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ピスタチオ風味もいいものです




今日は良い陽気です。冬の合間ですが、日差しが非常に暖かい。

何だか眠くなってきました。

幸いにも今の時間は自習となったので寝ても大丈夫なのですけど。

自習と言ってもワイワイ騒いだりしては両隣の教室から先生が乗り込んできます。

なので、みんな割りとお利口に席の近い人と小さめの声でおしゃべりやら寝たりしています。

席移動している人はあまりいませんね。

昼休み後の授業時間で満腹、なおかつポカポカ陽気とくれば、寝る人のほうが多いってものです。

自習という本来の意味のことをしているのは5人いればいいとこですかね。

かく言う私はもちろんチョコを食べています。

この時間が自習だと分かっていたので昼休みに食べるのはやめて取っておいたのですよ。

実に計画的です。

本日のチョコはピスタチオ入りです。

この独特の風味は好き嫌いが結構分かれるところですが、私はこのアクセントがきいた味も大好きです。

なぜこんなにチョコレートって美味しいのでしょうか。

私の幸せ=チョコレートを食べること。

もうこれでいいと思います。

自然の摂理、世界の真理です。

ムフと変な笑いを零しそうになるので口元を手で隠しました。


そんな感じで自分の世界に浸っていたのですが「ん・・・」という隣の席からの小さな声で我に返りました。

どうやらお隣さんも惰眠をむさぼっていたようです。

横目でちらりと見ると目覚めたお隣さん・久瀬律はやたらと色気のある寝ぼけ眼で髪をかき上げて気だるそうにしています。

ある意味目の毒です。刺激的すぎます。

見ないようにしましょう。

思考を再び自分とチョコの素晴らしき世界へ向けようとしたとき、彼は一言こう言いました。


「腹減った・・・」


お昼休み後の授業の時間なのに腹減ったとはこれいかに。

何だか嫌な予感がしました。

私の手元には激ウマチョコ。

チョコに落としていた視線をゆっくりと久瀬律の方へ向けました。

なんというか、嫌な予感は本当によく当たるものです。

久瀬律は確実にはっきりと、私の手元のチョコを見ていました。

12個入りであと6個入っているこの小さな箱を。

私の愛しのこの子が狙われている・・・!


「・・・・・・昼休み・・・部活の用事があって・・・購買で飯買えなくてさ、何も食べてないんだけど」


棒読みに近いゆっくりとした口調でした。

独り言です。

きっと、そうです。

知らん!私は聞いてない!聞く耳もたん!


「それくれない?・・・宮野サン」


内心「ふざけんなよ!」と誰にも聞かせられない悪態をついていました。

久瀬律がお腹をすかせて飢え死にしても、私の愛するチョコレートの敵であったため、別に心は痛みません。

しかし、万が一目撃したクラスメートからの心証が悪くなるのは不本意です。

あの久瀬律がお菓子をくれと懇願しているにも関わらず、無視した非情な女。

そんなレッテルは御免です。

私は愛想がいいほうではないですし、人付き合いは苦手ですが、基本的に円滑にしておきたいですし、敵も作りたくないというのが正直なところです。

しかしながら、このチョコレートは期間限定チョコ。しかも駅前のコンビニではラストワン、最後の1個でした。

あのコンビニでは期間限定や季節物などは最後の1個が売り切れた場合、同じものを再入荷することもなくほぼ新商品を入れているので、この手元に残っているのが食べられる最後のチャンスなのです。

ではどうする・・・この超美味しい限定チョコをあげるのか?否、それは無理。

第一、癒し系友人の柚季ちゃんにすら自分で美味しいと思うチョコはあげられなかったんですよ。

単なるお隣の席の人物にあげるなんてもってのほかです。

さらに相手はチョコレートをゴミ箱に捨てると言う悪行をやってのける輩です。

このピスタチオの旨さを理解できなくて、下手したら受け取ったものの思っていたチョコではないと思ってゴミ箱に捨てる、あるいは口に入れてから吐き出すなんてことをやらかすかもしれない。

そうなれば、私は悔やんでも悔やみきれない。

チョコレートに土下座して謝っても自分を許せないだろう・・・。


しばし悩み、思いつきました。

鞄の中をごそごそとあさると目的のものを見つけました。

未開封のチョコレートキャラメルです。

結構美味しくて癖になって1箱ペロリと食べてしまう小憎いやつ。

正直これもあげたくはないですが、これは我が校の購買でも売っている商品なので次の休み時間でも回収可能な品なのです。

さあ、受け取るが良い・・・久瀬律。


「これあげます」


手渡しするのも面倒なので、ぽいっと彼の机に投げてあげました。

ノーコンな方ですが、幸いにも机から落っこちることもなく彼にぶつけることもなく机に着地。

我ながらグッジョブです。


「いや・・・その手に持ってるチョコ1個でいいんだけど」


「そのチョコキャラメルの方がお腹に貯まると思うし、どうぞ」


「けど、こんないっぱい悪い・・・」


「では欲しいだけ取って返してください」


困惑して申し訳なさそうにする久瀬律。きっぱりと言う私。

私が抱え込むこのチョコはあげられません。

諦めてください。

しばらく逡巡したように箱を持ったまま動かなかった久瀬律でしたが、決心したのか箱を開けて3つ取り出すと、私のほうへ箱を差し出しました。

投げてくれたらいいのにと正直思いましたが、手を伸ばして素直に受け取ります。

いらぬ禍根は作らない。

学生生活だけではなく、人生において大事なことです。

横目で見ている中、彼は口にキャラメルを1つ放り込みました。


「宮野・・・サンキュ」


口をもごもご動かしているので聞き取り辛かったですが、礼を言われたようです。

礼なんてどうでも良かったのです。

それよりも久瀬律なる人間が実はチョコ嫌いではないのではという疑念がわいてきました。

チョコ欲しがったり、チョコキャラメル食べてるし。

そういえばチョコ捨てたとか言う話は手作りのブツだけだっけ。

記憶があいまいなのでわかりません。

チョコレート嫌いの天敵であるとだけ濃く脳にきざまれていたのですが違ったのかな?

もしかしたら、毛嫌いするほどではないのかもしれないとチラッと思ったのでした。


ただし、この時思った気持ちは、食べさしのチョコキャラメルを食べきった後、新しいチョコキャラメル買った頃には忘れてしまいました。

別に・・・私に悪気はありません。





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