第76話 夢魔退治
この国の国境に近い街で俺達は桜沢さん達と合流する事が出来た。
「波久礼君もやるわね。王女をナンパしてくるとは」
桜沢さんがにまにましながら言った。
「モンスターを退治したら付いてきただけだ」
「それより、聞いて。今この街では奇病が流行っているの」
「へぇー、どんな」
「眠ったら目が覚めなくなる病気よ」
「それはまた厄介だな」
「実はクラスメイトのメンバーにも犠牲者が出たの。何か手立てがない?」
「和銅さんはどう言ってる」
「夢魔に取り憑かれたと。夢を見れなくすれば飢餓に耐えかねて離れるらしいわ」
「分かった何か考えてみるよ」
さてと夢を見れなくするか。
神話を片っ端から斜め読みしてみたが該当する記述はない。
「どうしたら良いと思う」
「眠りから強制的に起こしたらどうかな。たしか、胡散臭いレシピに眠気覚ましがあったよ」
小前田がアドバイスしてくれた。
「殴ったらどうかな。昏倒すれば夢を見ないんじゃ」
乱暴な意見は御花畑だ。
「おいおい、それじゃ永眠しちゃうだろ」
「私はぐっすり眠らせたらどうかなと思います。よく夢も見ないでぐっすり眠れたと言いますよね」
なぜか同席している王女が意見を言った。
「馬鹿じゃない、ぐっすり寝ても夢を覚えていないだけで。夢は見ているはずよ」
御花畑が少しトゲのある言い方で突っ込みを入れた。
「とりあえず小前田の薬を試してみよう」
小前田が薬を調合して、その薬にカタログスペック100%。
夢魔に取り憑かれた影森さんの所に持って行った。
胡散臭いレシピにはどんな眠りからも目を覚ますとあったがどうなんだろう。
影森さんは、前髪を長くして、顔があまり良く見えない。
影が薄いと言われていたが、虐められていたわけではない。
友達も普通にいた。
ただ、素顔を見た人が少ないだけだ。
素顔に関しては誰も真実を漏らさない。
影の薄さと反比例して憶測が飛びまわっていた。
影森さんの鼻に目覚まし薬を嗅がす。
影森さんは一瞬目を覚まして起き上がる。
ちらりと髪の隙間から素顔が見えた。
可愛い。
可憐すぎる。
素顔を見た人は彼女の平穏を祈ったのに違いない。
「何よ?」
御花畑がぶっきらぼうに問う。
「あれっ、寝てしまったぞ」
またすぐに眠ってしまったを見てとっさにそう言った。
誤魔化せたようだ。
しかし、薬は駄目か。
大元をなんとかしないと。
でもそれには目を覚まさないと。
こうなったら王女の意見を取り入れてみるか。
北風と太陽の逸話もあるしな。
起こす為に眠らせる。
矛盾はしているが、他に手立てがない。
俺達はさっそく布団屋に行った。
「ちょっと、聞きたいが。夢を見ないほどぐっすり眠れる布団はないか」
「ございますとも。うちの布団は皆そうです」
どこぞであったやり取りだな。
既視感がある。
このぐらい強引じゃないと売れないのだろうな。
「なら一筆書いてもらうぞ。製品の品質だけで良い。店主のサインなんかは要らないから」
俺の言葉に顔色を変えた店主を見て俺は言葉を繋いだ。
店主に一筆書いて貰い、布団に手を置いて。
「カタログスペック100%」
布団は光に包まれスキルが掛かる。
布団を影森さんの所に持ち込んでそれに寝てもらった。
しばらくすると影森さんから黒いもやが上がり塊になって実体化。
それは小悪魔の姿をしていた。
きっと夢魔だろう。
「ファイヤーニードル」
御花畑の放った炎の針が夢魔を貫き、夢魔は燃え尽き魔石を落とした。
影森さんを揺さぶり起こす。
影森さんは体を起こすと大きく伸びをしてああ良く寝たと言った。
どうやら成功したようだ。
「王女のおかげで助かったよ、サンキューな」
「お役に立てて何よりです」
「私は? ねえ、私は? 夢魔を魔法で退治したよ」
「おう、御花畑も偉いぞ。良い子良い子してやるよ」
俺は御花畑の頭を撫でた。
少しふくれた御花畑が可笑しかったのだろう。
小前田が笑った。
つられて王女も笑い出した。
何となくだが、王女とは上手くやれそうだ。




