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58,推し活少女の悲劇

(イケメン男子か)


 光先いつも通り任務の準備をしながらそんなことを考える。

 というのも今回のターゲットは推し活なるものをやっている人が異世界召喚対象になったようである。

 推し活、初めて聞く単語。そして初めてそれらの文化についてふれた光先。

 アイドル、男も女もそれぞれ存在し熱狂的なファンをつけて活動を続ける方たち。少し前まではアリーナや球場のような大きな施設でないと会えなかったが、現在は配信サイトの普及によって、よりアイドルと身近に感じることができるようになっているとか。

 アイドル、推しなる方がゲーム配信を生放送してみたり、雑談やカラオケだったりと活動しながらなおかつファンからのコメントを読むことが出来る。この仕組みはちょっと前に配信について光先は知る機会があったので覚えている。

 そしてその活動者が様々なグッズ等を販売することで、ファンに購入してもらいウィンウィンな関係を得るという。

 ターゲット六花水連ろっかすいれんも熱狂的なアイドルファンの1人らしく、部屋の中を窓から覗けばそのアイドルと思わしきポスターが大量に壁に貼られ、棚にはアクリルスタンドやぬいぐるみなどが置いてあった。


(部屋に統一感がある)


 派手派手そうに見える部屋だが、そのアイドルの色に染まっているおかげかむしろ見やすく、住みやすいかはその人にならないと分からないが、少なくとも光先の住んでいる物がない部屋とは比べ物にならなかった。

 そんな彼女は現在高校1年生、これから異世界に召喚されてしまう。

 異世界に転移や召喚は本人の意思関係なく、また本人にとってそれがメリットになる世界に渡ることが出来るかは正直微妙。今回のターゲットには少なくともマイナスになってしまいそうな気さえする。

 せっかく推し活を精一杯楽しく元気にやっているのに急に異世界に飛ばされたら、そもそも異世界には推しのアイドルが存在しなくなってしまうので悲しいことこの上ないだろう。

 しかもメイいわく、勇者目的で召喚されるのに適正がないとすぐに蚊帳の外にされてしまうらしい、ひどい。

 彼女は勇者のように戦うためのスキルは会得できないが、その世界では唯一無二の鑑定眼スキルを手に入れようである。今回の異世界先は発展途上ゆえに陶器や絵画、あらゆる娯楽物に偽物が多く出回っており、それを彼女ただ1人が本物かどうかチートスキルで区別出来できてしまう、得することが出来るらしい。

 使い方によってはかなり良い暮らしができそうではあるが、その前に異世界に行ってしまったショックの方が大きくすぐに立ち直ってくれるかどうか。


(自分だったら……わからないな……)


 そもそも夢中になって何かをしたことがない光先にとってそれがどれだけの虚無感に襲われるかわからない。だからこそ羨ましいとさえ思えるのだ。



「今日は夜から配信!絶対見るぞ~」


 六花水連はメガネをくいっと上げながら、推しのスケジュールをスマホで確認していた。

 推しのケイト様。水連はそう呼びながらいつもの団扇を持ち画面越しで応援する。

 学校は授業が終わりすぐに帰ってきた。部活はしていない。中学の時は卓球部をしていたが高校ではする必要がない。

 全てはケイト様のために。

 推し活をしているが勉強をおろそかにしているわけではない、メリハリをもって学校にいる時は真面目ちゃんとなって休み時間も予習復習している。進学校に通っているのでそのように休み時間を過ごしても誰にとやかくされることはない。その代わりクラスメイトに友達と呼べるものはいないが。

 推し活の同士なんかもたらよかったのだが、真面目な学校なためそのように公言している人を発見することができない、というより自分も隠れてしているので人のことは言えない。

 だが家に帰ってくればそんなのは関係ない。推しのために時間を捧げるのだ。

 帰ればまず推しの過去の配信アーカイブをつけながら着替えやら用事を済ませ、グッズの整理を始める。

 ケイト様のために、グッズが汚れてはいけないと毎日丁寧に拭きあげている。

 学校には黙っているが家族には公言してある、というよりグッズの量をみれば隠せるわけがない。母は公認してくれて自由に応援すらしてくれる、本当に優しくて助かる。

 それに対して父は反対らしくよく思ってくれてないらしい。別に父のためにやっているわけではないのだからほっといて欲しい、今日も頑張って働いてください。と言いつつもこうしてたくさんのグッズを沢山集めることが出来ているのは父の稼ぎのおかげなので全部が全部反抗するわけにはいかない。ただ趣味くらい自由にさせて欲しい。そういう父だってグラビア雑誌たくさん持っているくせに。

 6畳くらいの自室は今日もピカピカである。このままケイト様の配信を待つだけの水連。

 世の男たちは推しの何人もいるらしいが、水連はケイト様ただ1人。もちろんケイト様に限らずあの人良いよね、かっこいいねとかはあるがゾッコンなのは変わらない。

 学校の男子はダサくていやだ。というより興味がわかないし、向こうも興味がないだろう。地味のメガネをかけて髪型もオシャレなんてしていない。そんなことするくらいならケイト様のために奮発する。

 見向きもされないことには慣れた。あんたはメガネじゃなければそれなりにモテそうと、母は学校当時そこそこに告白されていたらしいことを言ってくれるが、その通りメガネがあるからモテないのか、そもそも素質がないから女子にすら声をあまりかけられない。

 だがそれもいいと踏ん切りはついている。全てはケイト様のために、なのだから。

 この世の楽しみ、将来なんてどうでもいい、今、この瞬間を楽しむのだ。

 ケイト様がいない世界なんて考えられない。もしそんな世界に行ってしまったら、絶対の先がこんにちはするだろう。それが何なのか不明だが。


「あと1分、あと1分」


 こうして水連がワクワクと配信待機をして、始める瞬間に異世界に飛ばされた。



(頑張って)


 光先は空薬莢をいつものように噛みながら、そう願うことしかできなかった。

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