4,しにがみと神様たち
「光先が帰ってきたのだな」
後藤光先は神世界イチのお偉いさんとご対面する。
(相変わらず威圧感というか……)
光先は怖じ気つきつつも、
「イザナギさん、ただいま帰りました」
「うむ」
しっかり挨拶をする。これもすんなり生活するためのマナーだ。イザナギさんに粗相すればそれすなわち神全般に粗相するとそう変わらない。そんな酷な道にわざわざ自分から突っ込もうとはとうてい思っていない。
イザナギさん、イザナミさんの夫であり、カクヅチの父。威厳ある見た目でイザナミさんと対照的に金の装飾を各所にしてある正装、傍からみれば甲冑にも見えてしまうそれが神の世界をおさめるために必要な服装なのだろう。ひげがないせいか息子のカクヅチよりも若く見える。髪が若干長く後ろで結んでいるからだろうか、それなのに顔の表情ひとつからも威圧を感じるのだからとんでもない。
「……。今日は皆さん勢揃いなんですね……」
光先はついつい呟いてしまう。
ここまで神様がたくさんいると萎縮してしまう。
イザナギ邸の大広間、そこに続々と神が終結する。何もこの世界全ての神というわけではないが、イザナギさんに関係する神が大勢いるのだ。
大広間および大きな応接間、この部屋に入った瞬間それこそ宇宙空間に掘り出されたような無重力感がある。足こそ見えない地についているものの。まるで360度、3次元全ての方向プラネタリウムにいるような感覚。
光先にはそう見える。イザナミたちはこの空間をどのように見えているだろうか。
後でメイに聞こう。
そんな大広間にイハサク、ネサク、イハツツの3兄弟が入ってきた。どうやら神様はまだまだやってくるようだ。
彼らを説明したいところだが、次々と神たちが入ってくる。先の3兄弟は黄色が印象的だ。髪、服装がということだ。
ミカハヤ、ヒハヤ、そしてタケミカヅチ。こちらの3兄弟は緑が印象的。
クラオカミ、クラミツハ姉妹もやってくる。黒の服装、少し変わった髪色が印象的な子たち。
そして外で遊んでいたのだろうか。精霊たち8名が楽しそうに入っていき、イザナミの周りを回っている。彼らの名前までは忘れてしまった。精霊たちは球体ように光輝いており、野球ボールくらいの大きさだ。
「え……。どうしてこんなに……自分何かしてしまいましたでしょうか」
光先はビビり散らかす。日本語が変になるくらいに。
それに近づいて答えてくれたのはメイだ。
「大丈夫よ、そんなに怖がらなくても。今日は私たちがこっちの世界にきて1週間でしょ?その記念日に集まったのよ。しっかりやっているかって」
「結局全体報告じゃないですか!怖いです!」
「大丈夫、私たちは家族みたいなものって形で迎えられているのよ。それに光先、何か失敗したわけじゃないでしょ?」
「まだあのジャージを着ています」
「!まだだらしない恰好でいるの?!……ってそれをイザナギさんたちに報告する必要はないでしょう?」
「それもそうですね」
「今日は歓迎会みたいなものよ」
そんな二人をイザナギさんが微笑ましく眺めていることにやっと気づく。
「「!?」」
「相変わらず仲が良さそうで何よりだ。そろそろ始めてもいいかな?」
「「は、はい!」」
「お二人さん、こっちにいらっしゃ~い」
イザナギさんの隣にいるイザナミさんが、空いているスペースを指差しながら手招きしている。光先とメイはそそくさと冷や汗を垂らしながら移動した。
こうして大広間にあっという間に圧倒的な大団円が完成したもちろん上座にいるのはイザナギさんだ。イザナギさんの右手にイザナミさん、メイ、光先と続く。隣にはカクヅチが「よろな!」とにっこりチャラい笑顔がある。それからイハサク、ネサク、イハツツ、ミカハヤ、ヒハヤ、タケミカヅチ、クラオカミ、クラミツハの順番で円が完成だ。
「では始める。まずは光先、今日の仕事の報告を」
イザナギに呼ばれ、光先は勢い良く立ち上がる。
「は、はい!太田優太さんを無事転生させました」
「ご苦労。メイ、確認は終わっているか?」
「はい、彼は無事転生先の異世界で第二の人生をスタートさせています」
「よろしい。今後もよろしく頼む。何か不都合があったらメイに言ってくれ」
「は、はい!」
「それじゃ乾杯としよう」
光先はへにゃへにゃと座り込む。それからしばらくは頭が真っ白になった。
「さき……光先!光先!聞いてる?」
「は、はいメイ。なんですか?」
「明らかにボーっとしていたじゃない」
光先は真っ白な頭が戻った時に真っ先に映ったものはメイの膨れっ面だった。そんな表情も可愛く絵になるのだから神様は卑怯だ。
周りはといえばお酒を肴にしながらワイワイ楽しんでいた。イザナギさんはカクヅチと楽しそうに、3兄弟2チームはそれぞれ仲良く、クラ姉妹は未成年かっこ設定なので飲まないようだ。見た目は光先よりは幼いが年齢は間違いなく上だ。
「こんなに集まることなかったものね。緊張したでしょう」
イザナミさんが微笑みながら光先のフォローをしてくれる。ママ、ありがとう。
「や、やっぱり神様ですので……」
「あなたも使いといえ神の片足なんだからそんなになる必要ないんだよ?」
メイは少し呆れながら言い、
「1週間で慣れる方が凄いというか……」
「だってなったものは仕方ないでしょ。あとは全うするだけよ!」
メイとはそういう性格だ。
彼女は神の見習い。神になり立て、人間から転生し神になったのだ。
「それはそうと今日の任務ご苦労様、よしよし」
相変わらず喜怒哀楽が激しい光先使える神メイだ、今度は子供を愛でるように撫でてくれる。
「あなたが姿は変わったけどこうしてまた人生を歩めるのだから……」
その表情はなんていえばいいのだろう。光先には変わる前の記憶がない。しかし自分のことを深く深く知っているような、そんな気がする柔らかさがあった。
「……自分は生前何があったんですか?」
「それは私からは言えないの」
それが神の掟らしい。しかし、
「どうして自分はこのように転生したんです?」
「それは私がお願いしたからよ」
「どうして?」
「それは言えないの」
「うーん。ならなぜ自分はこの任務をしないといけないんですか?」
「前にも言わなかったっけ?ていっても来て早々だったから覚えていないか」
メイはひと呼吸、唾を飲んでからゆっくりと話し始めた。