45,しにがみはお城へ
(お城が見たい)
その中でも金のしゃちほこがそびえ立つお城、というわけで光先は愛知の名古屋城に朝イチ新幹線ではるばる来ていた。
10月になったお休み前、寝る前にネットサーフィンをしていた時にお城特集を見つけ、その中でも一際目立つしゃちほこ、どうしてお城にしゃちほこがあるのか、そう思いここに来た。
移動は、交通手段に慣れてきた新幹線で心に余裕をもって神奈川県の海沿い、静岡県辺りの富士山を眺めている。
バス移動も2回目、抜かりなく今回は座ることが出来た。
服装も、制服姿に変わりないが夏用から冬用に変えた。見た目に大きな変化はこれぽっちみないが、生地が厚くなり長袖、時期的にはまだその恰好では暑いかもしれないがそのままでも寒くなる可能性があるので致し方なし。
というわけで名古屋城に入場前。
さっそく光先はここで秘密兵器を取り出す。
(高性能スコープ単眼鏡~)
これでしゃちほこを先に間近で見てしまおうという魂胆、汚い手だと言われようが神の力は使える時に使うのが光先のモットー。
普段任務の時に使用しているスナイパーライフルのスコープ部分だけを取ってきた。
ではなくその部分を新たにこの時のためだけにカクヅチさんに作ってもらった。メイにバレたらさぞどやされることだろう。
ちなみに名前は光先が今適当につけた。カクヅチさんがこれまたビッグで厨二な名前を付けていた気がするがいつものように受け流していた。だって恥ずかしいだもん。
光先は人の往来の邪魔にならない端に移動し、右目に単眼鏡をあてる。
(おお~!流石ここからでもくっきりみえる、こうなってるんだ)
光先のいる正門前ではしゃちほこがあるお城までかなり距離がある。普通の並の単眼鏡では絞りに限界がきてくっきり細部まで見ることはできないだろう。それに高性能になれば望遠鏡のように大きくなってしまう。しかし光先の任務で使っているものと同じ神性能単眼鏡、どんな距離おあらゆる科学を無視して覗いてくれる優れもの。
光先はしゃちほこを細部まで観察する。
煌びやかに派手なしゃちほこが反り返りながらお城の淵を食べている、これが見たかった。
全身金色かと思いきや、目だけリアルである。どうしてそこだけ金色に塗らずリアル志向にしようと思ったのか不思議だ。
対面のしゃちほこも見る。左右対称だ。
(おもしろい)
目的の物をこの目で見ることができ満足の光先。だがもっといえば直接触れてみたい、任務モードに移行してしゃちほこの元に駆けることは容易に出来るのだがそこまですれば絶対メイがカンカンに怒るので我慢しなければならない、何事もほどほどに止めておくのが一番だ。
光先の今日の旅行はこれで終わり、ではない、もちろんお城の中を見学するつもりだ。
ただ気になるものを真っ先に見ることで、他の見学中にもじもじそわそわ早く見たいをしなくてよくなったのだ。
光先は気を取り直して、正門を通る。
(雰囲気、ビシッとする感じ)
門をくぐる、それだけの動作なのについつい姿勢を正してしまう光先。
石垣で出来た足回り、綺麗に並べられている瓦屋根の正門を光先は通り過ぎ、姿勢を戻す。そして真っ先に出迎えてくれたのは大木、それも樹齢600年をゆうに超える長寿なきがそびえ立っている。
(年季が凄い)
他の木とは違う、一目瞭然なところはシワの多さだろうか。若い木は太陽に向かって真っ直ぐ純粋に育つだろうが、この木は自由に伸びそして貫禄がある。
年輪と呼ばれる木を輪切りにした時に見られる輪っかはさぞ大変な量になっているに違いない。だからだろうか神聖なパワーのようなものを感じる。光先は実際に神にあっているのでオカルトもへったくれもないのだが、ついつい拝みたくなりパワーを欲してしまう。
その他の場所も歩けば似たように感じた、そもそも普段住んでいる街の風景とは見た目からして違うのだ、そう思いたくもなる。
光先はお城に入る前にも様々な場所を見て回った。その際に恰好がいつもの制服姿だったので周りからチラチラ見られることがあったがいい加減慣れた。しかしどうせなら和服で来た方が雰囲気があってよかったと光先は考えていた。
(瞬間着替えスイッチなんかあったら便利)
だがそんなことをしてはそれこそ注目の的になってしまう。タネは神の力というマジック、誰も真似できない。
「写真お願いしてもいい?」
そんなことを考えていたら突然話しかけられていたことに気づく。振り返ると中学生だろうかそちらも制服を着て数人の女子で集まって行動しているようだ。
「う、うん」
どうして自分なんだろう、確かに見た目は似ている制服仲間だったから話しかけやすかったのだろうか、光先は慣れない動作に内心あわあわしながらも準備する。
「と、とりまーす」
「はーい!ほらもっとこっちよって!」
「狭くなーい?」
「笑って、映えないよ!」
光先はどもりながらなんとかブレずに写真を撮った。
中学生たちはエネルギッシュで楽しそうだ。光先と同じくらいの歳、これくらい元気なほうがいいのだろうか。
(始めて同い年に話しかけられた)
ゆえに緊張が先に出てしまって浮いている気がする。しかし中学生たちは気にしてしないようでスマホを返すときに、
「ありがとう、お互いがんばろー!ほらみんなも!」
「「「ありがとうございまーす!」」」
と、歩いていった。嵐のような出来事。
呆気に取られる光先、そして自分のコミュ力の圧倒的低さに落ち込み始める。
同い年なのだからもっと話しやすかったはずだ。逆、同い年ゆえに緊張してしまった。どんな風に話せばいいかデータがない。あれ?自分って理系じみたこと考えるたちだっけ?
(要課題だ……)
光先はため息ひとつ、切り替え奥に進んでいく。
お城を探索し、いざ中へ。
本殿、本丸御殿は大変良かった。ひとつひとつの作りが丁寧に施されており、光先は思わずそこに寝そべりながら堪能したいと思ったがはしたないにも程があるのでやっていない。
昔の日本、個性があって住んでいた人はさぞ満足だったろうと思った。
天守閣は結構な急な階段で上を目指すようだ。階段が木造なので登る時にわずかにぎしっと鳴る音が良い。
(筋トレになる)
階段を上り終え最上階、あとは景色を眺めるだけ。
ゆっくりと外の景色を見える方に歩み寄る。
(なんか、いい)
高所からの見る風景、いってしまえばいつも住んでいる光先のマンションの部屋の方が高くよく見える。しかしやっぱりお城だからだろうか、ここから見ているから雰囲気良く、気持ちよく見ることができる気がする。それ以上に上にはしゃちほこ様がいる、そのバフも魅力的なものかもしれない。
(来てよかった)
光先はゆっくりと一周見渡したのち、踵を返した




