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37,しにがみの最初の追跡1日目、静かな夜

「光先、大丈夫かな……?」


 メイはいつもの仕事場で光先からいつ質問のメールが来てもすぐ変身できるように待機及び監視をしていた。ディスプレイを血まなこに見ているので、流石に心配になったイザナミさんと何事かと興味津々のクラ姉妹が寄り添ってくれていた。

 ひとりきりよりよっぽど楽だとメイは思い、小さく安堵していた。


(初めてのことだから……問題は光先……)


 今回のターゲットを見てどう思っているだろうか、悲しくなっていないだろうか、怖くなっていないだろうか、それが何より心配だ。

 そんなソワソワしているメイにイザナミさんは抱き寄せて、


「メイちゃん、そんなに焦らなくても大丈夫よ」

「イザナミさん……」


 クラ姉妹も励ますように、


「頑張ってください。ほらミツハも」

「が、がんばって……」

「……。ありがとう」


 クラオカミ姉は淡々と、クラミツハ妹はそんな姉に隠れながら小声で励ましてくれたのだ、メイはここにいてくれて良かったと思う。

 イザナミさんはそのままメイの頭を優しく撫でるので、


「イザナミさん、その……自分はもう大丈夫ですから」

「だーめ。しばらくこうして落ち着いてもらいます」

「そんな、恥ずかしいですよ」

「誰だって心細くなって心配になるのよ、歳だって関係ない。だから今度私にもしてちょうだいね。あと帰ってきたら光先にもこうしてあげるのよ」

「それはもちろん」

「光先のことになると調子戻るんだから」


 イザナミさんは和ませるように柔和に話してくれる、それが今のメイにあった焦りを少しずつ無くしていく。


「ほらオカミお姉ちゃんもミツハもメイちゃんにヨシヨシしてあげて」

「えっ」


 まさかのイザナミさんの発言にメイは驚く。


「ほらメイちゃんは頭下げて」


 メイはイザナミさんの言われるままに頭を、体を縮めしゃがむ。

 姉妹もヨシヨシすることは初めてのようで姉は、


「どのようにやればいいですか?」

「いつも私がやっているようにやればいいのよ。ミツハもできるかな?」

「は、はい……」


 メイの頭に小さな手が二つ優しく乗っかる、少しくすぐったい。

 そしてゆっくりとヨシヨシを始める、2人は慣れていない動作のためか互いにちょっとぎこちない動きになっているが、それがかえって暖かくメイは感じる。


「オカミちゃん、ミツハちゃん、ありがとう」

「私たちにも今度お願いします」

「わかったわ」


 そうしてしばらく続いたヨシヨシ。

 頃合いをみてイザナミさんが、


「それじゃお二人さん、そろそろメイちゃんの仕事の邪魔になるから帰りましょうか」

「うん」

「は、はい」


 イザナミさんは真剣な面持ちでメイを見つめ、


「メイ、光先ちゃんをもう少し信じても大丈夫よ。あの子は真があって強い子だから。それにもう過去は関係ないのよ」

「……。はい、ありがとうございます」


 メイは一礼し、イザナミさんとクラ姉妹は帰っていく。

 そうだ光先は光先に変わったんだ。前の面影は僅かに残っているけれどそれはあくまで外見、内面はまた1から作られていくのだろう。イザナミさんの言う通り光先は実直にやってきている。それを信じてあげるのもまたメイの役目だと。

 光先は今回でどう変化するだろう、メイはそれだけを考えることに決めた。



 光先はといえば……。

 現在は深夜、日にちをまたぎ都会も少しずつ静けさを覚える時間帯、光先は真守太の部屋のすみにちょこんと座っていた。

 他に行くあて、待機するところもないのでそこにいる形、真守太はベッドでまだ寝ている。


(家族は帰ってきたけど……)


 真守太の父親、母親共に夜遅くにそれぞれ帰ってきたが、特に真守太の様子を見るわけでもなく、リビングで夜食を済ませたのちすぐに自室に入って就寝してしまった。どうやら住谷家の日常はそのようになっているらしい。


(もっと話さないのかな……)


 いくら夜中といえどこれでは親と子の話す時間がさっぱりない。朝になればきっとまたしごとに行ってしまい真守太ひとりになるだろう。その繰り返しな日々。

 あれから光先は真守太の過去の配信をいくつか観た。光先は天使なので疲れることはなく、眠る必要性がなく時間があるからできること。

 真守太は、


『大人ってクソだよな、自分はああはなりたくないね』


『なんで上から目線で物事言うわけ、お前ら大人だってもとは子供だったわけじゃん!』


『おや?したいようにしてもらっているからこれでいいわ。学校行けとか言わないのって?そもそも滅多に話さないからな』


 事あるごとに大人に対しての不平不満、世の中に対しての文句を言っていた。そしてその過激な言い方に共感する人、一部否定的な人がその配信を視聴していた。

 中でも、こうだと決めつけてくる人や言動に関しては人一倍ナイーブになっているように思えた。こうしなければならない、型にはまることが何より嫌っているようだ。

 難しいな、光先はそう思った。

 型にはまるとは何なのか。何が型にはまっているとなり、どれが型にはまっていないことになるのだろうか。

 少なくとも光先自身はどうだろうか。天使というそれだけで型にはまっていない特殊なところにあるだろうが、それでも人間らしく型にはまった生活をしたいと思っている。どうしてそう思うのか、考えてもよく分からないがなんとなくそうしてきた。本当はそうしたかったような、深く考えようとすると頭がモヤモヤするというか、情報量が多くなるというか、深淵しんえんすぎて分からないというか、とにかくそんな感じになってしまう。

 ただなんとなくそうしたいからしている、それが今の光先だ。昔のことなんて失ったのだから。


(でも……)


 いくら真守太が周りと違う生き方になったからといって型から外れる、アウトローな性格になること、それはまた違う気がする。でもそうなっても仕方がない理由がある気がする。

 今日でつかみは見られた、あと2日でその原因を探りきって、


(自分だけでもこころよく転生させてあげたい)


 そう思ってしまうことはいけないことなのだろうか。

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