46,しにがみのパクパクタイム
名古屋観光はお城だけでは終わらない。
光先、初めての外食します。
(わくわく)
名古屋および愛知は美味しいもののほうこ、どれを食べようか悩みに悩んだ。
食べ歩きもいいがお小遣いがなくなってしまう。メイに言えば緩いのでいくらでも出してくれそうではあるが、楽しみを残しておくのも悪くないと思い今回は1つ選んだ。
それは味噌カツ。
というわけで味噌カツ専門店で初めてのお食事です。
(絶賛緊張中です)
誰に言うわけでもないのにそんな実況風に思考してしまう光先、それくらい肩に力が入っている。
光先が訪れたお店は人気店で中に入るのに結構並んで待った。待ち時間は秋だから苦ではなかったがどうして日本人はこんなにもよく並ぶのだろう、自分もその1人であるが。おかげでもうすぐランチタイムが終わる時間での昼食になる。
ただ良いこともある。
お腹がペコペコなこと。お店から漂ってくる香ばしさにずっと光先はジャブ攻撃をされ続け、よだれが何回も垂れそうになった。
それにようやくありつける。だから日本人はよく並ぶのかな?
今は食券を購入し、お店の中に入り食券を店員に渡して席に座って待っているところ。
「ランチ味噌カツ定食です!」
女性店員が元気よく光先のテーブルにいい匂いを置いてくれた。
ご飯、味噌汁、漬物、味噌カツの側にはキャベツ、王道の定食セットだ。
(いただきます)
心の中で声を出し手を合わせる。
まずは味噌汁、何気に初めて食べる。冷凍食品生活では汁物にありつけない。
すすっといく。
(うま)
これが味噌汁の味。コクがあり、深みがあり、塩味も丁度良く、体があったかくなるお母さんの味。しらんけど。
ついつい味噌汁だけ先に食べてしまいたくなるがせっかく初めての外食、もっと慎重にいかなくては。
次は漬物。たくあんとお新香、先にお新香をいただく。もちろん漬物も初めての遭遇だ。
(しょっぱい、けど美味しい)
歯ごたえよく、ジャキジャキと嚙んでいく。
たくあんはどうだろうか。
(こっちはちょっと甘い)
こちらもジャキジャキと良い音が口の中に広がる。
(本命、いきますか)
味噌のタレがついたカツ、ひときれを箸でつまみ口に運び手頃なところで噛み切る。
(すごい!うまうま!)
衣がサクサクしていることは箸でつまんだ時に気づいたが、噛んだ瞬間肉汁がじゅっと出てきた。そこに上に乗っていた味噌がゆっくりと混ざり合っていき旨みが最高潮に達する。
そのままひと噛み、否。
ご飯に目がいく。
何故かよだれが出てくる、どうしてだろうか。
自然と嚙み残したカツをご飯に乗せ、一緒に頬張る、気の迷いなど一切なく。
(最高)
ご飯ってこんなにも美味しかったのか、カツがさらに美味しく感じる。ホカホカのご飯との相乗効果、箸が止まらない。
だが慌ててはいけない、一度水を飲む。
(今度は……)
キャベツと味噌カツ、いただきます。
(うまうま!)
ご飯共そうだったがキャベツとの合わせ技がここまで美味しいだなんて。
いつも冷凍食品生活では単品ばかりそのまま食べていた。もうその生活には戻れない、困難なくらいに旨味に溺れていく。
我を忘れ、ゾーンに入ったように食べ進める。
食事の時間はあっという間に無くなっていく。
(なくなっちゃった)
もう少しこの余韻に浸っていたい、しかし光先と同じように早く食べたいと店先で並んでいる人たちが待っている。
名残惜しいが止まらないがお店を出なければ。
(ごちそうさまでした)
光先は手を合わせて、お店を後にする。
外に出ると秋の風が出迎えてくれた。涼しい風が食後のあとには非常に心地良い。
(名古屋良かった、また来よう)
まだまだ食べていないグルメがたくさん眠っている。
それは名古屋だけに限らず、色々な地域のグルメ巡りをするのも悪くないと光先は思いついた。
光先の人生はまだまだこれから、色々経験できるのだ。
「光先ちゃん休みを謳歌しているようね」
メイの仕事場に様子を見に来ていたイザナミさんが画面に映っている光先を観察していた。
「はい、休みの日はすることないなんて本人はぼやいていましたが、なんだかんだああやって楽しんでいます」
メイはそれをチラッと確認しながら仕事を進めていく。
「メイちゃんも休んでも大丈夫なのよ?」
「その、こうしていないと落ち着かない性分なので……」
「メイちゃんはそうかもしれないけど、周りから見ると驚いてしまうわ。最近クラ姉妹も感化されてお仕事ごっこしていたし……」
「そうなんですか?ただ、自分休みって本当に落ち着かなくて……光先にはああ言ってますけど」
「そうよ、光先ちゃんに言ったのなら自分も休みまないと。せっかくだから今考えましょう!とりあえずまずその手を止めてっ!」
「は、はい!」
メイはイザナミさんと話しながらも動かしていた手を止める。イザナミさんはそれを確認して、
「よろしい。ここは極楽浄土でもあるのだから色々な施設があるのよ。温泉とかね」
「うーん……それは分かっているのですが……」
「今度一緒にいきましょう!これならどう?」
「は、はい!行きます!」
「よかった。これでも断られたらどうしようと思ったわ」
「自分もそこまでじゃないです。ただ私も結局光先と一緒で一人だとすることがないというか、思いつかないので……」
「今度、クラ姉妹と一緒にお出かけしなさい。それとカクヅチさんの工房にも足を運んで話を聞きに行きなさい。あなたはイザナギ家の家族なんだから遠慮する必要はないのよ」
「はい」
イザナミさんはいつも以上に真剣な面持ちでメイに伝える。
メイはそれに少ししゅんとなりながらもしっかり反省する。
(仕事ばっかもいけないよね……)
周りとの信頼関係、それをイザナミさんは言っている。仕事ばっか、ましてや今のような一人で行うデスクワークでは1ミリも発展しない。確かにクラ姉妹は時々この場所に来てもらうが自分から誘ったことはない。
それにこの世界の外の冒険をさっぱりしていない。行かなかった理由は光先のために仕事を進めなければならないというのは違う、外に出るのが臆病になってしまっていたのだ。
人生を一度やり終え、精神年齢がさらに上がっているからこそ、新しいことに怯えていたのだ。
「すみません、自分は……」
「いいのよ。誰だって新天地に来ればそんなものよ。私だってそうだったし」
「イザナミさんがですか?」
「そうよ。最初この世界に来た時ビックリしたもんよ。まぁあの時はまだ神様も少なかったからどちらかといえばそっちにビックリしたけど」
「今度イザナミさんが神様になった時のこと聞いてもいいですか?」
「いいわよ~。長くなるけどね」
メイは心を改める。
光先のために、それは変わらない。だけど自分の人生、神生がある。神様になるべくメイは修行しているのだ。もっと色々なことをこっちの世界で学び、神様関係を構築していかなくては。
その一歩を今から始める。