第98話 奇跡
城壁に上がると何百万というモンスターの大群が見える。
ドラゴンの大軍に勝って士気の上がっていた魔王討伐軍も意気消沈。
貴族には逃げ出す人間もいた。
「魔王軍が……凄い大群だ」
「もうお終いだ」
「この世の終わりだ」
「祈れば奇跡が起こるのじゃ。神はお見捨てにならない」
こういう時に布教しようという輩は出ると思っていたけどやっぱりか。
「俺に経典を見せてくれないか」
「あなたは入信希望者ですか」
「興味があるだけだ」
「よろしい特別に見せてあげましょう」
終末教だった。
読むと祈れば大地が張り裂け悪の軍団は跡形も無く消え去ると書いてある。
使えるな。
「経典を売ってくれ」
「それなら今からオークションを始めます。あなたも参加なさってはどうです」
「不本意だが参加するよ」
経典をオークションで売るなんて胡散臭い臭いがぷんぷんする。
だが、それが良い。
壇上に机が置かれ司会が座る。
その前にはどこから集めたのか椅子が並べられた。
オークションが始まる。
「金貨10枚からスタートです」
「10」
男が手を上げる。
金貨の枚数を言って手を上げれば良いらしい。
システムは把握した。
「11」
「ありませんか」
「20」
俺は手を上げた。
「21」
「30」
俺は手を上げた。
「31」
さっきから俺以外の奴は共通点がある。
輪が三つ重なったデザインのペンダントをしている。
こいつらひょっとしてサクラか。
もう容赦はしない。
俺は『無言印』を組んだ。
これは周囲の人間を黙らせる効果があるとされている。
「32」
と俺が言った。
司会も誰も何も言わないというか言えない。
「どうなんだ。早くハンマーを叩けよ。そうしなきゃインチキの罰に呪いを掛けてやる」
司会は焦りながらおずおずとハンマーを叩いた。
俺が『無言印』を解くと一斉に信者が喋り始める。
「悪魔に鉄槌を」
「そうだ悪魔を許すな」
「そうか、呪いに掛かりたいって言うんだな」
俺がそう言うと信者は黙った。
「もらっていくぜ」
そう言って金貨を置いて経典を手に入れた。
金貨32枚でも高いぐらいだ
さてと、やるか。
小前田を呼んで説明した。
「なんでも良いから早く祈れ」
小前田は手を組み祈り始めた。
「カタログスペック100%」
俺は経典を手に取り地面に片手を着きスキルを発動。
地面が光り、地震が起こり轟音がした。
脳内に「呪ってやる、我は四天王の一人……」と聞こえた気がした。
しばらくして辺りが静かになる。
一応『浄化の杖』に触っておいた。
「魔王軍の大半がいないぞ」
「地割れに飲み込まれたのを城壁の上から見た」
「神の奇跡だ」
「助かったぞ」
「みんな、戦の始まりだ。僕に続け、出陣、出陣」
エターヤル王子が馬に乗って颯爽と駆け出した。
元アンデッドの部隊がそれに続く。
モンスターは次々に討ち取られていく。
後は魔王城に乗り込むだけだ。
追撃戦も終わり俺達は魔王国の奥深くに入っていく。
モンスターは殆んどが地面に飲み込まれたので、現在の魔王国にはモンスターの姿が見えなかった。
モンスターは建物を建てる文化に乏しく道中に村や街はない。
木もほとんど生えてない。
たまにある木はねじくれ曲がっていた。
野生動物はいない。
鳥もいない。
虫の声すらない。
あるのは風の音だけ。
死の大地という形容が当てはまる場所だ。
動く物で唯一目に入ったのはネズミ。
食べられそうなのは雑草だけだった。
道順は『アミオンの目』で見たのでばっちりだ。
三日ほどかけて魔王城が見える所まで来た。
突入前に一つやる事が一つある。
シルバーの前に行き。
「これでお別れだ。達者に暮らせよ」
と俺は言いシルバーは分かっているよとばかりに鼻を鳴らした。
俺は振り返らずに魔王城に向かって歩き始めた。
「これが最後の戦いね」
桜沢さんが感慨深げに言う。
「まだ終わった訳じゃない。これから激戦が始まるんだ」
「私がピンチになったら助けてくれる」
御花畑が死を予感するようなことを言う。
「女子は全員助けるさ」
「欲張りね」
「欲張りぐらいがちょうど良い。でないと、指の間から零れ落ちるんだ」
「経験したような口ぶりね」
「まあね」
「戦いが終わったら聞かせてね」
俺は答えなかった。
前回の悲惨さを誰にも話すつもりはない。




