第94話 懲罰部隊
「僕は我慢できない」
憤懣やるかたないという調子で、エターヤル王子が俺に向かって言った。
「何がです」
「懲罰部隊という存在が許せないんだ」
「懲罰部隊というと罪人だけで構成されたあれかな」
「そうだよ、いやいや戦うなんて僕らの存在を侮辱している。魔王の軍勢と戦うのは名誉なんだ」
それもどうかと思うけど、当時は魔王と戦うのが正義で格好いいみたいな風潮だったんだろうな。
「どうすれば良いんだ」
「とにかく何とかしてくれたまえ。アンデッドを蘇らす事ができるのだから、それぐらい不可能ではないはずだ」
無理難題を押し付けられたな。
とにかく部隊に行って話を聞いてみるか。
軍が野営しているテントで一際だらしない一角がある。
傾いたテントなんてのもざらで、辺りには酒の臭いが充満していた。
「こんにちは」
俺は近くにいた男に話し掛けた。
「なんだ」
「懲罰部隊をなんとかしてくれって言われたんだ」
「それは何か、俺らに早く死ねって事か」
「いや、そういう事ではなく誇りを持って生きて欲しい」
「ははは、こいつは面白い事を聞いた。そんな事できる訳ないだろ」
くそう、なんか腹立ってきたな。
いやいや戦ってるだって。
よく考えたら来訪者も似たようなものじゃないか。
なんの罪もない分、来訪者の方が数倍酷い気がする。
拉致だ。
前回、野神達がああなったのもこいつらと同じ心境だったのかもしれない。
だが、それを差し引いても許せないがな。
こいつらは受け入れて戦おうとしている。
俺はと考えた。
このくそったれの異世界が消えてしまえば良いと考えた事もあった。
だが、この異世界で暮らす人間の中には死んで欲しくない人もいる。
英雄になりたいわけじゃない。
避けられない仕事を早く終わりにしたいだけだ。
犠牲が少なければ少ない方が良い。
約束は果たす。
魔王は倒す。
くそったれな1回目の運命が回避できたのだからな。
野神は許せん。
元はと言えば、あいつが職業を2つ取ったから歯車が狂った。
俺はそう思っている。
責任は取ってもらおう。
「よし、お前達を無罪にしてやる」
「お前お偉いさんなのか。上に掛け合ってくれるのか。こいつはお見それいたしやした」
「殺人などの犯罪ではない限り無罪にしてやる。全員呼んで来い」
俺がそう言うと男は駆け出して行った。
ほどなくしてきちっと整列した兵士の列が現れた。
「お前の罪は」
「貴族の糞野郎が娘に手を出したんでぶん殴ってやったんでさぁ」
「そうか、カタログスペック100%」
俺は免罪符片手にスキルを掛けた。
免罪符っていうのは教会が売っていて全ての罪を許すと言われている。
全ての罪を許すんだから問題ないだろう。
俺達が貴族なんかともめた時に使えるかもと思って買っておいた。
「これで俺は無罪なんで」
「そうだ、罪人を示す刺青も消えているはずだ」
「本当だ消えてやがる。でも今更地元に戻ってもなぁ」
「やる気があるのなら魔王討伐軍で働けばいい」
「考えてみるよ」
「次の人」
「俺は空腹に耐えかねてパンを盗んだ」
「カタログスペック100%。次どうぞ」
「俺は税金が払えなくて徴税士をぶんなぐっちまった」
「カタログスペック100%。次どうぞ」
「俺は盗みだ」
「嘘こけ、婦女暴行だって自慢していただろうが」
「お前は駄目だ。次」
「喧嘩で人を殴って殺しちまった」
「うーん、難しいな。よく考えたら俺は裁判官でもなんでもない。こんな判断できるか。よしコインを投げろ」
「投げましたぜ」
「表だな。カタログスペック100%」
なんとか全員裁く事ができたので、エターヤル王子に報告に行った。
「済まなかったな。面倒な事を言って。でどうやったの」
「免罪符を使った」
「なるほどね。実は僕は来訪者も苦々しく思っているんだよ。彼らが嫌いとか言うんじゃなくて。無理やり連れてきて戦わせるのはどうかと思う」
「その考えには賛成できるな」
「僕は今、後ろ盾や権力は無いけれど。もしこの戦いで生き残れたら、その辺を改革したい」
「是非やってくれ」
エターヤル王子の人となりがなんとなく分かった。
やっぱり彼は素晴らしい人だ。
俺の見る目は曇ってなかった。
彼には俺達のように召喚の被害者を出さないよう頑張って貰いたい。




