第42話 若返り体操
俺達は無事に職業の神殿まで辿り着けた。
エリクサーを一本売って金を作り、転職の儀に臨んだ。
「転職の儀を受けられる方はあなたですか」
「そうだ」
神官の問いに頷きながら俺は答えた。
「規則なので聞きます。今の職業は?」
「ジョブレスだ」
神官は分厚い本をめくり何かを探した。
「そのような職はありませんな。レベルは今いくつですか」
「レベルは無い」
「からかっているのですか。それではまるで無職ではないですか」
「そうだよ。無職だよ。悪いか」
「転職の儀ではレベルを神に捧げて新しい職を授かります。あなたは転職できません」
「やってみなくちゃ分からないだろ。失敗してもお金返せとは言わないからさ」
「よろしいでしょう。その代わり依頼をやってもらいます」
「どんな依頼だ」
「清めの泉が濁って腐臭を放っているのです。それをなんとかしてほしい」
「やってやるよ」
「ギルドに依頼を出しています。勇者様が受けてくれたのですが、どうもあの方は信用できない。目の感じがとても嫌なのです」
「ふーん。じゃあ行くよ」
「見届け人を一人つけますのでよろしくお願いします」
俺は見届け人の神官を連れて、パーティの二人と合流した。
清めの泉に行くと濁っていて確かに臭いがきつい。
泉自体には浮遊物はないから、たぶん原因は上流だろう。
山をかき分け探索する事三時間、源泉に着くと野神達が待ち構えていた。
「お前は波久礼。指名手配をくぐり抜けるとは悪知恵の働く奴だ」
「波久礼君、こんな機会ないんだからすっぱりやっちゃって」
「小前田はそう言うけど、決闘とかでもないのに、ここでは不味い。目撃者を皆殺しにするほど、血に飢えてない」
「ふん、臆したわけではないが、決闘はしないでおこう。部下なら相手をしてやっても良いが」
「私達がいるのを忘れてもらっては困るわ。部下同士で決闘しましょう」
御花畑がしゃしゃり出てきた。
「まあ、まあ。それより、逮捕しないのか」
「指名手配はあの国だけだ。見届け人の邪魔もいるし、今回は命拾いしたな」
「それより依頼はどうなった」
野神があごをしゃくった先には源泉があり、そこには水で作られた少女像があった。
よく見ると少女像は動いている。
襲ってこないところをみるとモンスターじゃないな。
「新たな来訪者の方。私はもう寿命です。自然の摂理に背くような事はおやめ下さい」
「あなたは?」
「水の精霊です」
「水の精霊が死ぬと大変じゃないのか」
「私は死んで新たに新しい私が生まれます」
「そうなのか。それならこの依頼も時間が解決するのか」
「波久礼君、助けてあげようよ」
「新しい私は最初から充分に力を発揮できないでしょう。泉が元通りになるには十年は掛かります」
「なんとかするしかないな」
「俺達は既に解決策を持っているぞ」
野神が小瓶を手にして言った。
「無駄だと思いますが、あなたの努力に答えましょう。どうぞお好きなように」
野神は小瓶の中身を水精霊に振り掛けた。
「力が少し戻りましたが、延命するには至らなかったようです」
「そんな馬鹿な。世界樹の葉を使った若返り薬だぞ。人間なら三十歳は若返るはずだ」
「俺の番のようだな」
俺は『おばちゃん虎の巻』を取り出し、水精霊に触って。
「カタログスペック100%」
水精霊は光に包まれた。
「今から俺がやる動きを真似てくれ」
俺は『おばちゃん虎の巻』に書いてある若返り体操を始めた。
水精霊は懸命に手足を動かした。
「力が、力が戻ってきます」
「睡眠とか要らないんだろ。好きなだけ体操して若さを取り戻したら良い」
「ええ、感謝を。摂理に反するのは心苦しいのですが、この大変な時期に生まれ変わるのもどうかと思っておりました」
「これで依頼は終了だな」
「救って頂いた身でこんな事を言うのははばかられるですが、他の精霊も困ってるので救って欲しいのです」
「しょうがないな。乗りかかった舟だ」
「波久礼、勝負だ。俺が勝負に勝ったら、お前には死んでもらう。お前が勝ったら決闘を受けてやろう」
野神が勝負を挑んで来た。
決闘してくれるなら、勝負に乗るべきだな。
「ああ、良いぜ。精霊を救う勝負だな。精霊は何体いるんだ」
「私の他に三体。そして聖獣様がおられます」
「なら、精霊四に聖獣一の五回勝負だな。今回は俺の勝ちだ」
「汚いぞ。勝負がついているのも含めるのは」
「そっちはクラスメイトが半分いるんだろ。こっちは俺を含めて三人だから、ハンデだよ」
「ふん、小ずるい奴だ。いいだろ」
「ジャッジは見届け人にしてもらう」
「分かった、お前ら引き上げるぞ」
「「「「おう」」」」
俺達が神殿に戻ると、清めの泉は澄み渡っていた。
精霊は力を取り戻したんだな。
疲れないだろうから、あれから体操しまくっているのだろう。
事の次第を報告したら、転職の儀は勝負が着いてからという事になった。
そして、俺達は精霊を救う旅に出た。




