第28話 ドラゴンの血
俺達は立ち寄った街で生活物資を補充する事にした。
香辛料を手に入れる為に商店のドアを潜る。
鼻がスッとするような匂いがした。
「こんにちは」
「香辛料をお求めですか、当店はこの街一番の品揃えだと自負しております」
店番の女の子が俺に応対してくれた。
各種香辛料を買って精算しようとした時に女の子が気になる事を言い始める。
「あの、この秤、狂っているかもしれないので、ちょっぴりオマケします」
見ると秤にはあの黒い水晶がはめ込んであった。
「その秤の話を聞かせてよ」
「行商人が持って来たんです。赤い目を見て、話を聞いてるうちに、買わなきゃってなって。気づいたら購入してました」
「どんな奴だった」
「黒髪の七三分けです」
赤い目の他は行田の特徴だ。
行田は催眠術を会得したらしい。
商人のレベルが上がったのかな。
確かに物は売りまくっている。
前の時は催眠術なんてスキルは覚えなかった。
だが職業商人ならあり得るか。
よし、被害者は救済してやらないとな。
説明書には劣化しなければ狂わない秤とある。
そりゃそうだ、劣化すれば狂うに決まっている。
でも普通は少し劣化したぐらいでは大幅に狂いはしないだろう。
魔法が掛かっているな。
「狂わないように改造したいんだけど。良い?」
「ええ、廃棄しようと思ってるところでしたから。でも不思議と手放せないような気になるんですよ」
呪いを掛けられて手放せないようになっているんだな。
「なあ、小前田。錬金術に壊れなくなる塗料とかないよな」
「うーん、無いと思う」
「あの、壊れなくなる物ならあります。ドラゴンの血を塗った剣とか」
女の子が俺達の話を聞いて答えをくれた。
「ドラゴンを退治した話なら聞いた事があるけど、そんな話があったのか」
「『カエリックサーガ』で英雄がドラゴンを倒した時に装備が血まみれになるんです。それから剣と鎧が不壊になって大活躍するんです」
「お話なら使える。でも、ドラゴンの血を取ってくるのは面倒だな」
「波久礼君、錬金術のレシピにドラゴンの血と呼ばれている塗料があるよ」
「ならやってみるか」
ドラゴンの血の材料はこの街の商店で手に入った。
トマトと、赤錆の粉と、唐辛子の粉だ。
それに錬金術で使う熔解剤を加えると出来上がる。
それに『カエリックサーガ』を借りてスキルを掛けた。
後は秤を塗ってスキルを掛けるだけだ。
「カタログスペック100%」
秤は光につつまれた。
俺は秤を店の中央に置いた。
「御花畑、いっちょ試しに、魔法をぶっ放してみてくれ」
「店の中じゃこれね。ファイヤーニードル」
鉛筆程の炎が秤に当たり火の粉を散らした。
秤には焦げ跡さえ付いて無い。
「使ってみてくれ。狂わないはずだ。しばらくこの街にいるから何かあったら言ってよ」
俺は急いで書店にて『カエリックサーガ』を買い求め、そしてドラゴンの血を量産した。
もちろん秤も改造しまくったが、俺達の装備もドラゴンの血で染めるためだ。
良い機会なので装備をドラゴンの血で染める事にした。
小前田は町娘が着る衣服で、御花畑は白い魔女ルックだった。
ドラゴンの血はその名の通り赤い染料なので俺の美意識に反する。
表に出ないシャツとか装備の内側を染め、スボンも二重にはいて内側のズボンは真っ赤に染めた。
小前田は染めるのを嫌がったが、見えない所を染めたようだ。
御花畑は大胆にも白い魔女ルックを真っ赤に染め、ご満悦。
塗りたくは無かったが鍛冶屋に貰った剣も一応処理した。
俺は赤い剣を抜き冗談まじりに言う。
「聖剣ドラゴンブラッドが成敗する。俺は名も無き勇者だ」
「それなら私は獄炎の賢者よ。不用意に近づくと獄炎に焼かれても知らなくてよ」
「二人ともずるい。私はポーションの聖女。どんな傷でも癒します」
俺はちょっとした事を思いつく。
野神に嫌がらせをしてやろう。
俺が名も無き勇者で名声を得ると、野神は比べられて後に引けなくなるかも。
そうすれば奴の事だから張り合ってモンスターをしゃにむに倒すに違いない。
モンスターに負けるとは思わないが、怪我をしたり弱ったりはする事が考えられる。
とりあえずの目標は呪いを振りまいている行田を殺す事だ。
その間のけん制の策としては良いかもな。




