5,しにがみは勉強します
「光先ちゃん、こっちにおいで」
イザナミさんが正座しながら膝をポンポンと叩いている。
(やった)
これからメイとの長話、ただ座って聞くのではなく母性に包まれながら穏やかに暖かく過ごせる。光先は喜んでイザナミさんの膝に座る。ママ、しゅきい。
イザナミさんの周りには相変わらず精霊のように形を持たない球体があちこちを浮遊している。光先にもかまって欲しそうにツンツン当たる。
形は無いと言っても魂はある。光先は神様の見習いの見習い、という形で覚えていた。名前は忘れてしまったが。
黄色の球体は頭の周りを良く回っている。時折落ち着くと言わんばかりに光先の頭の上に乗ってもいた。
黒い球体がお腹の周りをこちゃがすようにしている。面白がっているのか、光先に声を上げて笑って欲しいのか一生懸命こちょこちょしてくる。残念ながらお腹はくすぐったいとは感じない。
赤色の球体は胸の辺りを優しく寄り添ってくれていた。優しさを感じる。
光先はひとつの球体をお股から取り出す。いたずらと言わんばかりにイザナミさんの元に座って早々に入り込んだものだ。この球体はピンク色ですけべである。
水色と青色の二つの球体が仲良く左回りしながらイザナミと光先の周りを周回している。凄く楽しそうだ。
緑と黄緑色の球体は、いたわるように光先の右腕をマッサージするように押してくれていた。どちらかといえばこっちの方がくすぐったい。
それが精霊たち8体だった。体はまだないけど。
光先が精霊たちと戯れていると、
「ちょっと、話聞く気あるの?」
メイが膨れっ面になっていた。
「まぁまぁ、光先ちゃんもしっかり彼らに挨拶したいんだから」
すかさずイザナミさんが光先の頭を撫でながらフォローしてくれる。ママ、ありがとう。
「イザナミさんは光先に甘すぎますよ」
「しょうがないのよね。うちに可愛い子がこうして入ってくるなんて何せ初めてのことだから。ついつい可愛くてしょうがないのよ。メイも可愛いよ~」
イザナミさんは空いてる右手で優しくメイを撫で始める。膨れっ面になりつつもどこか嬉しそうなメイの表情、それを光先はジッと見つめた。
流石に気付いたのか、顔をすぐ僅かに赤面させ光先を睨みつけてくる。本当に表情豊かな神様かっこ見習い、もとい主様だ。
メイは少しずつ冷静になったか、ひと呼吸おき、
「それで光先、輪廻転生って単語は覚えているでしょう?」
撫でていたイザナミさんの手を優しくどかしながら、本題に入る。イザナミさんは少し悲しそうだ。
「はい、それは覚えています。ただ、意味までは忘れました」
「正直ね……いい、人の魂は輪廻転生しているの」
「輪廻転生しているの」
「真似しないで。例えながらの方が早いわね。私の魂だけど生前は人間だったけど輪廻転生して、生まれ変わって神様になったのよ。まだ見習いだけど」
「うんうん」
「今度はしっかり聞きなさいよ。輪廻転生する時、六道っていう生まれ変わる時に六つの道筋があるの。天上界、人間界、修羅界、畜生界、飢餓界、そして地獄の六つ。私は天上界、神の世界に転生してきたの」
「元は人間だったんだよね?」
「そう、私も元は人間。だけど人間界で善意な行動をたくさん行うと昇格して神様になるってこと」
メイの表情に僅かに一瞬曇りがあったような気がしたのは気のせいか。
メイは続け、
「輪廻転生する時、基本的には記憶をリセットして、魂を浄化して新しい魂にしてからまた送り出されるけど、天上界は例外、生前の記憶の持ったまま転生するの」
「でも自分は記憶がないです」
「あなたは特別なのよ。私が使いとしてイザナギさんに頼んだから」
「なるほど?」
「今は特別ってことで覚えておいて。人間は基本何事もなく生活し寿命を迎えると魂がリセットしてまた人間界に誕生する。だけど、粗相が酷いと別の世界に飛んでしまう。一つが修羅」
「怖そう」
「そうね。その世界は争いが絶えない世界なの。常に誰かと戦っている世界、休みなんてないわ。すぐ死ぬことだってあるでしょう」
「怖い」
「さらに粗相、ここまでくると犯罪クラスの出来事をした人になるのだけど、そういう人は畜生界に生まれ変わり人間の姿ではなくなってしまうの。動物だったり異世界ならモンスターになってしまうの」
「ここまでくると別世界に飛ばされるみたい」
「あっているわ。今あなたがいる世界に戻ることは許されないの。弱肉強食な世界に飛ばされ、どちらかといえば弱者側に転生する事が多いの」
「大変だ」
「生前の反省ということもあるからね」
「魂はリセットされるのに?」
「うん。確かにリセットするけどあくまで記憶のリセット、その人が積み重ねてきた癖は根幹として残っているの。だから再び人間界で悪さしないように別世界に飛ばすのよ」
「なるほど」
「そしてとんでもない罪をしてしまった人が転生する世界、飢餓界。言葉のまま飢餓に生まれ変わりそのものしかしない世界に飛ばされたりするけど、」
「けど?」
「最近は、異世界でゴブリンに変わって飛ばされることもあるみたい。彼らは異世界飢餓みたいなものらしいから」
「ゴブリンだらけの世界もあるってこと?」
「それもあると思うし、それに限らず普通の異世界でゴブリンに変わってすぐに倒されちゃうこともあるみたいよ」
「なるほど」
「そして最後、地獄界。ここに飛ばされる人は殺人などの取り返しのつかない罪したもの。想像を絶し、行ったものにしかわからない」
「なんでちょっとそそるような口調なんですか?」
「気のせいよ。ちなみに人間界に生まれ変わる時も生前の行いで、次の生まれる容姿、家柄、知性も決まるのよ」
「マジで~?」
「半信半疑みたいね。一度生まれ変わる?」
「なにそれ、神様ジョーク?」
「そう。この世界で強く生きるための必須テクよ」
メイはここぞとばかりにふんすの構えをする。ちっ、胸がデカいな。
「お、光先に復習させているのか、偉いなメイは」
「イザナギさん聞いていたんですか!」
いつの間にか聞き耳を立てていたらしいイザナギさんがこちらにやってきた。それにびっくりしたらしいメイは恥ずかしそうにしている。
「イザナミ、メイはしっかり説明出来ていたか?」
「もちろん、私たちの家族ですから」
「うむ。それならそのまま光先が行っている仕事の意味もお願いできるか?」
「は、はい!頑張ります!」
「よろしい。では頼んだぞ」
こういう時のイザナギさんは神様というよりお父さんに近い表情、父とはこういう感じなのだろうか。
「こほん、じゃあ続きを始めるわね」
メイはわざとらしい咳払いをしてから説明を始める。
光先は姿勢を正す。ちょうどなぜ自分がこのように任務しているのか気になっていたところだ