悪い夢
体の具合はますます悪くなっていった。穂香もうずっと学校には行っていない。
検査入院ばかりしているけれど、相変わらず原因ははっきりしない。
美登里は普通の人間なら苛立つであろうところ、いつでも医師や看護師ににこやかに挨拶し、丁寧に礼を述べ、いつでも協力的だった。
病院のスタッフは良くできた親だと美登里を褒める。
「穂香ちゃんのお母さん、いい人よね。美人だし。すっごく穂香ちゃんのこと、考えてるのわかるよ」
検温の合間にそんな言葉をかけてくれる若いナースもいるほどで、穂香はそれがうれしかった。
それに病院での美登里はいつにもまして優しく美しく、穂香はこんな母親を持って幸せであるとすら思った。
あまりにも埒があかない状態に、却って恐縮した医師は「もっとよい病院を」「可能性のある病気の専門家のいるところを」と紹介してくれる。
そしてまた検査が続く。
こんなことがもう一年近く続いていた。
パパは仕事が忙しくて、今度のお正月には帰ってこれないという。
眠ってもいやな夢ばかり見るし、起きていても気持ちが悪くて、やっぱり悪い夢を見ているようだ。
夜中に熱が出てきて目が覚めると、穂香は手鏡で自分の瞳を覗き込んでみる。
ときどきそれは闇の中で光って見える。
いつかこれが完全に金色に染まったら、円香は迎えにきてくれるのだ。
ほとんど憶えていない姉のその言葉だけが妙にはっきりと思い出され、穂香は少し安心して再び眠りにつく。