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55,しにがみと雪

 光先は任務のため初めて日本の北の方にやってきていた。


(凄い、白い)


 光先の目の前には建物は無く、真っ白な銀世界が広がっている。

 雪を手に取る。

 ふわっとした感触、冷たいような気がするが今は任務モードの格好なので寒さはわからない。

 周りに人がいないことを確認して、制服を通常モードにする。


(さむ!)


 冬の真ん中、寒さには慣れてきたと思っていたがそれはあくまで都内の話、本場の寒さは桁違いに思った。

 息が白い、手が赤くかじかんでくる。

 これ以上は風邪を引いてしまいそうな気がするので、任務モードの格好へ。

 でもこれでまた一つ経験できた、北の冬は本当に寒いのだと。実際どれぐらい寒いのか行ってみないと分からないこと、それを目の前で体験できた。

 雪が降ってきた。

 最初は小粒だったが、だんだん本格的にふり始める。この地域の日常、それが光先にとっては新鮮そのものだ。

 光先はふと何かに気づく。

 キツネだ、キツネが歩いている。

 ここでしか見ることのできない動物、犬のような見た目ともふもふした毛が寒さに耐えるガード役になっている。キツネは寒さを全然ものともせずに凛として歩いてゆく。


(幻想的)


 ここには光先とキツネ、それ以外には雪しかない。

 光先はじっとキツネを観察する。するとキツネは1匹ではなかったらしく、奥からもう一匹現れた。そして2匹は楽しそうに雪の中じゃれ合っている。兄弟だろうか、それともつがいなのだろうか。そしてキツネたちはじゃれ合いながらどこかにフェードアウトしていった。

 再び光先ただ一人、だがそれも悪くないと、むしろそれが落ち着くようにすら感じていた。天使だからできること、生まれ変わったから味わうことのできる光景。


(さあ、いこう)


 光先はもう一度雪をさらさらと手に取ってから、目的地に移動する。



(屋根の雪、凄い積みあがってる)


 光先がやってきたところは先ほどの場所から少し離れ、住宅がちらほらとあるところ。ここは小学生の通学路になっているらしく、児童注意の標識の看板がある。その看板も雪で隠れないように小さな可愛い屋根がついておりその上に雪が積もっている。

 光先は建物に積もっている雪の量に驚きながら、ライフルを取り出し準備を始めていた。

 今日の狙撃位置は雪のせいか、いつもより目立つ家の塀からの指示になっている。といっても人に見られることはない。本当なら家の屋根の上からの方がやりやすそうだが、雪があるため困難だろう。仮に登っていけたとしても雪崩を一気に起こしてしまい、その人の家の迷惑をかけてしまいそうだ。

 早朝、そろそろ日が明けるくらいの時間にターゲットは活動を始めているらしい。狙撃ポイントにくるのはもうちょっと後だ。

 除雪、ターゲットは小学生や社会人が少しでも歩きやすいように除雪機を使って雪をはけている。


(雪は雨みたいに流れないから大変だよね)


 ここに来る前に除雪機について調べたが、大きい機械を歩いて動かして雪を別方向にどかす。機械の先端には雪を粉々にする金属の刃がついており、その後ろに雪を飛ばすための筒のような形状、そしてエンジンルームがあり下にキャタピラがついていた。

 雪をどうにかするために人は知恵を使ってこうして機械を作る。


(手作業よりよっぽど便利だよね)


 しんしんと降り続ける雪を毎回、かなりの量を手作業で除雪することはかなり大変なことであると普段雪に縁のないところに住んでいる光先でも容易に想像できた。

 光先にとっては雪は新鮮で楽しいものに思えるが、ここの人たちにとっては日常なのでそんな感情よりもまた雪かと疲弊しているかもしれない。


(それにしても静か)


 まだ通学通勤時間でもない、そして雪のせいか音がかき消されている気がする。静寂、無が広がっているようにも思えてきた。

 そんな環境でターゲットはこれから転生する。

 今回の転生する瞬間はいつも以上に凄惨なことになるとメイから言われている。そして光先も除雪機の形状を知って何がどうなるのか理解していた。

 どんな人の死に方に残酷以外の表現はないだろう。特に転生に多い事故死はその中でもトップクラスだ。

 光先は天使に生まれ変わっているせいか、その光景を目の当たりにしても特に感情が動くことはない。というより、


(未来があるって分かっているから)


 一度死という絶望になるもすぐに生まれ変わるという希望が転生者にはやってくる、それが光先は分かっているから今日も苦に感じることなくこの任務を続けているのかもしれない。

 まもなくターゲットはやってくる。

 遠くからわずかに重機のようなエンジン音が聞こえてくる。

 光先はなんでも見えるライフルのスコープからターゲットを観察する。

 ターゲットは厚着で、白い息を吐きながら、ゆっくりと除雪機を動かしている。

 今ターゲットはどんな表情をしているのだろうか、顔を隠しているので分からない。雪国だからこその格好、顔も隠さなければ寒さにやられてしまう。光先にとってはしっかり観察できず少し残念

 毎日の除雪、いったいどんなことを考えながらやっているのだろうか。

 この後ターゲットは、除雪機が変な音をたてながら一度勝手に止まり、不振がって何か挟まったのか刃に手を伸ばしながら確認する。

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