第一章:世界を「編集」する男
はじめまして。あるいは、いつもありがとうございます。 数ある作品の中から本作を見つけていただき、感謝しかありません。
「鑑定士」という不遇な役職。 ただ見るだけの男が、もし世界の「設定」そのものを弄れるとしたら? そんな妄想から生まれた、ちょっとデタラメで、最高にスカッとする物語をお届けします。 どうぞ、最後までお付き合いいただければ幸いです。
「アレン。君の【鑑定】スキルは、我が『黄金の獅子』騎士団には不要だ。……いや、この戦乱の世において、ただ『見るだけ』の男に居場所などない」
豪華な大広間に、団長レオンの傲慢な声が響く。周囲の騎士たちは、憐れみと蔑みが混ざった視線をアレンに投げた。
「待ってください、団長。僕の鑑定があれば、敵の弱点も、隠された罠も、すべて——」 「黙れ。昨日入団したばかりの【火術師】の方が、よっぽど敵を焼き払う戦力になる。お前は今日限りで除名だ。……ああ、その汚い鑑定士のコートも置いていけ。それは騎士団の支給品だ」
アレンは無言でコートを脱ぎ捨て、薄汚れたシャツ一枚で大聖堂を後にした。 無一文。装備なし。目的地は、魔物が徘徊する「名もなき荒野」。 それが、五年尽くした騎士団が彼に与えた「退職金」だった。
荒野に一人放り出されたアレンは、乾いた風に吹かれながら、ふっと口角を上げた。
「……やっと、自由になれた」
彼は知っていた。自分の【鑑定】が、単に情報を読み取るだけの不遇職ではないことを。 鑑定を極限まで突き詰めた先。彼の視界には、世界を構成する「文字」が見えていたのだ。
アレンは、目の前にあったひび割れた大きな岩に手をかざした。 【対象:荒野の岩】 【属性:硬質(C) / 重厚(C) / 不動(D)】
「さて。まずは武器が必要だな」
アレンが指先を動かすと、岩の表面から光り輝く「文字」が剥がれ落ちた。
【スキル起動:概念奪取(Cut)】 →『硬質』を奪いました。
その瞬間、巨大な岩はまるで湿った砂のように崩れ落ち、ただの砂山へと変わった。 アレンは次に、足元に落ちていた「枯れ枝」を拾い上げる。
【対象:枯れ枝】 【属性:脆弱(E) / 可燃(D)】
「ここに、さっきの『硬質』を……【概念付与(Paste)】」
シュン、という電子音のような音が響く。 ただの枯れ枝が、ダイヤモンドのような光沢を放ち、鋼鉄をも容易に切り裂く「究極の硬杖」へと変貌した。
「よし。次は『移動手段』だ」
アレンは、荒野を通りかかった獰猛な魔獣「ワイルド・ラプター」を見据えた。 魔獣が鋭い爪を立てて襲いかかってくる。アレンは動じない。
「君の『俊敏』をいただくよ」
魔獣がアレンの鼻先に迫った瞬間、その動きがピタリと止まり、魔獣は情けなく地面に転がった。 奪った『俊敏』を、自分の「ブーツ」に貼り付ける。
「……ふむ。歩くだけで風になれるな」
アレンは、騎士団が必死に守っていた城壁の方角を振り返った。 あそこには、強力なスキルを自慢する騎士たちが大勢いる。だが、彼らは気づいていない。 彼らの「強さ」も、彼らの持つ「伝説の武器」も、すべてはアレンが指先一つで剥ぎ取れる「ただの設定」に過ぎないということを。
「レオン団長。君が自慢していたあの『伝説の炎剣』……次に見る時は、ただの『熱い棒』に変えてあげるよ」
アレンは軽やかなステップで、誰も住めないと言われた「死の荒野」へと踏み出した。 そこを世界で最も豊かで、最も「デタラメ」な王国に書き換えるために。
第1話をお読みいただき、ありがとうございました!
ただの枯れ枝が、ダイヤモンド以上の硬度を持つ「聖枝(?)」へ。 これが世界のルールを書き換える【概念編集】の力です。
次回、アレンは誰も住めないはずの「死の荒野」に辿り着きます。 そこで彼が「ペースト」したのは、およそ荒野には似つかわしくない『ある概念』でした。
「……とりあえず、喉が渇いたから『水源』をどっかから持ってこようかな」




