第21話 魔王軍工作員
Side:魔王軍工作員
私はしがないドッペルゲンガーで魔王軍工作員の一人。
人間に姿を変えて、ある街へ行った。
「これはこれは、勇者様におかれましてはご機嫌麗しく。貴重なお時間を頂いてありがとうございます」
「挨拶はいい。用件を話せ」
「はい、勇者様から頂いたアイデアを商品にしてみました」
私はアイテム鞄から姿見を取り出した。
「痩せて見える鏡だな。一つ金貨1枚で買ってやろう」
「ありがとうございます」
「ギョウダ、売り捌け」
「はい、分かりました」
「本日はお持ちしなかったのですが、まだ商品はあります。どなたか持ちに来てもらえますか」
「おう、ギョウダはかなり大きな収納スキルを持っていたな。鏡を売り捌くついでに、商品を取りに行って来い。仕入れ値の値付けも任せた」
「はい」
ギョウダは途中、鏡を全て売り払った。
敵ながら見事なものだ。
私はギョウダを連れて本拠地のある街に帰還した。
宿にギョウダを残し、拠点を目指す。
スラム街の路地は糞尿にまみれ死体が転がっている事さえある。
魔王様の納める魔王城周辺ほどではないが大変心地良い雰囲気だ。
拠点である廃屋の一つそこへ足を運ぶ。
上司であるカタリーヌ様に報告する為だ。
「ご苦労様」
見張りのビックラットに挨拶をした。
「ちゅう、ちゅう」
なんと言っているのかは分からないが、お前もなと言っているような気がした。
中の壁は一面血に塗られ、通路には好奇心に負けてここに入ったスラムの住人の骨が散らばっている。
荒事対応の門番としてゴブリンキングが扉の前に立っていた。
「お前も大変だな。慣れない人間社会で商人の真似をしなきゃならないとは」
「お前ほどじゃないな。聞いたぞ。スタンピードを起こすのだってな」
「手下のゴブリンは放って置いても増える。冒険者が厄介だが、魔王軍の傘下の協力者が居れば、わけないぜ」
「魔王軍の決起も近い、慎重にな」
「分かってるよ」
ノックをして奥の部屋に入ると、吸血鬼のカタリーヌ様が骨で出来た椅子に座っていた。
「だだいま戻りました。カタリーヌ様、言われた通りに負の感情を集める鏡を勇者達に売って来ました」
カタリーヌ様は赤い目を細め私を出迎えた。
「よくやったわ。褒めてあげる。そろそろ負の感情が沢山集まっているはずよ」
カタリーヌ様は黒い髪をかきあげ、ローブの裾からオーブを出す。
そして手に持ったオーブを覗き込んだ。
「これは……」
カタリーヌ様の表情が曇る。
「どうか致しましたか」
「正の感情が集まっている。何故?」
「痩せて見える鏡で満足して幸せな気持ちになったのではないでしょうか」
「そんな、一時的に痩せて見えたのが、実際は痩せてない。このギャップに苦しむはずだわ」
「すいません、私がふがいないばっかりに」
カタリーヌ様が苛立って力を込め、手に持っていたオーブがミシミシと音を立てた。
そして、オーブは砕け散り正のエネルギーが空間に満ちる。
私は不快感に思わず眉をひそめた。
「おのれ勇者。勇者が妨害したのよ。そうに決まってる。考えてみればあれも変だった」
「あれと申しますと」
「勇者に役に立たない指南書を何点か売りつけたのだけど。足を引っ張る事が出来たかどうか」
「何か不審な点でも」
「値切られたのよ銀貨一枚にね。勇者に尽くせるのだから、無料でも良いぐらいだと、傲慢に言っていたけど。あれは役に立たないと知っていたに違いないわ」
「では役に立たない道具を売りつけるのを中止しますか」
「いいえ、資金集めの目的もあるから続けるわ」
「了解しました。これからは勇者の目に気をつけて行動いたします。勇者の仲間がこの街に来ています。いかが致しましょう」
「例の計画を実行するわ」
ギョウダの待っている宿にカタリーヌ様と戻った。
「ギョウダ様、上司のカタリーヌ様です」
「聞いてます。指南書を売った縁で取引が始まったのですよね」
「ええ、その通りです」
カタリーヌ様がギョウダに近づきます。
軽くキスをしてから、首筋に口を近づけ牙を剥き出します。
「接待してくれるのか。嬉しいな。こんな美人とやれるなんて。くっ、噛むなんて激しいな。激しいのは嫌じゃ、な、な、ない」
ギョウダがカタリーヌ様の眷属になりました。
目が赤く、犬歯が尖って牙になっています。
「不味い血ね。生臭くて敵わないわ」
「すみません」
「いいのよ。血の味ぐらいで怒らないわ。ギョウダにはこれからスパイをしてもらうんだから」
「仰せのままに」
「とりあえず商品を売って頂戴。得意でしょう」
「任せて下さい。職業は商人ですから」
ギョウダに商品を渡し、私の仕事は一段落しました。
さて、次の任務は何でしょうか。




