第60話 破邪の香り
俺達は今日、街を観光する事にした。
街には露店が幾つも出ていて、その一つから元気の良い掛け声が聞こえてくる。
「置いた、置いた。置いて悪いは荷物と置き引き。これはそんじょそこらの殺虫剤と違う。なにせその名も、聖者の骨。聖者のありがたい威光で、ゴキブリもいちころってなもんだ」
「面白い。全部くれ」
「波久礼君、無駄遣いは良くないよ。殺虫剤なら私にも作れるから」
「聖者の骨ってところが良いんだよ。伝説にも何度か出てくる」
俺は骨の形をした殺虫剤たぶんホウ酸団子だろうを受け取りアイテム鞄に突っ込んだ。
それから別の露店で食料を幾つか仕入れその場を後にした。
街は一通り見たので、郊外の畑をのんびり散策。
柵を作っている場面に出くわした。
「日野さん、久しぶり」
小前田が声を掛けた。
大工道具片手に柵を作っていたのはクラスメイトの日野さんだった。
「小前田さん、ほんと久しぶり。波久礼君に御花畑さんも久しぶり。波久礼君ったら両手に花ね」
意味ありげに小前田と御花畑を見る。
前の回では恩義を感じているが、そんなのじゃない。
「トゲがある花じゃなきゃいいんだけど」
小前田の強さを俺は知っている。
逆境でもへこたれなかった。
御花畑も前回でそうそうに死ななきゃ、不屈の闘志で頑張っただろう。
「失礼ね。私達は良い香りのする花よ」
「そうよ可憐な花よ私達は」
「そういう事にしておいてやるよ」
「仲がいいのね。もしかして三角関係とか」
「ないない。ところで何やっているんだ」
「見てのとおりの柵作りよ」
「生産系の職業なのか」
「作成師という職業よ。小前田さんは錬金術士よね」
「ええ、そうよ」
「なにかモンスターが嫌うような臭いを出すものを作れないかしら。柵に塗りたいのよ」
「レシピにはあるけど。波久礼君に頼んだ方が強力なのが作れると思う」
「俺が一肌脱いでやるよ」
取り出したのは聖者の骨とピーチェの実。
聖者の骨を粉にしてピーチェの果汁をかける。
そして、『サンソーラーの伝説』という本を片手に。
「カタログスペック100%」
乾燥させて『破邪の粉』の出来上がりだ。
なんでも聖者の骨に破邪の実として知られているピーチェの実を供えたところお告げがあったとか。
骨を粉にしてピーチェの果汁を掛ければよこしまな者は近づけないと。
その粉を撒いた街にはモンスターが一度も襲ってこないのだとか。
悪人も居心地が悪くなるらしい。
その都市がどこにあったのかは語られていない。
伝説なんてそんなものだ。
「ほらさっそく聖者の骨が役にたっただろう」
俺が小前田に言うと。
「今回はたまたまよ。無駄遣いはいけないわ」
「そんな事言って。小前田だって。動物の小物とか見つけるとつい買うだろ」
「うっ、それを言われると」
「とにかく、この粉の近くにはモンスターは寄ってこれないはずだ」
「疑うわけじゃないけど、試してみないとね」
そう言って日野さんは粉を受け取った。
柵の材料で犬ゲージみたいな物、ようは携帯出来る柵を作りだす。
その柵に『破邪の粉』を入れたペンキを塗った。
「試しに行きましょ」
俺達は携帯出来る柵を持って森に入った。
柵を設置してしばらく待つ。
ぐぎゃぐきゃ言う声が聞こえてきた。
ゴブリンだな。
ゴブリンは柵には近づかない。
鼻をすんすんと鳴らし顔をしかめた後に、立ち去った。
「これ良いね。野営の時に便利よ」
「過信は禁物だと思うな」
「その辺は上手くやるわ。見張りは必ず置くから大丈夫」
それから、聖者の骨を売っていた露店を探し出し倉庫一つ分を仕入れた。
それを使って『破邪の粉』を量産。
日野さんは『破邪の粉』を使って煙玉とペンキを作り売り出した。
売れ行きは好調だ。
俺達にも分け前をくれたので、材料費を抜いた余りは教会に寄付しておいた。
今回は復讐の役に立たなかったが、モンスター被害を減らすのは良い事だろう。
一部を除いてこの世界の人間に悪感情は持ってない。
特に一般市民にはだ。
貴族に糞野郎が多いのは仕方ない。
立派な人もいるが、特権階級は腐っていくものだ。
俺はそう思っている。




