41,しにがみの最初の追跡3日、少年の最後は
「流石にきゅーけーい、今日はかなり調子いいな」
集中力もクリアに、そして洗練されていたので真守太は調子よく5時間続けてやっていた。おかけで太陽は傾きかけ小腹でなくガッツリ食欲がわいていた。
「今日も頼みますかねー」
いつもの出前、わざわざ自分で行く必要がないことは本当に便利だと思い真守太はすっかりこの機能の虜になっていた。
「奮発するかなー」
ゲームはかなり調子良く、ランクマッチなるものも順調にポイントを稼げることができた。プレイ内容もいつも以上に慎重に行動することができ、危なげないシーンが目立たなかったおかげかいつも以上に視聴者も多くいる、いつもの1.5倍くらい。
真守太は上機嫌になっていた。調子のいい日にさらに視聴者からたくさん見られている、登録者も増えている。
インターホンが鳴る。
「お、来たかな!行ってくるー!」
『パクパクタイムですか』
『いってらー』
『さようなら』
昨日も勘違いして先生がいた、今日も玄関のドアを開ける前に出前の人か確認しておけばよかった、そう真守太が思ったのはドアを開けてからだった。油断していた。
いつもの出前の人とは違う雰囲気の人が目の前にいる。いつもの出前の人は自転車で運んでいるためか運動しやすい格好で引き締まった体型、商品を受け取る時も明るく評判のいい男性。昨日来てくれた人、修羅場を収めてくれた人だ。
対して目の間にいる人は小太りで眼鏡をかけており、見るからに違う男。
その男がゆっくりと口を開ける。
「お前だろ、ウォール……」
「……!?」
この時点で真守太は扉を閉めればよかった、しかしリアルの世界でその名を言われたことに動揺してしまう。
「どうして……!?」
「協力してお前の住所割り出した、許さない」
そう言って男は何かを懐から取り出した。
冷たそうな、刃渡りがそこそこあるサバイバルナイフだった。この場面で、こんな状況でそれを出されたということは何をされるか真守太でも予想できる。
でも体が動かなかった、ゲームでは簡単に操作できるのに、リアルはやっぱり動きがままならない。緊張して、動揺して、焦って、強張って体が言うことをきかない。
男はまた口をゆっくりと開け、
「お前、おとといのことここで謝ったら殺さない」
「お、おとといのこと……!?」
なんのことか、こんなことをされなきゃいけないくらいの粗相をしただろうか、真守太はさらに混乱する。
「なしか、じゃあな……」
「えっ……」
男が一気に近づいてきた。
このままでは刺される、頭では分かっているのにどうしてこういう肝心な時に体は動かないのだろう。真守太は立ち尽くしていた。
そのままナイフを押し付けられた。
一瞬なんてことのない、むしろ殴られたような鈍い痛みが腹部から伝わってきた。
でもすぐにじんわりと熱を持ち出し、それも暴走するように熱くなっていく。
「うっ……」
男はナイフを抜き。真守太はその場に倒れ込みうずくまる。
今までに感じたことのない痛みを腹部から絶え間なく続く。何かが自分の仲から出続けている。
それも確認したいが。痛みで目を開けられない。
ただ頭は痛みでだんだん覚醒していく。息もあがっていく。
男の行方を確認しなければ、真守太は開けることが出来なかった目を無理やりこじ開け、上を見る。
すると男はまだその場にいた、ナイフをこちらに向けて。
「やめっ……!?」
「許さない」
男の声と共にまた鈍い痛みが走る。今度は空いていた背中側を思いっきり降りぬかれた。
そしてまた刺し口からナイフを抜かれる。この時が一番痛い。
「うっ……!?」
「お前はあの人を傷つけた、だからお前を許さない」
「ああ……!」
また背中を刺される。
真守太は痛みに悲鳴にならない声を上げる。
(どうしてこうなった!なんでオレがこんなことをされなければならない!そんなこと親にもしてないのに!)
真守太はだんだんと遠のく意識の中で考える。一昨日のこと。
「あ……」
思い当たること、そういえば有名配信者と揉めた。
(ということはその信者か!?)
真守太が目で訴えた時、
「気づいてももう遅い、許さない」
「うう……!」
何度も何度も刺される。
真守太は意識が薄くなり痛みが消えてくると、
(そうか……好き勝手言っていたからそのツケが返ってきたのか、けどコイツもコイツだな……)
それに気づいたとき、自然と体からこわばりが消え始めた。
やっと楽になれる。そう思った。
行かなければならない学校から。
愛してくれない親から。
いつの間にか縛られていた配信から、ゲームから。
痛いはずなのに、意識が遠くなっていくせいか自分の体じゃないみたいに思った。
「とどめだ」
「えっ……」
そう言って男が振り下ろす、瞬間意識が完全になくなった。
首をやられたのだと、後から気づいた。
『ウォール帰り遅くね』
『大丈夫かな?』
『殺されたな』
コメントが混乱する中、男は真守太の部屋に入り、
「やったよ、これで一昨日のことケリつけたよ」
『よくやった』
『は?どゆこと?』
『何がどうなってんの?』
光先は薬莢を噛みながら後片付けをしている際にそれを見ていた。
滑稽だと思った。