52,しにがみは旅先で食を堪能しまくります
(次は食)
引き続き盛岡を探索している光先は移動し、わんこそばが食べられるお店にやってきた。
わんこそば、可愛らしい名前だが蕎麦のグループらしく、店内も和のテイストが強い造りになっていた。
光先が案内されたところは広いお座敷、どうやら本来はここでわんこそば大会なるものが行われているようだ。
わんこそば大会は大食い大会に近い形式らしく、何杯の蕎麦を食べられたかで競うようで、人ではない無尽蔵の胃袋を持っている光先はチートなので、それは自ら辞退した。というより辞退しなければ後々面倒になること請け合い、そもそもお店の在庫を無くすくらい食べたいわけではない。
というわけで光先はわんこそばセットを注文した。競技用の食べ方とは別で、色々な薬味をのせながら蕎麦を食べるセットがあり、光先はそっちにした。これなら周りから仰天される心配はない。
「お待たせいたしましたー」
その声と共に漆器が特徴的なお椀が目の前に運ばれる。先ほど注文が来るのを待ちながらこのお店のメニュー表を眺めていたが、どうやら漆はわんこそばには欠かせない存在らしく、こちらも名産品のようだ。
(いただきます)
さっそく一口。
(ん?硬い?)
硬いというのは御幣があるかもしれないが、思ったよりも蕎麦ががっしりしているような、それでいて蕎麦本来の味も薄目でつけた汁の方がしょっぱく感じる。
光先としてはお店の料理だから、蕎麦の風味等々がより洗練に感じられると思ったがどうやら違うらしい。
今度は薬味をつけて食べてみる。
美味しい、薬味の風味が口全体に広がりそれが硬めの蕎麦の食感がアクセントになっている。
(わんこそばって)
どうやらひとつひとつ、丁寧に味わって食べる場合はこの薬味を使って食べ、たくさん食べたい大食い形式の時はお店の人を呼んで掛け声と共にかきこんでいく。
不思議な食べ方、だけどそれが名物となり岩手の要ともいえる存在になっている。
光先は新鮮な薬味たちを丁寧に蕎麦につけながら味わって食べていく。薬味は色々な種類がある。定番のわさび、この前で名古屋に行った時にもあった漬物、旨味の強いマグロの刺身、トロトロしているなめこおろし、お肉もあるとりそぼろ、胡麻、海苔、ネギ。中でも光先が一番蕎麦と相性が良いように感じたのはとろろ、ぜひ食べて欲しい。最後はデザート、今回は杏仁豆腐でした。
(ごちそうさまでした)
世の中色々な食べ方があえう、それを光先はひとつ学んだ。
(小腹が空いた)
気がする、雰囲気、天使はお腹が減るというか食べていなくても生きていける魔法の生き物なのだが、今の光先食い気の方が勝ったみたいだ。
光先は再び盛岡駅に戻ってきている、というよりもうすぐ帰らないといけない。
楽しい旅はあっという間に過ぎていくもので、まだまだ他に観光したい箇所はあるのだが時間には逆らえないので渋々戻ってきたのである。
光先の記憶を戻す何か、それを探す旅でもあったが1日だけではさっぱりのようだ。また定期的に来るほかないだろう。
そんなこんなで光先はとある飲食店に足を運ぶ、そこは盛岡のもう一つの名物が食べられれるところだ。
(冷麵)
焼肉屋さんでよく頼まれる料理、なんでも盛岡冷麵と名前をうっているくらい他の地域とは力の入れ具合が違うらしく、味も絶品とメイから追加で教わっていた。
光先が入ったお店はそんな盛岡冷麵の専門店。
さっそく光先は盛岡冷麵を注文し席に座る。
盛岡冷麵は辛さの種類を選べるとのことで、光先はあらゆる味を堪能したいと思い別辛にした。
少し待てば盛岡冷麵が出てきた。ぱっと見ラーメンのような見た目で上の具材にはきゅうり、ネギ、ゆで卵、チャーシュー、そして一番目につくのはリンゴだった。別辛のキムチは別皿で来た。
(いただきます)
まずはキムチをのせずに弾力のある麺を箸で掴み、啜っていく。
(美味しい)
辛さ無しで器そのままに、麵はもちもちでツルっと口の中に入っていく。ひんやりとした麵は旨みが広がってコシのある食感が最高だ。
スープをレンゲで啜る。
あらゆる旨味が口の中で広がっていく。動物性の旨味だろうか、それでいてラーメンとは違った感じ。
ついつい箸が進んでいってしまう。
わんこそばは素朴な和風の味、対して盛岡冷麵はそれは違う新しいジャンルの食べ物だ。
(キムチと一緒に)
別辛で分けられていたキムチを少し入れる。冷麵の中が赤みをおびていく。
そして麵を啜るとキムチと冷麵の旨味のダブルパンチが最高に美味しい。
硬めのゆで卵は味変にピッタリで一瞬で食べてしまう。どうせなら黄身をスープに溶かせば良かったか。
チャーシューも美味しく、肉の油の甘味もあって辛くなってきた冷麵のとの差別化が美味しさをギュッとしている。
そして、
(リンゴ……)
唯一の果物が冷麵にのっている。それがどういう効果を生むのか。
シャキッといい音を奏でながらリンゴをかじる。
(あ、爽やか)
リンゴの甘さは控えめでどちらかといえば酸味があるのだが、それが口の中をフレッシュにさせてくれる。スープに浸かっていたのでその旨味も僅かに感じられるのに全然合わないということは一切なく、むしろもっと食べたくなる付け合わせ。
リフレッシュした光先は別辛のキムチを全部冷麵の中に投入する。
冷麵は真っ赤になり、見るからに辛そうで、辛いのが苦手な人は仰天してしまうレベル。
(そういえば、苦手ってないな)
光先はふと思い出す、天使に転生してから色々なものを食べてきたがどれも完食してきた。甘いもの、辛いもの、苦いもの、渋いもの、酸っぱいもの、どれも苦手とは感じずパクパクだ。
真っ赤になった冷麵を啜っていく光先。
(流石に辛い、けど)
美味しい。冷麵に辛さは正義なのかもしれない。
辛いので額から汗こそ垂れるが、全然余裕で食べることができる。
(転生前は食べれていたのかな?)
生前はどうだったか知らないが、光先は転生して良かったと思える瞬間。
好き嫌いなくなんでも美味しく食べることができる光先、無限の胃袋、ピンク色の髪、
(なんかそんなキャラいなかったっけ?)
考えても仕方がないので汗をハンカチで拭きながら食べ進める光先。
あっという間に完食してしまった
(ごちそうさまでした)
盛岡冷麵、流石名物というだけかなり美味しかった。
おかわりを所望したくなるがさすがに我慢だ、人間らしく、人間らしく。
わんこそばに盛岡冷麵、名物とは違うが朝には鴨南蛮蕎麦も食べかなり食を堪能した光先。
帰りの新幹線はその余韻に浸るように眠りながら帰った。