48,しにがみは少女のいきさつを聞きます
光先はいつものメイの部屋に来ていた。
これから任務の説明を受けるから、といっても談笑ような緩い感じ。その雰囲気は素直に助かっている。
(なんだかんだ神の世界にも慣れてしまったな)
最初はこの世のものとは思えない、事実この世のものではないので当たり前の感想なのだがそれに気づけば慣れた。といってももう半年以上経つのだからそれも当たり前か。
生物はなんだって順応し、対応して、慣れて、生きていく。光先自身生物なのか不思議な立ち位置にいるがこうして時間と共に過ぎていっているので生物の定義には当てはまるだろう。
神様たちはどうだろうか、光先は神様ではなく天使なので細部まではわからない、どう生きているのかわからないが。
そんなことを考えているとメイは、
「どうしたのボーっとして」
「いや、神様たちって普段どう生きているのかなって」
「そもそも私、生きているの?」
「一応そうだと思ったけど、違う?」
「そうね……私たちどちらも転生扱いだし、生きているのね。人じゃなくなったから不思議ね」
「こっちは人の頃の記憶ないけどね」
結局転生、生まれ変わったのかどうか実感したいなら前世の記憶がなければ話にならない。光先は記憶がないので天使からリスタート、というよりはここからスタートしている感じ。その代わり物覚えは済んでいるというオプションはあったが。
といっても記憶は思い出せそうにないし、メイは話してくれないしなのでいい加減諦めてきている。
メイはコーヒーを一飲みし、
「それじゃあ、次の仕事の説明ね」
「うん」
メイの使っている近未来パソコンの画面を覗く。
「今回は召喚、秋田県に住んでいる女子中学生、名前は古倉美雨さん。美雨さんは3年生で反抗期真っ盛り」
「先生質問でーす。その反抗期ってどういう状態なのですか?」
「うーん……私はなったことないから詳しくはわからないけど、中学生くらいになると自立心が芽生えそれで親と反抗しやすくなるってことね」
「メイは反抗期なかったんだ」
「うん。これも人それぞれ、個人差ってのがあるから」
「そっか。反抗期になると荒れるの?」
「そういう人もいるかもしれないけど、基本的には家に居づらくなる感じよ。それで今回は召喚者の事情と召喚される世界の内情、どっちから聞きたい?」
「前者で」
「わかったわ。美雨さんは田舎育ちを嫌い始めていて早く東京にいきたいと憧れているようね。東京にいったら読モになりたいとも思っている」
「夢があっていいね」
「ただ東京の高校に進学したいと思っている美雨さんだけど両親は反対していてね。両親は元々東京に住んでいたけど、人の多さ、そしてそこからくる色々な疲れで参っちゃって秋田県に引っ越したの。だから美雨さんには東京に行ってほしくないの」
「そこでぶつかりあっているんだ」
「そうね。美雨さんとしてはそれを経験したことがないからよく知らないからね」
「そんな時に召喚されちゃうんだ」
「そう、勘弁して欲しいわよね」
召喚と転移は自身が予期せぬ時に発生するのがほとんど、そして自身が望む世界に役職につけ楽しい人生を送りなおすことができるかも未知数。
そして何より現実世界で失踪扱いになってしまう。そこからの家族の人生も大きく変わってしまうことだろう。
はた迷惑なので止めていただきたいが、パラレルワールドの異世界はそこそこな頻度で召喚・転移をする。よっぽど困った事情、もしくはその呪文を試したくてしょうがないのだろう。
美雨の場合はそんな人生の大事な分岐点にいる最中に突如第三者が介入し、別の選択肢に強制的に導かれてしまう。そして召喚なのでその世界で役割を全うしなければならない。自由はそこにあるのだろうか、それも召喚した世界次第。
メイは、
「異世界の国はかなり困窮状態に陥っているみたいで、それを打破するために召喚をするようね。困窮、悪天候が長く続いているようで作物は凶作、飢饉も起き始めているの。当然政権にもしわ寄せがいくようで、それをなんとかしたいという時に美雨さんの出番、ぶっちゃけていえばアイドルをして欲しいようね」
「アイドル?」
「娯楽を増やすことで少しでも政権の支持率をアップしたいみたいよ。美雨さんは国民のために歌って踊ってエトセトラして活動して欲しいって感じ」
「読モ、モデルとアイドルってやること違うよね?」
「そうね、だから最初は困惑するし異世界に慣れるまで時間がかかるみたい。だけど自分の美貌と人を助けた経験が蓄積されていき、適応してアイドルとして活動していくみたい」
「美貌に自信持てるっていいね」
「そうね。中々持てるものじゃないからね。私もそんなには縁なかったし」
「ふーん……」
このメイってやつは自分の武器に気づいていないのか、わざとそうしているのか。いずれにしろ光先にはないボディラインを持っているメイを凝視する。
「なによ?」
「別に」
けっ!あんがい自分のことになるとこうやって気づかないものなんですね!
「そんなこといったら光先だってアイドル向きな見た目しているわよ?」
「どういうこと?」
「あんな派手な制服を毎日着て外に出てるし、いい加減私服買ったら?」
「だって面倒くさいし……」
「本当自分のことになるとあなたは……」
「それに何が似合うのかよく分からないんだもん」
ターゲットの美雨はそんなことで悩むことはないだろうが、光先は違う。
確かに時間がある時スマホで洋服を見る機会があるが、それは服が可愛いとか、モデルさんが可愛いとか自分が着るとい概念を持って見ていない。
メイは少し呆れながら、
「光先は基本的に何でも似合うわよ。私のお古をあげたいくらいだわ」
「そのお古、どこにあるの?」
「残念ながらここにはないので無理な話だけどね。でも光先はせっかく可愛い女の子になったんだからもっとオシャレしていいのよ?」
「分かってはいるんだけどね」
そう、光先は分かってはいる。しかし現状で満足してしまっているところもある。派手で目立つ制服はその分可愛いし、神様お手製なので着疲れする心配もない。なにより周りからチラチラ見られる視線もいい加減慣れてしまった。
光先自身では選べない、どうせなら誰かに選んで欲しい、そう思っているがメイにそんなことをいったらまた呆れられるので黙っている。
「まぁ光先が着たいと思わないと意味ないからね。そういえば話逸れちゃったわね」
「そうだね」
確かに話はターゲットの関することから光先に対しての話になってしまったが、そういう駄弁りも悪くなく、むしろ楽しいと光先は思っていた。