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36,しにがみの最初の追跡1日目、トラブルを見ます

(よく飽きないな、凄い……)


 お昼頃からゲームを始めた真守太、外はもうとっくに暗くなっているというのに未だに続けていた。

 光先の方が先に根をあげて、真守太のベッドで横になっていた。透明天使なので気づかれる心配はないし、汚れることもないので許してほしい。


「今日は調子いいからまだまだやるからなー!」


 真守太は楽しそうな声で配信を続けている。

 光先は横になりながらスマホで真守太の配信を確認しているが、長時間にも及ぶものなのにも関わらず視聴者はあまり減っていなかった。それどころか夜のゴールデンタイムに入っているので増えているまである。それだけ支持を受けて、興味ある人がいる結果なのだろう。

 娯楽で稼げる、光先は盲点だと思った。だが同時に生半可な覚悟でできるものでもないと感じた。

 真守太の場合はゲームのプレーで魅せており、それで視聴者を得ているようだ。

 あれから光先は真守太以外、色々な配信者の生放送をお邪魔して覗き見してみたが、配信スタイルにも様々あった。トークが上手い人、女性の場合は可愛さを全面に出している配信、細かにいえば無数にあるように感じた。

 光先にはできそうにないと思った。そもそもこんなに長時間同じ事を続けることが不可能、先に疲れてしまう。

 それに光先は話すことが苦手だ。ましてや画面越しのよく分からない人にどうやって話しかければいいのか、友達すらいない光先にはわけのわからないことだ。

 ゲームの腕はやってみないことには分からないが、真守太ほど上手くやれる自身はない。特にFPSのような対人ゲームはある程度の血の気を継続し続けなければならない。そしてそれは多すぎても少なくてもいけない。

 ただ真守太はその血の気が明らかに多いように思えた。


「へっ、ざっこ」


「はい、よゆーです」


「相手が悪かったね、おつかれー」


 言動も終始相手を尊重というところから逸脱しているように思えた。だがそんなこともゲームプレーでかき消していく。

 それでも牙城は崩れる時がやってきた。


「あれ?こいつ配信者じゃん、オレも知っている奴だけど、ざっこ。何しにここに来たの?このゲーム引退した方がいいんじゃない?」


 そう言って真守太はゲームを続けていると、コメントが荒れ始めていた。

 光先はボーっとそれを眺めているが、どうやらさきの真守太にやられた配信者の視聴者がやってきてさっきの言動について怒っているようだった。


「なに?また向こうのきたの?ほっといていいよ。負け犬の遠吠えってやつ、何言ったって虚しいだけですよー」


 それに真守太はさらに煽る。光先は流石にこれは良くない思った。


 当然さらにコメントが荒れ、そこは地獄に変わり果てた。

 真守太はゲームがひと段落したようで、コメントがしっかり拾える状況になるとマウスをたくさんカチカチしだし、


「はいはい、ブロックブロックおつかれおつかれ~」


 自ら火消しをするように、さきの言動についてコメントする人をどんどん削除していた。その中には擁護する人も含まれており、もはや味方もろとも一斉だ。


「ひとんちまで書き込む奴はろくな奴じゃないでーす。大人しく戻ってくださーい」


 そしてまた煽る。コメントはどんどん過激さを増していき、誹謗中傷として捉えてもおかしくないラインのコメントが目立ち始めた。

 真守太はそこまで気にする様子はなく、慣れているようだった。


「物騒なこと書いている奴はそっくりそのままお返ししまーす」


 と真守太が吞気にジュースを飲んでいる時コメントに、


『話がある、出てほしい』

「あれ?とうとうご本人登場ってやつ?めんどくさー」


 真守太は笑いながら、その配信者の通話に応じた。


「いつだかの大会メンバーのところから着信とかおもしろ」


 そう言いながら出た。


『ウォールだな?』

「そうですけど?」

『お前はどうしてそういうことばかりする?』

「そういうことってなんですかぁ?」

『お前、実力はあって若いのになんで素行が悪いんだって話だよ』

「あ?喧嘩売りにきたの?そんなのオレはオレなんだから仕方がないじゃん、他人にとやかく言われる筋合いはありませーん。それともなに?大人のお説教ってやつですかぁ?」

『お前さぁ、もう少し素直になりなよ』

「そもそもお前お前言っている奴の耳なんて傾ける必要ありませーん」

『そういう態度しているといつか痛い目見るぞ』

「はっ、忠告あざまーす」

『お前まだ学生だったよな?親はなにか言っていないのか?』


 相手がそれを言った時、真守太は固まった。

 コメントでは、


『あ、やったな』

『あーあ、地雷踏んじゃったよ』

『くるぞ、くるぞ……』


 光先は背中越しに真守太がプルプル震えていることを感じ取る。


「おやおやってそんなに大人が偉いのかよ!そんなにおやが大事なのかよ!ふざんけじゃあねぇ!」

『なんだよ、急にキレてこわ』

「大人っていっつもそうだ!自分が偉いと思って、大人だからって見栄張って!だから同じようにやったら悪いのかよ!なんでオレだけいっつも怒られないといけないんだよ!あぁぁ!」


 真守太はドンドンとデスクを叩いていた。


(やっぱり親と何かあるのかな……)


 先ほどまで飄々(ひょうひょう)としていた真守太は人が変わったように怒っている。怒った原因、今の真守太の環境、おそらく色々なものが積み重なって今がある。それを他人にどうこう言われても仕方がないのだ。


『おーこわ、これ以上はだるいから切るわ』


 そう言って相手は通話を切った。

 真守太はといえば、


「そうやってまた逃げる!大人はいっつも逃げる!誰も立ち向かわない!寄り添ってくれない!じゃあ自由にやらせろよ!なんでオレの邪魔ばかりするんだよどいつもこいつもっ!」


「自由にやって何が悪いんだよ!死体蹴りしたって撃ったっていいじゃねぇかよ、それのなにが悪いのか教えてくれよ大人共!説明しないでただ駄目とかそれこそ子供じゃんか!」


「どうしておれのやりたいようにやらせてくれないんだ!どうして他人はバカにしてくるんだ!そんなお前に何かしたのか!ふざけんな!」


 コメントの方は、


『ほんとそれ、大人ってクソ』

『あー草、これを観に来た』

『歌手にでもなったら?草』


 真守太を肯定的に思っている人、いつものお家芸だとふざけて笑う人様々だが、真守太の言動を否定的に捉えるリスナーは少なかった。


(ここには大人に恨みを持っている人が多いのか)


 子供と大人、親と子、ここは切っても切れない縁。しかしその線も歪んでいびつとなり関係がこじれてしまう。真守太の行動はまさにそのように思えた。

 そして真守太のように大人に対して不平不満がある者たちが共感している。そうしてこの配信、コミュニティは成り立っているのだと光先は推察した。


(大人……)


 子供がどうあればいいのか、大人がどのようにならなければいけないのか、記憶を失っている光先には分からない。

 ただとりあえず真守太が暴れてぐちゃぐちゃになっているデスク周りを整理して、落ち着け落ち着けと頭をよしよししてあげたいとは思っている。

 真守太はパソコンの電源をぶち消し、ベッドにダイブした、ふて寝だ。

 光先は勢いよくこちらに向かってくる真守太にびっくりしたが透明天使だったことを思い出し、不思議な気分を味わう。ハンバーガーの包み紙の時は小さいものだったが、今回は人間、そのような大きさが実際に体を通過されると自分がいるのか曖昧な気がしてくるからだ。

 今日はすべての始まり、残り2日なにが起こるかまでは光先は知らない。ただ真守太にとっては残酷な日々が待っていること、それだけは分かった。

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