも美味しいし。
イチゴのショートケーキも好きですが、チョコレートケーキの上にイチゴが乗せられていたら、そのお店のパティシエを尊敬します。
・・・ところで、これはどういった事態でしょうか。
「宮野、どれが好き?」
朝礼前に席について、1時間目の準備を始めていたところでした。
目の前の机の上に3種類の季節限定イチゴチョコが並べられました。
隣の席から手を伸ばした久瀬律によって目の前に置かれたチョコは、どれもコンビニで1箱200円以上する美味しそうなものばかりです。
「欲しいの選んで。一昨日のキャラメルのお礼」
「マジデスカ」
なんと、久瀬律は律儀な性格でしたか。
キャラメルたった3粒のために、このチョコとは。
しかもあげたのは購買で売ってる100円ほどのチョコキャラメルですよ。
こういうのがモテる男の秘訣というやつでしょうか。
「あの大事そうに手に隠したピスタチオのチョコだっけ?あれコンビニで探したけど売ってなかったんだよね。この中に好きそうなやつある?」
・・・あのチョコをどうしてもあげたくなかったのはバレていたみたいです。
それはともかく、この私に、このチョコ好きの私に、このチョコレートを愛する私に、3つの中から1つを選べというのか。
好きそうなやつどころか、全部好きですから。
究極の選択ですか。
1つはイチゴチョコに生クリームをまぜてココアパウダーがまぶしてあるトリュフ。
2つ目は表面が焼いてあり中がイチゴチョコクリームで外サクサク中柔らかな一品。
最後の1つはホワイトチョコに乾燥イチゴが入った濃厚チョコ。
・・・やばい、やっばい、ヤバーイ!迷う!無理。選ぶの無理!
どれも垂涎の品ですもの。
大いに迷って思わず腕組みしながらうなっていると、机に肩ひじついている久瀬律が私をじっと見ていることに気づきました。
無表情です。
この人あんまり笑わない人みたいです。私もどちらかというとポーカーフェイスなので人のことは言えませんが。
よほど楽しくないと笑えないのか、単に表情筋が硬いのかは知りませんが、そのせいでクールとかって言われるのでしょうね。
そんなどうでもいいことに気を取られていると、久瀬律は私の机に手を伸ばしトリュフの箱を手に取りました。
そしてあろうことか、ベリベリと箱を開け出したのです。
え、選ぶの遅すぎて3択から2択になったのか!?
内心動揺していましたが、まだ自分のチョコになったわけではなく所有権は向こうにあるので見守ります。
すると、残りのベイクドチョコとホワイトチョコのパッケージも開けてしまいました。
待てぃ!まさかあげる気なくしたとか言うのではないだろうな!?
おそらく周りから見たら間抜けであろう、口をあうあうと開け閉めしてしまいます。
ちょっと涙目になりそう。
いや、本当に泣きそうになりました。
そんな私の様子にも気にも留めずに、久瀬律はそれぞれのチョコのパッケージから1粒ずつチョコを取って自分の机に置きました。
そして開封され1粒ずつだけ取り出された3種類のチョコをまた私の机に置きました。
口をぽっかり開けて「あんれぇ?」とばかりに頭に花でも乗っけそうな顔をしていたであろう私をみて、久瀬律はほんのり口元に笑みを浮かべます。
「1個だけとか決まりそうにないし、俺も味見してみたいから取ったけど、3つとも残り全部やるよ」
「・・・貴方は神か」
「は?」
「いえ、ありがとうございます!嬉しいです!感謝感激です!」
なんて、なんて・・・良い人だ。思わず惚れそうです。
衝動のままに、久瀬律の手をがっちりとってシェイクハンド。
上下にぶんぶん振りました。
その動きに合わせて久瀬律の頭が上下に揺れます。
めちゃくちゃ呆気に取られているようでしたが、私にはこれぐらいしか感謝を表現する方法がなかったのでお許しください。
そして速攻久瀬律のことを頭から追い出して、愛しのチョコとの世界へダイブすることにしました。
さっき脳内で惚れそうとか言ったのは、すでに記憶の彼方です。
嬉々としてチョコに手を出した瞬間に、担任が「おはよう」の言葉とともに教室に入ってきました。
「なんて空気読まない教師だ」などと心中で悪態をついてしまいました。
・・・でもこの席なら食べても見つからないはず。
ぽんとトリュフを口に入れると、続けてベイクドチョコとホワイトチョコの包みを開けます。
「・・・お前・・・すごいな」
ぼそりと呆れ返った声が隣の席から聞こえましたが、礼はとっくに言ったので無視することにしました。