一つ雨戸の下で
梅雨の涼しい時期が恋しいです。と思いましたが今年も梅雨は暑かった気がしますね。
だんだんと暑くなり夏が感じられる梅雨の頃。
俺は急な夕立に振られ、バタバタと雨宿り出来る場所を探していた。
こうなるなら傘を持ってくればよかった。朝のニュースを見て大丈夫だろうと高を括った自分を恨む。
ーーああ、やっといい場所があった。俺は、ようやっと見つけた小さな無人の神社で腰を下ろした。
しばらく止みそうにないし止むまで落ち着かせて貰うとしよう。
こうやって雨宿りをしてぽたぽた落ちる雨を見ているといつかのことを思い出す。
確か、あの時もこうして通り雨に打たれて慌てて雨宿りの場所を探したんだっけな。
ーーそう、その時はちょうど出張で隣の県に行ったときだった。
仕事も終わり、さあ帰るぞって時に振ってきたんっだけな。
鞄やスーツが濡れたら大変だから大慌てで雨宿りできる場所を探して......見つけたのが随分まえに閉じたのであろう古びた小さな電気屋の下だった。
そうやって雨戸の下に駆け込むと先客がいたのだ。背の低い女性で、スーツは来ていないが仕事はしているように見えた。
最初はやあ、どうも、と頭を下げるだけだった。多少濡れて鞄なんかを拭くのに忙しかったのもある。
トントン、トントン、と雨戸を叩く音だけがする。
直ぐに止むだろうと思っていたが、なかなか雨は止まないもので。
そのうち、ただ無言で雨音を聞いているのも気まずくなり、どちらが先か声をかけた。
「止みませんねぇ、雨」
「そうですねぇ.......」
最初はそんなことから始まった。
それから、少しの雑談のあと女性が切り出した。
「雨って実は結構汚れているらしいですよ、知ってました? 私、子供の頃はこんなに綺麗なもの他にはないって思ってたんですけど、それを知ったときはかなり驚きましたねぇ」
雨は、落ちてくる間に空気の汚れを取り込むんだったっけ。
そうでなくとも雨は濡れるし嫌いだ、なんて思いながら聞いていると女性は続けてこう言った。
「ーーでも、それでも雨は恵の雨って言われるんですよ。なんだかそれって戦場から帰ってきた騎士みたい
で素敵じゃありません? だから私、雨って大好きなんですよね」
ーー騎士みたい。 雨を例えるにしてはかなり強そうで、しかしなんだかそれっぽくて......思わず笑ってしまった。
「あ、笑いましたね!」
女性が、少しむすっとした様子で咎めてくるのを俺は違う違う、と手を振りながら否定した。
「似合っているようないないような......それが少し面白くてーーでも、いい表現だと思いますよ」
そういうと、女性は微妙に納得してない様子で頷いて......少しだけ、笑った。
その笑顔が幼い少女のようで未だに覚えている。
「しかし、雨は騎士ですか。それじゃあ雷は何だと思います? 騎士に向けたバリスタとか?」
「そうですねーーーー
それから俺たちは雨が止むまであれはこれだ、と例え話で盛り上がった。
何なら少し止んでも話していたぐらいだ。
「止みましたね」
「はい、止みましたね」
空を見れば薄っすらと虹が出ていたように見えた。
雨上がりのアスファルトの匂いがなんだか気持ちいい。
「あ、そうだ。 最後に、虹ってなんだと思います?」
ーーそりゃあやっぱり橋ですね。 虹はどこにでも現れて、いろんなものを繋いでくれるんですよ!
最後の言葉はそうだった。
そういえば結局お互いのことは何も知らないまま話していたなと、ふと、今になって思い出す。
どこに住んでいるのか、仕事は何をしているのか。何も知らないままだった。
ああ、やっと雨が止んできた。
空にはあの日のように、うっすらと虹が出ている。
ここらは土ばっかりで、アスファルトの匂いなんてしやしない。
わざわざ鳥居をくぐり帰路へ向かう。
その途中、前から一つ、小さな影が見えた。
名前なんて知らない他人だったけど、気分がいいから挨拶をした。
「やあ、どうも」




