35,しにがみの最初の追跡1日目、まだまだ驚きます
「流石に疲れた、休憩~」
真守太は席から立ち上がり、トイレに向かった。
あれから4時間くらい真守太はずっとゲームを続けていた。太陽はだいぶ傾いている。
(凄い集中力……)
光先は後ろで観察していたが、流石にずっと立って観察は疲れてしまったので適度に彼のベッドを椅子代わりに休ませてもらった。
真守太の方が楽な体勢でゲームをしているとはいえ同じ事を、しかも話しながら何時間もやってしまうのだから凄い体力だと光先は思った。
それにゲームの内容も目劣りせず、常に好成績をキープ。ランクマッチになるものに後半からいっていたので1位こそ取れていなかったものの、それでも十分な成績だと素人目でも分かった。
真守太がトイレから戻ってきた。
「ただいま、今日は何食べようかなー?」
どうやら小腹が減ったらしく、そのように話している。
スマホを取り出し、何かを操作している。
「ま、無難にハンバーガーでいっか」
そう言ったらスマホを置いた、なんだったのだろうか。
「この時間暇なんだよなー。なんか面白いことない?」
そう真守太が言うとコメントが流れ、
『ニュース見たか?配信者の○○てのと○○が結婚していたってよ』
「だれだれ?確認しよ。へー全然興味なからなーvtuber。だってさ何やっても中途半端じゃん?この前たまたま切り抜きで観たゲーム配信だって途中でやめて最後までクリアしてなかったし。アイツらって何が凄いの?」
『アイドル的な感じ?が売りみたい。でも実際ウォールの言ってる通りだよな。全然魅力を感じない』
「アイドル、全然興味ねー。それよりゲームを最後までやってる配信者の方がマシ、vtuberなんてクソだクソ」
(口が悪い……)
だんだんと光先は真守太について分かってきたが、言葉使いが良くない。これでは聞いている方もモヤモヤするのではと思ったが、コメントは特にそこらに気にするようもなく、これがこの配信の日常茶飯事なのかと推理できた。
(vtuberって単語も初めて聞いた……)
光先は配信関係には疎い、そのためそちらの業界が今どのような賑わいを見せているのか全くもってわからない、世の中本当に色々なものがある。
「てかvtuberって結婚するんだな。てっきり独身のクソババアがやっているのかと思っていたわ。顔見せないし」
『口悪すぎて草』
『さすがっすわ』
『結局中身は人間だからな』
光先には全く理解できない会話が繰り広げられている。
『Vだってお前と同じランクのやつはいるぞ、かなり上手い』
「そいつはめっちゃ頑張ってるんじゃないの?素直に尊敬するわ。ちやほやされているやつよりよっぽど魅力あるよそいつ」
褒めるとこは褒め、認めるところは認める、真守太は素直な性格のようだ。ということは年頃ゆえに言葉使いが荒いのかもしれない、コメントに引っ張られている可能性もある。
だがやっぱりその口調が気にする人はゼロではなく、
『バカにするなよ、お前よりよっぽど可愛いからな』
「オレに可愛さを求めているなら間違いでーす!オレは男でーす!好きなようにやってるからいいんでーす!」
『ウォールは相変わらず感覚がズレているよな』
「じゃなきゃ不登校なんてしませーん!これでいいんでーす!てか早く注文来いって、遅くね?」
と家のチャイムが鳴る。
「お、やっときた。ちょっと待ってて」
そう言って真守太は玄関に向かう、光先はそれを遠くから観察する。
(出前、かな?)
確かお寿司やピザを電話で頼むことで家まで持ってきてくれるサービスがあったことを光先は思い出す。イマドキはスマホでも簡単に注文ができるようだが光先は勝手が分からず未だに冷凍食品生活を続けている。
部屋に戻ってきた真守太はおもむろに中身を取り出し、頼んでいたお目当てのハンバーガーを頬張っていく。
「うま、やっぱりチーズだよな」
(ハンバーガーって出前で頼めたんだ……)
光先の今回の追跡、その人の素性を知るよりも人間の生活がどういうものなのか勉強しにきたように感心ばかりしている。
普段は冷凍食品を買い溜めすることで食べることに関しては補ってきたが、家にいても頼めることを初めて知った。
(今度試してみよ)
きっと冷凍食品にない、それこそ料理屋さんで食べられるものが選べるのだろう。料理のレパートリーが大幅に増えるはずだ、自分で作る気は一切ないのだが。
食事中でも真守太はコメントと会話している。
『でたチーズ。おこちゃまウォール発動中』
「お前らだってチーズ好きだろ?食わないやついんの?」
『俺は好き』
『牛丼で頼む』
『僕は食べれない』
「アレルギーとかだったら仕方ないよな。オレだってなんだっけ?あー、とりあえずこのピクルスマジ無理」
『それは単純に好き嫌いで草』
『大きくなれないでちゅよ』
『分かる俺も苦手』
(ピクルス、どんな味なんだろ?)
ハンバーガーを食べたことがない光先にとってはとても興味がありつまみ食いしたいくらいだが、今の状態ではできないので我慢だ。万が一そんなことをしてしまったら、突然ハンバーガーが消え、きっとホラー現象として処理されることだろう。やらないかが。
「さ、やるか」
真守太はそう言ってハンバーガーの入っていた袋を適当に後ろに投げる。
そのくしゃくしゃになった包み紙が光先に当たりそうになってびっくりするが、体を通り過ぎていく。
光先は改めて今は透明人間ようになっているのだと自覚する。
真守太はといえば再びゲームに向かっていた。