第48話 癒しの風
風の祠の脇にテントを張り風を待つことに疲れてきた頃、野神達が風の祠に到着した。
今なら殺せるか。
いいや審判役の神官が邪魔だ。
「場の暖めご苦労さん」
「お早いお着きで」
「嫌味言っている場合じゃないわ。風がないと風精霊は出てこないわ」
「落ちこぼれ三人組みは馬鹿だな。風がなけりゃ起こせばいい。おい、あれを出せ」
野神がそう言うと手下のクラスメイトがアイテム鞄から何やら大掛かりな道具を出してきた。
一メートルぐらいある筒が色んな角度を向くように設計されている。
口径の大きい大砲といったところだ。
野神が合図すると道具から風の轟音がした。
「対空中モンスター用の装備がこんな所で役に立つとはな。風精霊よ姿を現したまえ」
野神の呼びかけに応じてゆらゆらと大気がゆがんで人型の形を取った。
「精霊様の要望に応えたい」
「あら、珍しい風があったので出て来てみれば、私のお願いを聞いてくれるという。なんていい日なんでしょう」
「なんでも良い。願いを言ってくれ」
「そうね、私は下級精霊の遊ぶ姿を見るのが大好きなの。遊び道具をくれないかしら」
寄居が野神に耳打ちをする。
少し考えて野神が口を開く。
「なら、俺はあなたを呼び出すのに使った道具を進呈しよう。波久礼が今、道具を出せないなら、この勝負、俺の勝ちだな」
「ちょっと待て用意する」
「二つも貰えるの嬉しいわ」
「汚いわよ。勝手に勝負の方法を決めるなんて」
「そうよ、そうよ」
「金魚のふんが吠えるな。精霊様に聞いてみよう。精霊様、献上は何時がいいですか」
「そうね、風は気まぐれ。今すぐ欲しいわ」
「だそうだ」
「ぐぬぬ」
「未依子ちゃん、しょうがないよ」
「おっと、手が滑った」
俺達は風の大砲の直撃を食らって飛ばされた。
タンポポじゃないんだぞ。
この葉を一枚出して、『スプライン神話』片手に。
「カタログスペック100%」
俺はこの葉に乗った。
ひゃっほう。
俺は風に乗って飛び回る。
小前田と御花畑を空中でキャッチして回収した。
「ちょっと、どこ触っているのよ」
「動くと落ちるぞ」
「何か楽しい」
「そうだな、楽しいな。下を見ると少し怖いが」
「ひっ」
「さっきは触るなと言っておいて、抱きついてくるんだな」
「好きに言って」
「空の散歩、ロマンチック。月夜だったら、もっとロマンチックだったのに」
「機会があれば一緒に飛ぼう」
「私は遠慮するわ。怖い訳じゃないんだからね」
「約束よ」
葉っぱに乗って空を飛ぶのは気持ちいい。
だが、野神の野郎、許せない。
俺達は滑空して元の場所に戻った。
「ちっ、しぶとい奴だ」
「そっちの反則負けで良いんだな」
「手が滑っただけじゃないか。なあみんな」
「はい。そうです」
「おう、そうだな」
「そうだ、そうだ」
「もういい。とっとと勝負しよう」
さてどうしたものかな。
下級精霊の遊び道具ねえ。
精霊がトランプするところなんてイメージ湧かないから、野神の風を出す道具ってのは良いアイデアなのかも。
真似するのはしゃくだが、俺も風を出す道具で対抗しよう。
思いつくのは『スプライン神話』にある癒しのうちわだな。
扇ぐと癒しの風を送り疲れを取るという。
材料はエリクサーとうちわだから、手元にあるもので何とかなりそうだ。
うちわにエリクサーを掛け、神話の本を持ち。
「カタログスペック100%」
うちわは光り、スキルが掛かった。
うちわで自分を扇ぐとここまでやって来た疲れが全て吹き飛んだ。
遊び道具が健康器具になったけど、まあ良いだろう。
「俺達はこれを献上します」
風精霊はうちわを受け取り何もない空間を扇ぎ始めた。
きゃっきゃっと子供が喜ぶ声を聞いたような気がした。
「良いわねこれ。その風を出す道具は要らないわ。持ってかえって」
「なぜだ。理由を言ってくれ」
「その道具は風が硬いのよ。気にいらないわ。このうちわは反対に凄く風が柔らかい。下級精霊も大喜びよ」
「聞いた事があるわ。人工の風は揺らぎがないのだとか。扇風機の良い奴だとAI内蔵らしいわね」
「そんな、じゃあただのうちわでも負けたという事か。くそっ、寄居の策に乗ったのが失敗だった」
「ふっ、策に溺れたわね」
「この勝負うちわの勝ちとします」
俺達について来た見届け人が宣言した。
「これで俺達は二勝だ。野神、後がなくなったな」
「ふん、勝負はこれからだ」
俺達は風の祠を後にして、土精霊の待つ穀倉地帯に向かった。




