9,しにがみの制服
(無事に行けたかな?)
転生とは少し勝手が違う転移、そこから人が一気に消える。そして存在もなかったことになる。
空いた教室を光先は見つめる。
随分授業中にもめている雰囲気だったが、勉強とはあのようなことなのだろうか。
光先はライフルを片付けながら隣の教室を覗き見る。
そちらの生徒は静かに、先生は黒板に何かを書いている。どうやらこっちが正解のようだ。
(中学生って大変なんだな)
光先には記憶がない、そのためそのような感情しかわかない。だが授業内容は少し興味があった。普段どんなことを習い、過ごしているのか。
知識はある、昼には給食か弁当を食べ、夕方には部活というものをする。スポーツをする人、勉学関連に励む人、芸術を磨く人。
自分ならどれになるだろうか。どの部活も大体のやることはなんとなく分かるが実際どうなのかは見てみないとわからない。このまま放課後まで待機していようか。
残念ながらそれは出来ない、今日はこの任務始めてから初めてのダブルワーク、夜に1件控えている。夕方にはそちらの準備をしないといけない。非常に残念だ。
だがサボるわけにもいかないし、そうしたいと考えはあるが行動はしない。つくづく真面目なんだなと実感する。
(学校か……)
おそらく自分には無関係なんだろうな。
光先は片付けを終え、学校を後にする。
次の目的地へ、自宅に戻り昼食を済ませた光先はひと眠りしてから準備を始める。
といっても内容は簡単。
まずは制服に着替える。だぼだぼジャージを脱ぎ捨て、ベッドに座り白いストッキングを履く。
今度はスカート、神だからなのかカクヅチさんの趣味なので分からないが、白という珍しい色のスカートをはめ、ベルトを締める。ベルトも白色だ。
ワイシャツを着ることを忘れていた。光先ははおりボタンをひとつひとつ留めていく。一度締めたスカートのベルトを緩め、裾を入れる。
最後は上着、これも白がメイン水色がワンポイントに入ったブレザーを着る。胸にネクタイではなく可愛いリボンをつけて出来上がり。
一見かなり白多めの見た目、普段街中を歩く時はこの恰好なので光先は目立って少し恥ずかしさを覚えている。しかし恰好自体は気に入っている。今日行った中学生の制服とは全然違う先進的なデザインとリボン、自分に似合っているかは不明であるがこの制服は可愛いと思っている。
そしてこの制服は神様仕込みの仕掛けがある。光先はスマホを手に取り、専用アプリを開く。後はそれをタップするよとあらま不思議、先程まで白がメインだった制服が赤色に変化していくではありませんか。先程までブレザーにあったワンポイントの青色が白色に変わり、他はほとんど赤色に変わる。
リボンだけは特別、その時の光先の気分によって変化出来る。今日は黄緑にしてみようか。
色が変化することで光先の存在が一般の人には見えなくなる。見える時は白色、見えない時は赤色。これで心置きなく任務に集中できる。
こっちのタイプの制服も好みだ、赤色はおそらくカクヅチさんの好きな色なのだろう。トレードカラーでもあるから。
(今度姿見、頼もうかな)
やっぱり自分が似合っているか確認したい。例え似合っていなくともこの可愛い制服に身を通していることを実感したい。
光先の家にはまだまださっぱり物がなく殺風景だ。メイから欲しいものがあったら気軽に言ってカクヅチさんが作るからと、いっぱい頼むとカクヅチさんが大変なことになるのでほどほどにしておこうと思っていたが一つくらいなら許されるかな。
最後にクローゼットからライフルが入った白いバックを取り出す。
クローゼットに閉まっているわけは、現状人がこの部屋にくるわけがないと思っているがもしも来客が来た時に怪しまれないようにするため、といっても一般人には見えない作りになっているが透明な物に誰かが引っかかって怪しまれるわけにもいかないので、クローゼットだ。
(準備完了)
光先は部屋の窓をすり抜ける。これも制服の神様パワー。
外は天気は特に変わらず晴れていて初夏の夕方に入るころ。これから向かう地域に行けば少しだけ太陽の位置が高くなるだろうか。
光先は少しずつオレンジ色に染まる太陽に手を当てる。夕方のさみしくなる感じ、今の自分は好きだと思う。生前はどうだったのだろうか。
(では出発)
光先はスマホを手に取り、これまた移動用の専用アプリを開きそれを押す。
目を閉じたら一瞬、目的地の山奥に来た。ワープしてきた。
今回の目的の人物がいる地域は関西、今までは東京都内で任務をしてきたが初めての遠征だ。といっても基本ワープ移動という神能力のせいでそんな気分にはならないのだが。
予想通り、こちらの太陽は少し高い時間が少し巻き戻ったような気持ちにさせる。気温も向こうに比べ湿っぽく少し暑さを感じる。季節が進んだような感じ。
今までの移動は制服神様パワーを活かしてビル街の上を飛びながら移動してきた。まるで忍者ようにスーパーマンのように。今ならスーパーウーマンか。そんな派手な行動をしても一般人に見られることは決してない。この特権は光先は気に入っていた。
今日も時間があるのならば散歩がてらここまでいつものように行きたかったがダブルワーク、そんな時間がないので悔やまれる。
(さて、準備しよ)
とってもライフルを地面、今日は木々が生い茂った土に置くだけ。前方には崖に沿ったカーブの道路、転落するならいかにもな場所だ。
そこで今日のもう一つの任務が始まる。