第25話 頭の良くなる実で無限の可能性を発現
俺達は隣町でメリアと別れ更に旅を続けた。
そして、国境で一番栄えている公爵領の領都ガミストに到着。
ここは港町で他国との商売の為の船が盛んに行き来していた。
宿を取ろうと街中を馬車で移動中にふらふらと男が。
急いで馬車を止めようとしたが間に合わず男は馬にはねられた。
あちゃー、当り屋じゃないだろうな。
俺は馬車から飛び降り、急いでエリクサーを男に振りかける。
男はむっくりと起き上がり何事もなかったかの様に本を読みながら歩き始めた。
「ちょっと、大丈夫なのか」
「球の体積は……」
俺は男の肩に手を置いて揺さぶり、やっと男はこちらを向いた。
「うがぁ、公式が分からなくなった。どうしてくれる」
「えっ、俺が悪いの。しょうがないな。馬ではねた負い目もあるし、何か悩みを一つ解決してやろう」
「見て分からないか、文官の採用試験に受かりたいんだよ」
「と言われても、勉強教えるほど頭良くないし。そうだ、小前田と御花畑はどうだ」
「無理、無理」
小前田は手を振り否定した。
「そっち方面は他の人に譲るわ」
「二人共、無理かぁ」
「波久礼君、スキルでなんとかしようよ」
「頭の良くなる物語なんてあったかな」
「それなら、僕が知っている」
男はそう言って本を閉じた。
「それは本になっているのか?」
「ああ、領都の風土記に書いてある」
「そんなに記憶力があるのなら試験に受かりそうなものだと思うが」
「覚えているさ。忘れたくても忘れられない。あの商人の野郎。偽物売りつけやがって」
「商人て?」
「フードを被った陰気な奴さ。ちらっとフードの隙間から見えたが、エラの張った顔をしていたな」
「黒髪、黒目じゃなかったか?」
「髪は黒だったが、目は赤かった」
行田だと思ったんだがな。
赤い目は変装かな。
詐欺を働くぐらいだから、変装の一つもするだろう。
「えっと? さっきの話だが、偽物とは何だ?」
「風土記に頭の良くなる実というのが紹介されてて、それを山ほど売りつけられたんだ」
「役人に訴えたりは」
「実は本物さ。そういう伝承があるってだけ。騙されたと知って、詳しく調べたら分かった」
「風土記にはただ単に頭の良くなる実として紹介されてると」
「ああ、そうだ。商人に風土記に載ってると言われて。風土記は試験範囲に入っていて持ってるから、すっかり騙されたよ」
「それなら、なんとかなる」
「本当か。僕はもうお金はないぞ」
「お金は要らないよ」
男の下宿に行くと木箱に果物の実がぎっしり詰まっているのが何箱もある。
果物はリンゴに似ている。
違うのはオレンジ色というだけだ。
俺は一つ貰って、齧ってみた。
みずみずしい果汁が口の中に溢れる。
程よい酸味と甘みが、とても美味かった。
詐欺に使うとしては良い品物だ。
これを仕入れたのは行田か。
奴は目利きは確かだからな。
詐欺の品物にも手を抜かない。
女子生徒を餌にしようとも、顧客にパーフェクトに応える奴の考え方だ。
やっぱり奴の仕業だな。
確信した。
「じゃあ、やるよ。カタログスペック100%」
『ガミスト風土記』を片手に果物にスキルを掛けた。
「食ってみろよ」
「食費も無くって、この実を散々食ってうんざりだよ。だけど、最後だと思って食べる」
男は果物を丸かじりして種を吐き出した。
そしてもの凄い勢いで本を読む。
「凄い今まで苦労してたのが嘘のようだ。お守りにも報告しなきゃ」
男はそう言うとポケットから小さくて黒い水晶玉を取り出した。
「それは何?」
「商人がサービスでくれたのさ。このお守りを握ると他の受験生への嫉妬とかイライラとかが緩和されるんだ」
「ふーん、役に立っているなら良いのかな」
「あれっ?」
「どうした小前田」
「それ、同じのが鏡にも付いてたよ」
「どれどれ」
俺はアイテム鞄から鏡を出してみると、飾りとして黒い水晶玉が付いていた。
この果実も行田の仕業って事だろうな。
確信が持てた。
「なんか、このお守り嬉しさも吸い取るような」
「捨てた方がいいんじゃないか」
「有頂天になると不味いから、ちょうど良い」
「あんたが良いのなら別に良いけど」
「それより騙された受験生はいっぱい居るから、そいつらも助けてくれないか」
「不利になるけど、良いのか」
「良いさ。この実があれば、王都の試験にも受かるはず。どこかの貴族の家庭教師なんかやっても良い。頭が良くなって無限の可能性がある事に気づいた」
男はそう言うと俺達を塾のような所に連れて行った。
俺達は騙された受験生を救済して幾ばくかの謝礼を得た。




