表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

51/58

51,しにがみは観光のため北へ

(ずいぶん冷える……)


 光先は新幹線から降りて第一歩、まずそのような感想がうかんだ、というより痛感している。

 盛岡、メイの出身地であり光先の地元であるこの地は東京に比べて遥かに寒かった。はるかに、というか実際の気温で調べらたら大した変化ではないかもしれないが、気候というか肌を伝う空気が東京とは明らかに違いひんやりとする。

 名古屋以来、再び使用した新幹線は、向こうのよりもゆったりと落ち着いた車内の雰囲気で乗り心地は良かった。ただ一つ難点があるとすれば、路線ゆえ山をよく突っ切るせいかトンネルが多く、風景をあまり楽しむことが出来なかった。

 やっぱり空を飛んでしまおうか、どうせメイに怒られるだけだ。否、何回も忠告を無視するとイザナギさんが出てくるらしいと事前にメイから言われている。仕事モードのイザナギさん、威厳の固まりみたいな状態のイザナギさんに絞られることは流石にちびってしまいそうになるので辞めておこう。

 盛岡駅を見渡す光先。


(なんか静か)


 人が少ないということはあるかもしれないが、常に喧騒としているような東京駅に比べ、盛岡駅は何もかもが静かに感じられた。

 人の流れ、駅の風景、空気管、それ以外にも様々な要因があるだろうが同じ日本でもここまで違うのかと内心でびっくりする。

 それは改札を通ってからも、駅を出てからも続く。

 光先が住んでいる東京とはまるで違う、異世界のようだ。


(やっぱり寒い)


 もう少し厚着でくれば良かったと後悔する光先、しかし北東北の寒さは容赦なく襲う、北風が寒い。

 光先は天使なので風邪をひくことはないのだが、ずっと寒いと思うことは不快なのでどうにかしたいがどうしようも出来ないので我慢するしかない。今度カグツチさん制服のアップデートをしてもらおう、もちろんメイには秘密で。

 とりあえず体を温めるため、目に留まった蕎麦屋さんに寄ることにする。ここには椅子は無く立ち食い専用のお店のようだ。

 食券から鴨南蛮を注文する。どうして鴨南蛮にしたかは単純に気分である。

 すぐに鴨南蛮は提供してくれた。どうやらこのお店は忙しい人にとってはうってつけのようだ、早いのは助かる、メイならもっと喜びそうだ。


(いただきます)


 テーブルが少し高いので気持ち背伸びしながら立ち食いを始める。

 先程まで寒いところにいたからだろうか、旅行をしているからだろうか、立って食べているからだろうか、


(蕎麦ってすごい美味しい)


 光先は箸を進めていく。少し熱いくらいの蕎麦はネギの風味、鴨のタンパク感と旨味を感じる。汁を啜ればダシの効いた濃い口の醬油ベースが口の中に広がり、そして体はぽかぽかにしてくれる。


(ごちそうさまでした)


 あっという間に平らげてしまった。お店に入ってから10分もかからずにお腹を満たすことができるなんて素晴らしい。

 蕎麦屋さんを出てバス停に向かう。盛岡駅のバス停は他に目立つようなものがなく、駅の出口中央に円状の島のようになっていたので分かりやすい。


(城跡公園だっけ)


 確かメイがおススメしていた場所、まずはそこを目指そう。

 ほどなく待っていると白いバスがやってきた。


(白基調って珍しい)


 そのバスは白をメインに色々な模様や絵があった。幼稚園児が描いたような、クレヨンで可愛いかたつむりや花が描かれている。シンプルな作りなのにポップさがあって面白いバスだ。

 光先はそれに乗る、中は普段乗るバスと変わらない、強いていうなら少し時代を感じるだろうか、ちょっと古い造りをしていた。


(バスが混んでない)


 平日だから空いているということはあるかもしれないが、乗車した人全員が席に座れている、立ち乗りしている人がいない光景に光先は内心で驚く。


(盛岡って全然違うんだな)


 違う、何が違うかと言い始めればきりがない。

 車の流れが違う気がする。少なくとも言えることは駅前なのに軽トラックがわりとたくさん走っている。

 建物の高さが違う。東京は何メートルという高さのビルがたくさん並んでいるが、盛岡のビルはそれよりはるかに低く穏やかに、どこか時代すら感じる。実際年季の入っているビルがありそれが味を出している。

 同じ日本、だけど地域によって見る風景もそこに住んでいる人たちの雰囲気も違うのだと、光先はバスに乗りながらそれを感じる。

 そこに昔、天使になる転生前の光先はここに住んでいたという。当然記憶がないので実感はこれぽっちも湧かないが、メイはどう思っているのだろうか。

 メイが自分とどのように出会い、そしてどうして転生させてくれたのか、きっと答えることはないだろう。

 ただそのヒントはここにあるかもしれない、バスで流れていく風景を見ながら光先は、次留まりますのボタンを押した。



(ここが城跡公園、街中なのに木々がいっぱい)


 光先は城跡公園を探索する。

 特に何かあるわけではない、城跡というだけに石垣は存在するが城本体はなく、そして周りは木々が生い茂っているだけ。

 ただ紅葉シーズンに丁度良かったらしく、葉っぱが真っ赤に色付きあちらこちらで主張している。地面は紅葉が絨毯のように引き詰められている。

 春ならお花見に持って来いなのだろう。桜が見たい、紅葉が見たい、それ以外は要らないって人にはうってつけの場所に感じた。

 そしてこれからは雪景色に変わっていきここも真っ白になっていく、それも見てみたい。


(寂しさがあるからいいのかな)


 城がない、だからかだろうかこの公園には哀愁があるように光先は感じる。

 他の人はどうなのだろうか、地元の人はどのように思っているのだろうか、テレビのインタビューみたいに聞き込みしたいがあいにくそのような陽キャムーブをかませる度胸を持っていない。


(過去の自分はここにきたことがあるのかな?)


 記憶がないので分からない、自分がどんな人物だったのかも知らない。ただ男の子だったことはメイから教わったがそれだけでは想像のしようがなかった。

 だが、幼稚園児くらい小学生がここで遠足にきたら楽しくご飯が捗りそうだと、光先は思った。

 盛岡、悪くない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ