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40,しにがみの最初の追跡3日目、ターゲットの心情

「くっそ!変な夢を見た!」


 目が覚めた真守太は着替えるために脱衣所にむかっていた。

 本来着替えをするだけなら自室でも良かったのだが、上着は涙でぐしょぐしょになっていたためすぐに洗濯機に放り投げるからだ。

 それに、


「オレは女なんて興味ないのに!」


 可愛い、真守太よりほんの少しだけ年上な女の子になでなでされる夢をみた。ツインテールがよく似合う女の子だった。

 普段女に縁もゆかりもない真守太にとってはあまりに刺激が強い夢となってしまった。


「あーもう最悪!」


 真守太は自分を包んでいくれていた衣類全部を洗濯に出した。


「どうせならもっと魅力的なやつが良かったな!」


 可愛い子ではあったがほっそりしているタイプ、どうせならもっと巨乳で包容力のある女性、そう真守太が考えている時だった。

 ガタン、と洗面台にかけていたドライヤーが勝手に落ちた。


「なに、こわ」


 真守太がドライヤーを手に取ると、少し生暖かく怨念のような気配すら感じ、鳥肌がたったので素早く元の場所に戻した。

 そんな恐怖を忘れるためにも遅めの朝食を食べようと真守太はリビングに向かう。

 変わりばえのしないパン、変わりばえのしないヨーグルト、そしてこれは変わりばえしなくても問題ないお気に入りのチーズ。

 真守太は小さな頃からチーズが好きだ。塩味と甘さを同時に感じることができ、食感も最高。逆にトマトは苦手だ。あの食感はいただけない。チーズと一緒に出されれば何とか食べることはできるが単体で食べることは物凄く無理だ。

 昨日はあれから配信をしていない。そのためエゴサをする必要もないだろう、大したことは呟かれていないはずだ。


「でもすることがないんだよなー……」


 変わりばえのしない朝食、せめてアクセントにといつもスマホをいじりながら食べているが今日はいつものルーティンと違う。

 真守太はふと思い出し、とある人物を検索する。

 ゲーム配信の憧れの人だ。

 ゲームの立ち回り腕前、トーク、再生数、どれをとっても真守太よりはるか上の人。その人も変わらず配信を続けているようだ。それが真守太にとって嬉しいこと。


「またキルとりまくってるよ、すご」


 こうなりたい、憧れの人みたいに輝いて配信がしたい。

 でも今の真守太はどうだろうか。

 配信を始めた頃に比べてかなり話すようになった、日常で独り言のようにぼやくくらいにはずっと何かを言っているレベルに。ゲームの実力も毎日やっている分だけで少しずつではあるが上手くなっていると自負している。

 問題は中身、人間性だ。

 憧れの人と真守太とでは雲泥の差。どうしようもなく憧れの人は輝いて見えて、真守太はくすんでいるように感じている。

 親のことなんて忘れて、大人のことなんて忘れて、何もかも忘れてやりたい。しかし、そんな重大なことは切っても切り離すことは出来ないことだと十分真守太は理解している、経験している。


「オレも輝いてやりてーなー」


 憧れの人はいわばアイドルのようだ、相手をうやまい、キラキラしている。

 真守太はどうだろうか、違うことは明白だ。

 だが今の配信スタイル、人間性を変えることは不可能だ、体が拒絶してしまうだろう。何より長続きしなくなってしまう。


「無理なもんは無理、か……」


 真守太は配信するために自室に戻った。

 PCを起動しゲームと配信サイトを開く。

 考えてみればこれも親がくれたもの。確かに欲しくて買ってもらったことは嬉しかった。だけど本当にこれが欲しかったのか。 わからない、けど今はこの道を進むしかない。


「おはざいまーす」


 そう言って配信を始める。

 ゲームのウォームアップをするため訓練場で数十分籠る。

 今日の調子は、


「悪くないけど、これだけエイムずれるなー、反動変わったか?」


 ひとつの武器だけやたらと命中率が下がっていた。もちろんは使用は何一つ変わっていない、変わっているのは真守太の体調やメンタルの方だ。

 コメントもそれをわかって賑やかしてくれる、唯一の楽しみであり、救いだ。たまにどうしようもないやつが現れるがそういう人は全てブロックしてしまう。


『何も変わってない定期』

『ウォールもこちらの底辺世界においで』 

『そういえば昨日は大丈夫?』


 そのコメントで真守太は思い出す。射撃の訓練をしながら、


「そーいや昨日学校の先生来てよー、学校来いってブチ切れられたわ」


『草』

『心配されてるじゃん行って来たら?』

『ブチ切れってどういうことよ?』


「なんかさー、来ないことは悪いことだから、早く来いってさ。確かに行かないことは良くないって分かるけどさー、なんで行きたくないかくらい聞けよって感じ。ぜんっぜん人の話聞かない先生でマジで迷惑だったわ」


『いるいる、そういう頑固な先生』

『先生って意外と融通きかないよな』

『学校行くの?』


「行かないよ学校、行く理由がないもん。あんな先生いるところにわざわざ行くとか鬼ハード過ぎでしょ」


『学校なんてそんなもんだぞ』

『人生なんてハードな毎日だぞ』

『リアルから逃げるな』


「逃げてませーん。これがオレのリアルだから。さ、今日も始めますかねー」


 真守太は訓練をやめてゲームを本格的に始める。

 今日も5時間以上はやることになるだろう。飽きないのかと言われることがあるが、そんな感情は湧いてこない。

 真守太にとってこれが学校みたいなもの、仕事みたいなものだからだ。

 やっていて熱心に出来ているから楽しいからとは少し違う。使命感のようなそんなものが勝っている。

 まずは準備体操、本番を始める前のウォームアップを始める。体の固まったこりをほぐしていく、長くやれる秘訣だ。

 首のうごき、目の動き、右手のマウスの操作、左手のキーボードの操作、日によって微差ながら感覚が違ってくる。今日は思ったよりも調子がいい、おそらく昨夜たくさん寝ることになったせいだろう。

 毎日やって辛くないのか、辛くない。ゆえに毎日長時間やってしまう。何事にも休憩や休みの日は必要らしいが、真守太はついついやってしまう。そのせいで日によって疲れが残ったまま意固地になってやるケースもある、自身で状態があまりよくないことは分かっているがついついやってしまうのだ。

 真守太は憧れの人のように輝かしくできないことは自身で分かっている。だからこそ自分らしく、泥臭くやってやろうと今日も挑む。


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