38,しにがみの最初の追跡2日目、ターゲットに動きあり?
追跡2日目、真守太は昨日と同じような時間、お昼前に起床し昨日のトラブルが噓のようにけろっとして配信を始めていた。
やっぱり昨日のようなトラブルは日常茶飯事らしく、リスナー慣れているようでほとんどの人が気にしている素振りは感じられなかった。
そして真守太が早めの夕食をまたスマホで頼み玄関に向かったのだが、少し経っても帰ってこなかった。
不思議に思った光先は玄関の方を覗き見にいく。
リスナーたちも流石に遅いことに、
『どうした?まさか親フラか?草』
『出前が事故って食べ物ぐちゃぐちゃでキレてるとか』
『久しぶりの放送事故きたー!』
光先は真守太の部屋から出て、玄関が見える所まで移動する。
真守太を玄関のところで発見するが、何か様子がおかしかった。
光先はより至近距離で観察するために玄関まで進軍する。
そこで気づく、真守太の正面にはスーツを着ている男性の姿があった。30代くらい身なりは整えてメガネをつけており175cmくらいの身長だろうか。それ見て真守太は焦っているような、驚いているような、怒っているような様子でその人を突っぱねようとしていた。
会話が聞こえる。
「帰れよ!もう関係ないんだ!」
「いいや、住谷くんにはもう一度学校に来てほしいんだ。まずは上がらせて欲しい」
「やだよ!オレしかいないし、警察呼ぶぞ!」
「それは勘弁してほしいけど、せめて話だけでも聞いてもらえないかな?」
真守太とスーツ男性が口論をしている。
(学校……)
その単語でおそらく真守太が本来通うはずだった学校の関係者が対面しているのだと光先は理解した。おそらく真守太は出前の人と勘違いして通して出てしまったのだろう。
その人と話したくない真守太、家にあがってゆっくり話がしたい先生、対立することは自然な流れ。だがそんな中恐る恐るこちらに近づく人がいた。
「あの~……注文の品なんですけど……」
出前の人だった。こんな雰囲気の中話しかけなければならないのはお辛い。
だがその介入のおかげで2人の熱が一時的に下がったことに繋がった。
どうやら真守太は先生をあげるらしい。
先生をリビングに連れていった真守太、配信の方は「急用ができた」といって消してしまった。
先生はテーブルに座るなり、
「いつもこんなものばかり食べているのかい?」
先ほど出前の人が運んでくれたもの、中身はピザだった。真守太は不機嫌そうに食べている。
「余計なお世話だろ」
「いやもっと栄養のあるものを……いや……」
先生は咳払いし、
「今は何をしてたんだ?」
「何ってゲームだけど」
「そっか、勉強はしていないんだね」
「する必要、あります?」
テーブルで向かいあうように座っている2人、光先は2人の会話が届く範囲に離れなながら観察を続ける。
「勉強は大事だよ、君はいつまでも親の力を借りて生きていくわけじゃないでしょ?」
「配信者として稼いでいますので、問題ないかと思いますけどね」
「は、配信者……?とにかく、君は一度学校にくるべきだ。教室に来いとは言わない、保健室からでもいい、とにかくだね……」
「行ってなんのメリットになるんです?」
つっけんどんに返し続ける真守太、なんとか説得しようと励ます先生。
「メリットはもちろんあるよ、学がつくんだ」
「だから今の自分には必要ないんですけど」
「いやいや、君だって将来就職して働くことになるだろう、そんな時学力があれば幅広い職に就くことが出来るんだよ」
「だーかーらー!」
光先でも分かる、まるで話がかみ合っていないと思った。平行線、そのせいで話がループするように同じことの繰り返しになりかけていた。
それを真っ先に理解した真守太は怒りかけてやめた、話しても無駄だと悟ったのだ。
「オレは行かないですよ。どうせまた名前でバカにされてそこからイジメられるの、わかっているんだよ!」
「そんなことないって。ますた、いい名前じゃないか。今のクラスメイトにそんなことをする生徒なんていないよ」
「本当にそう思っているんですか?」
「どういうことだい?」
「だから、今のオレがクラスに溶け込めるわけないでしょ!途中から入るやつなんて怪しまれて当然だ!」
「そこは先生たちが協力して……」
「噓つけ!」
真守太は今日一番の大声で叫んだ。
「大人なんてみんなそうやって噓ついてさ!自分の事しか考えない!あの時オレはからかわれていたのに無視したじゃんか!」
「そ、その時の先生はそうだったかもしれないけど、私はしっかり見るから……」
血相変えて怒る真守太になんとかくらいつおうと動揺しながら話す先生。
「いいや見ないね!じゃあなんであのバカ親共はオレの事を見ないんだよ!話聞いてほかっただけなのに無視したんだよ!先生たち大人たちだってそうだ!小学生の時辛かったのにさぁ!苦しかったのにさぁ!」
「だ、だからそれをなんとかしようって……」
「なんでオレだけが変わらないといけないんだよ!大人はみんなそう言う!変わり者はそんなにダメか嫌いか!?なぁ!普通にイジメてきたやつの方が正常なんだな!
「そ、それはしっかり話し合って注意して……」
「だったらあの時してくれよなぁ!相談したのに見向きもしなかった、また今度ねっていってよぉ!それが現実なんだろ!」
「そこに私はいないから知るわけないだろ!」
とうとう先生まで怒りだしてしまった。ずっと怒り続けるに真守太に感化され、先生には直接関係ない昔のことを言われ続けたから。
光先は流石にこれはいけないと感じる。いくら真守太が怒り口調で話しているとはいえ、大人の先生まで怒ってしまっては収拾がつかなくなる。
それに真守太は嘲笑った。
「へっ、なんだよ逆ギレ?おもしろ」
「上から頼まれて仕方なく来たのになんだその態度は!」
「だーかーら、これがオレなんでーす」
真守太は昨日のように相手をかわかうような、気持ちを逆撫でするような口調に変わる。
「とにかく学校に来い!親もなんなんだ!」
「行かなくていいて言われてから行ってないだけでーす」
「とにかく私はやるべきことをやったからな!帰らせてもらう!」
「どうぞご勝手に~」
バタンと先生は出ていった。
真守太はソファに移動し、
「あーだるぅ」
そう呟ていた。
(よくわからないけど、もっと話を聞いてあげたい)
先ほどの先生の態度、あれでは一方的で真守太に寄り添ってすらいないこと、光先でも分かる。それで学校に来いというのは違うってことも。
何事にも原因がある。真守太がなぜ学校に行かなくなったのか、真守太がなぜ配信を始めるようになったのか、どうして親をあそこまで嫌っているのか。
それに先生はまるで聞こうとしなかった。
話せば楽になるかどうかはわからない。けど、せめて話を聞いて真守太がなにを考えていたのか理解したいと光先は思う。
だが今の光先はそれが出来ない、許されない、してはいけない。
神の掟、ルールは守らないといけない。
それに今ここで突然真守太の目の前で現れたら、それこそ向こうはじっくりして警察を呼ぶだろう。
(色仕掛けすればいけるかな……?)
残念ながら光先にそれができるだけの武器は皆無でした、くそったれ。
(メイに色々聞かないと)
真守太本人に直接聞くことは残念ながらできないが、神の力で原因を探ることはできる。
せめて明日、少しでも寄り添って送れたらそう思いながら。