元同僚の家出、そしてブラック組織の崩壊
第12話への評価、ありがとうございます! 「概念的鎖国」により、外の世界からは死の荒野にしか見えなくなったアレンの国。 最強の自給自足環境で、アレンたちは誰にも邪魔されないバカンスを謳歌していました。 しかし、そんな「見えない壁」を必死に叩く者が現れます。 それは、かつてアレンが所属していた騎士団で、誰よりも過酷な労働を強いられていた「あの少年」でした。
「……助けて、アレン……さん……」
蜃気楼のような結界の隙間から転がり込んできたのは、一人の少年だった。 名前はミカ。かつてアレンがいた『黄金の獅子』騎士団で、下働きをしていた給仕係だ。 彼の指はあかぎれで割れ、着ている服は雑巾のようにボロボロ。何より、その眼光には一切の生気がなかった。
アレンはハンモックから顔を上げ、駆け寄ろうとしたリィンを制して、ミカを【鑑定】する。
【対象:ミカ】 【状態:重度疲労(S) / 栄養失調(A) / 概念的搾取(EX)】
「……酷いな。リィン、彼に『回復』じゃなくて『安らぎ』の概念を。今の彼に強いヒールをかけると、精神が持たない」
アレンが指先でミカの額を叩く。 シュン、と小さな音がして、ミカの強張っていた体が泥のように解けた。アレンはそのまま、彼が持ってきた「騎士団の現状」という名の概念データを読み取る。
「……なるほど。僕がいなくなった後、騎士団は文字通りの『地獄』になったわけか」
アレンという「都合の良いゴミ箱」を失った騎士団は、その歪みがすべて立場の弱い末端へと流れていた。 団長レオンはアレンへの恐怖を部下への暴力にすり替え、勇者ジークは「絶対敗北」の呪いを解くために、下働きの命を削る禁忌の儀式を繰り返しているという。
「アレンさん……もう、みんな、死んじゃいます……。僕、逃げてきたんです。アレンさんなら、世界を書き換えられるって……信じて……」
ミカは涙を流しながら眠りに落ちた。 アレンは立ち上がり、王国の方角を見据えた。その瞳には、今まで見せたことのない冷徹な光が宿っている。
「リィン。鎖国の設定を一部変更(パッチ適用)する。……『僕を追放した組織の構成員』にだけ、特別な概念を遠隔付与してあげよう」
「復讐……ですか?」
「いや、ただの『等価交換』だよ。彼らは僕の能力を『まやかしの平穏』と呼んだ。なら、今まで僕が彼らの代わりに肩代わりして捨ててきた『負の概念』……全部、本来の持ち主に返してあげるべきだろ?」
アレンが虚空を激しくスクラッチする。 彼が五年間、鑑定士として騎士団の装備を直し、傷を癒やし、溜まった汚れをデリートしてきたその全ての履歴。 アレンはゴミ箱の中に保管されていた「五年分の廃棄データ」を一つにまとめ、王国の騎士団本部へと【一括返送(Undo)】した。
【スキル起動:履歴復元(Restore)】 →対象:『黄金の獅子』騎士団に所属する全装備・全人員。 →処理:過去五年間でアレンが『消去・修復した不利益な概念』を再付与します。
その瞬間。 王国の騎士団本部では、阿鼻叫喚の地獄が展開された。 団長が握る名剣は五年前の「折れた状態」に巻き戻り、騎士たちの鎧は「積もりに積もった経年劣化」が一気に噴出して砂へと化した。 そしてレオン団長の体には、アレンが今まで鑑定で吸い取り、捨ててあげていた「数千回分の二日酔い」と「数十人分の過労」が、たった一秒で降り注いだ。
「が、は……っ!? な、なんだ……この、だるさは……身体が……重い……っ!」
かつての仲間たちが、自業自得の「重み」に押し潰されていく。 アレンはそれを直接見ることもなく、ぐっすりと眠るミカの頭を撫でた。
「おやすみ、ミカ。明日からは、誰かの身代わりにされることなんてない。……ここでは、自分の『幸せ』だけをエディットすればいいからね」
ブラックな組織を概念から崩壊させたアレンは、また静かに、ハンモックへと体を預けた。
第13話をお読みいただきありがとうございました! 「Undo(元に戻す)」こそが、最高の復讐。 今までアレンが黙って処理してきた苦労を、そのまま本人たちに返却する。 これこそが「まやかしの平穏」を否定した彼らへの、一番の回答かもしれません。
さて、これで王国側の脅威は文字通り「自滅」という形で幕を下ろそうとしています。 しかし、世界は広い。 次回、アレンの「概念操作」を『魔法の極致』と勘違いした、伝説の魔女が弟子入りを志願して空から降ってきます。
「……師匠! 私に『世界をバグらせる方法』を教えてください!」 「いや、弟子なんて募集してないんだけど」
次回**「伝説の魔女、押しかけ弟子になる」**。 お楽しみに!




