第91話 国境と主戦場
Side:下級神
さてと下界の覗く日じゃ。
勇者は今厚い壁に囲まれた村に着いたところじゃな。
「路銀が心もとない。我々に供出してもらおう」
「ふむ、魔王退治の旅の途中ですか。いくら用立てればよろしいので」
「有り金全部だ。溜め込んでいると聞いたぞ」
「それはご無体な」
「なら力ずくだ」
「守護神様が黙っておりませんぞ。守護神様ぁ」
騎士が百体出てきたようじゃ。
あれは人間ではないな。
絵の人間が抜け出るじゃと、いかんなバランスを崩しかねん。
カタログスペックの仕業か。
役に立っておるのが歯がゆいの。
「その騎士の集団はどこから出てきた。だが、関係ない。聖剣の錆になってもらおう」
勇者の一団と騎士百体の戦闘が始まったようじゃ。
「ぶべらっ。ちょっと待て。お前、聖剣すり抜けただろ。あばっ。この野郎。どひっ」
先手を取られ全員が村長宅から叩き出された。
騎士は相手がモンスターではないので大分手加減しているのう。
しかし、篭手のパンチは痛そうじゃ。
「くそう、こいつら実体がないぞ。魔法を撃て」
魔法が放たれるがかすりもせん。
「聖剣よ力を解放しろ。シャープスラッシュ」
聖剣の光がいっそう強まった。
勇者のスキルのこもった一撃が騎士に叩き込まれる。
だがダメージはない。
「あがっ、やめろ。痛いだろ。ちくしょう、負けイベントかよ」
「野神さん、引きましょう」
「魔王国との境界国をなめてたぜ。撤退だ」
ふむ、勇者の一団が逃げて行くのう。
「野神さん、村人の話では波久礼達はここをかなり前に通過したらしいです」
「そうか、なら急ぐか」
神器の回収はどうするかのう。
邪神に内緒で天使を向かわせるか。
いかんいかん、協定破りはリスクが高すぎる。
誰か邪神を倒してくれないかのう。
そうすれば邪神の核が再び出来るまで好き放題じゃ。
Side:波久礼
魔王国との国境の街に俺達は着いた。
この街の近辺が主戦場になるらしい。
街の周りには穀倉地帯が広がっている。
一見長閑でこれからここが戦いの舞台になるとは考えられない。
街は魔王との戦いに備える貴族達や軍でごった返している。
俺達は宿が無理そうなのでギルドで空き地を斡旋してもらいテントを張った。
空き地には俺達以外のテントも数多く建っている。
「あの、ここで出会ったのも何かの縁。どうですかうちの商品を見ていきませんか」
揉み手しながら、隣の天幕から出てきた商人が俺達に言った。
カタログスペックの材料になる商品なら大歓迎だな。
俺は商人の天幕に入る。
そこには首輪をした人間がずらりと並んでいた。
一瞬で分かった。
奴隷商という奴だろう。
「うーん。俺には要らないな」
「そんな事言わずにお安くしておきます」
見ると奴隷はみんなガリガリで今にも倒れそう。
きつい労働には耐えられそうにないな。
なんか可哀相になってきた。
「俺が買わないと奴隷達はどうなるんだ」
「そうですな。鉱山に売り飛ばす事になるでしょう」
救ってやるか。
俺は金を払い奴隷達を全員買った。
「さて、病気の奴は名乗り出ろ。治療してやる」
おずおずと、幾人か奴隷が一歩前に出る。
ポーションを飲ませて治療してやった。
これからが腕の見せ所だな。
「よし、隊列を組め。俺が今からやる動作を真似るんだ」
俺はアイテム鞄から『ゴブリンにもなれる闘奴。育成の奥義』を取り出して、そこに書いてある運動をし始めた。
奴隷達は見よう見真似で木剣を手に取り運動した。
そして、奴隷一人一人に。
「カタログスペック100%」
奴隷達は光り、ムチムチのマッチョになった。
木剣を振る風切り音が凄い。
「お前達を奴隷の身分から解放する。モンスターでも倒して稼ぐんだな」
首輪を外してやる。
「ありがとうございます。俺は魔王軍との戦いに参戦して一旗上げる。今ならやれそうな気がする」
「俺もだ。いっちょやってやる」
同じ様な声が次々に上がる。
解放したのだから、それから後は自己責任だ
「餞別に装備をくれてやる。好きに使え」
ドラゴンの血を塗った防具を出してやった。
決戦に備えるようにと神託があったので大急ぎで大量生産した一部だ。
一連の出来事を隣の奴隷商が覗いていた。
「良い儲け話があります。是非ご検討を」
と商人がやはり揉み手しながら言って来た。
「聞かなくても分かる。安い奴隷を仕入れてくるから、鍛えろって事だろ」
「分かりますか。大儲けできます」
「条件がある。奴隷達が今回の魔王との戦で生き延びたら解放してやってくれ」
「ええ良いですとも。契約の神に誓います」
「誓約書を書いてもらうが良いか」
「ええ」
当然の事ながら俺は誓約書片手にカタログスペック100%して商人に保険をかけた。
そして、戦士を量産する事に成功した。
奴隷を戦闘に向かわせる事に罪悪感はないのかって、勿論ある。
でも異世界の人間をさらってきて魔王退治させるのとどっちが酷いんだ。
奴隷には可哀相だが、異世界に暮らす人間の一人として責任を取ってもらおうと考えた。




