世界の掃除屋VSバグの創造主
第15話への温かい応援、ありがとうございます! 一晩で千年分の文明を進化させるという、もはや神でも躊躇うレベルの「オーバークロック」を敢行したアレン。 しかし、急激なアップデートはシステムに致命的な負荷を与えました。 空に現れた「黒いノイズ」。それは、世界の均衡が崩れた際に自動で発動する、強制初期化プログラム。 あらゆる概念を「無」に帰す掃除屋に対し、エディター・アレンの真価が問われます。
空が、割れていた。 雲も、光も、空気さえもが、黒いデジタルノイズのような霧に飲み込まれていく。 それは魔法ではない。ましてや物理的な攻撃でもない。 ただそこに「在る」という事実を、世界の定義から消し去る**【虚無の執行者】**。
「ア、アレン様……! 私の魔力が、吸い込まれる……いえ、魔力という概念自体が消えていくようです!」
地下から飛び出してきたイヴが、震える手で空を指差す。 伝説の魔女の膨大な知識をもってしても、その「無」は解析不能。彼女の魔導書が、触れた端から白紙に戻されていく。
「……なるほど。システムの自動防衛機能か。僕がやりすぎたせいで、この国を『深刻なエラー』だと判断したわけだ」
アレンはコーヒーを飲み干し、ゆっくりと立ち上がった。 目の前で、千年後の文明を誇るビルの一角が、霧に触れた瞬間に「最初から存在しなかった」かのように消滅する。
『……対象領域に致命的な例外処理を検出。世界基盤への侵食を確認。……直ちに、該当座標の全データを初期化する』
空の裂け目から、無機質な声が響く。 直後、国全体を消去する巨大な「削除(Delete)」の奔流が降り注いだ。
「アレン様!」 リィンが光の翼を広げ、アレンの前に立とうとする。 だが、アレンはその肩を優しく叩いて前に出た。
「いいよ、リィン。……消去命令なんて、僕が五年間の鑑定士生活で毎日やってきたことだ。……その程度の『消し方』、僕ならもっと上手くやれる」
アレンの瞳が、これまでにない深い漆黒に染まる。 彼は右手を高く掲げ、自分たちを消そうとする「無」の奔流に対し、逆方向の概念を叩き込んだ。
「【概念反転:保存(Save)】。……そして、【属性固定:読み取り専用(Read Only)】」
【スキル起動:マスター・エディット】 →対象:エディット・ネーション全域の存在定義。 →処理:全データの『削除権限』をロック。外部からの『書き換え』および『消去』を永久に無効化します。
ドォォォォォン!
「消去」の霧と、アレンの「保存」の壁が激突し、世界が激しく明滅する。 削除プログラムは、必死にアレンの国のデータを消そうとするが、アレンが「消させない」という概念を上書きし続けるため、処理がループ(停滞)し始めた。
「……掃除屋。あんたは『バグ』を消すのが仕事だろうけど。あいにく、この国はもうバグじゃない。……僕が定義した、新しい『仕様』だ」
アレンがさらに、空の裂け目そのものを【鑑定】し、その深層にある「消去の論理」を無理やり書き換える。
「【論理変換:削除 → 吸収】。……掃除に来たんなら、ついでに僕の国の『ゴミ』でも拾って帰ってくれ」
【概念編集:バグ食い(Debugger)】 →処理:『消去の霧』の目的を、自国の『不要な廃棄データ』の処理に変更。
次の瞬間、恐ろしい「無」の霧は、従順な掃除機のように街中の塵や廃棄物だけを吸い込み始め、ピカピカに掃除し終えると、何事もなかったかのように空の彼方へと去っていった。
『……例外処理の、解決を確認。……システムは正常に稼働しています』
空が元の青色に戻る。 唖然とするリィンやイヴを余所に、アレンはまたハンモックに身を沈めた。
「……ふぅ。これで世界に『僕の国は消せない』ってことを学習させた。……さて、掃除も終わったことだし、おやつにしようか」
世界のシステムさえも手なずけたアレン。 しかし、この騒動は、更なる高次元の存在——「世界の外側」からゲームを眺めていた者たちの興味を引くことになった。
第16話をお読みいただきありがとうございました! 世界の掃除屋を、ただの「ルンバ」代わりに使ってしまうアレン。 削除権限をロックし、自らを「仕様」だと言い張る不敵さは、まさに最強のエディターです。
次回、世界の外側の存在「管理者」の化身が、アレンに接触を図ります。 ですが、彼らが持ってきたのは攻撃ではなく……「転職のスカウト」!?
「……君、優秀だね。僕たちの下で『世界のデバッグ』を担当しない?」 「定時退社と有給が取れるなら考えてもいいけど」
次回**「運営からのスカウト、条件交渉は概念で」**。 お楽しみに!




