第43話 真人間になった殺人貴族
火の精霊が住む山の近くの街に到着したが、何やら住民の態度がおかしい。
何かに怯えているような住人と、激しい怒りを抱いているような住人が多数いた。
「何でこの街の住人の雰囲気はこんな何だ」
俺は雰囲気がおかしくない住人に話し掛けた。
「領主が悪い奴でね。住人に難癖つけては、斬り殺しちまう」
「へぇ、物騒だね」
「住人に先に手を出させるようにしているから、何か言われても我慢すればいい」
「波久礼君、救ってあげないの」
小前田がそう言った。
「うーん、どうだろうな」
なんか嫌な予感がする。
「血も涙もないのね。私が波久礼なら領主を暗殺する。そうでなければ、怒らせてかかって来たところを返り討ちよ」
御花畑はそう言うけど。
貴族を殺すと後が厄介な事になりそうだ。
魔王討伐を約束しているから、迂闊な事は出来ない。
「お前がやるなら反対しないよ」
御花畑がお尋ね者になったらメイク術で顔を変えれば良い。
たけど俺は御免だ。
「そうね。やめとくわ。賢者の役割じゃないもの」
「やりましょうよ。名も無き勇者でしょ」
小前田がプッシュしてくる。
気は乗らないが、名前を上げるには、うってつけだ。
「よしやるか。聖勇者にもできない事を平然とやる。それが名も無き勇者さ」
俺は宿の裏庭に『ゴブリンでも出来る農業』の件で作った肥料を撒いた。
そこにヤルーク草の種を撒き、『女神の涙』を掛けた。
そして、『ヤルーク物語』を片手に。
「カタログスペック100%」
出た芽が光に包まれた。
「何を作ったの」
小前田が覗き込み言った。
「やさしさの種だよ。極悪人のヤルークに命を救われた女神がこぼした涙が掛かった雑草からヤルーク草が生えた。そして、その種を飲んだヤルークが真人間になるといういわれさ」
「貴族を真人間にするの」
「『貴族規範』だと貴族としての矜持は守るけどやさしいと言えないからな」
俺は武器店で手ごろな剣を買いドラゴンの血を塗った。
さてと、領主とご対面といきますか。
俺は献上の剣を持ち、一人で領主に会いに行った。
剣を門番に渡す。
「お前はハグレという名前ではないだろうな。その男が暗殺に来るというタレこみがあったのだ」
やっぱりな、野神の妨害工作か案の定だ。
嫌な予感がしてたんだ。
「ギルドカード見て下さいよ。シロウってあるでしょ」
「そうだな。念の為、丸腰かどうか調べるぞ」
「ええ、お好きなように」
俺は口の中から下着の中まで検査された。
「所持品は種を炒った携帯食か」
「はい、そうです」
「その種を食ってみろ」
「お安い御用です」
俺は種を食べた。
「大丈夫なようだな。念の言っておくが魔法を唱えたりしたら切り殺すからな」
俺は領主のいる鍛錬場に通された。
「この剣は凄いな。斬り合っても刃こぼれ一つしない。人間を切るのが楽しみだ。そちはなんと言うのかな? 覚えておこう」
俺は隙をみて種を一粒、領主の口に放りこんだ。
「お前今何をした」
兵士が俺に切り掛かってくる。
俺は身体に剣を受けたがドラゴンの血染めのシャツで食い止めた。
「やめろ、やめるのだ」
領主が兵士を制止した。
種が効果を発揮したな。
「俺は帰らせてもらう」
「よい、下がる事を許そう」
領主の館から出て、俺は叫んだ
「みんな領主は真人間に生まれ変わったぞ! それを成したのは名も無き勇者だ!」
「お前が名も無き勇者だと、くそぉ。お前のせいでどれだけ俺が悪く言われたか」
野神が現れて悔しがりながら言った。
こいつ、このいざこざを利用して俺を殺そうと計ったな。
領主を殺していたら、危なかったかもな。
一瞬、野神にもやさしさの種を食わせてやろうかと思った。
しかし、こいつの罪は真人間になったからと言って許される事じゃない。
ここで斬り殺すと後が厄介だ。
民衆の目がある。
今回は辞めておこう。
「態度を改めないお前が悪いんだろ。聖勇者だろお前は」
「そんな事は知るもんか。拉致した異世界が悪い。勝手をやって何が悪い」
「みなさん、ここに居る勇者は役立たずです。名も無き勇者をよろしく」
「覚えてろ、許さんからな。」
俺は大騒ぎになる前に宿に戻った。




