表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

34/58

34,しにがみの最初の追跡1日目、知らない光景を目撃します

「はーい、今日も来てくれてありがとうねー」


 真守太さんは自分の部屋に戻り、パソコンなど数多くの機材が置いてあったデスクに座るとなにやら準備をし始め、マイクに向かって話していた。


(通話?)


 確かパソコンでもスマホのように会話することは可能だ、それだろうか?

 でも真守太はカチカチとマウスを動かしながら何かをしている。

 光先は気づかれないことをいいことに、真守太の背後にまで近づいて確認する。


(なにこれ?)


 そこには光先の知らない世界があった。

 左右のモニター画面、右の画面では忙しなく映像が流れている、というより真守太のマウス操作と同タイミングで動いている気がする。

 ゲーム、光先はやっと理解する。光先はゲームをやったことがないので現段階でもいまいちピンときていないが、恐らくこれは話題になっているFPSのゲームだろう。そのような関連のネット記事なら見たことがあった。

 そして左画面は何やら無数の帯が下から上に流れている。こっちは訳がわからなかった。

 そんな時光先はスマホが振動する、メイに確認するために。


『真守太さんのこれはなんですか?』

『真守太さんはゲーム実況をしています。今からその活動を始めるみたいです』


 メイからのメッセージ。それで光先は少し頭が整理されていく。


(なるほど、これが話題の配信者ってものなのかな?)


 光先が生活している年頃は、SNSや動画の普及が完全に追いつきそれを生業なりわいとする人が増えてきている。ゲーム実況を始め、料理動画、ペット動画などジャンルは多種多彩。光先はその中でもペット動画をよく見ていた。

 真守太はゲーム実況をしているということ。もうすぐお昼時だが学校の代わりに新たなステーションを見つけているようだ。

 右の画面はゲームを実際にやって、左画面はゲーム実況用のコメントが流れている。それくらいならあまり知らない光先でも理解が追いついてくる。

 チャンネル名を見れば「ウォール・エリート」となっており、光先はさらにピンとくる。先ほど朝食の時にスマホで見つけていたものはエゴサだったのだ。

 光先はスマホで「ウォール・エリート」と検索する。するとチャンネル登録者数5万人越えのチャンネルがヒットした。配信者としてはかなり基盤が出来ている方だろう。


「お前らもほんと不良だよなー、こんな平日の真っ昼間なのに配信観に来てよー。まあありがたいんだけどなっ」


 真守太はそう言いながらゲームの練習をしていた。


『お前も学校行け定期』

『今日は仕事休みだから見てる』

『不良はどっちだ』


 コメントが流れる。


「学校いきませーん、つまんないだけでーす。それよりこっちでいじめまーす」


 それに真守太は楽しそうに返していた。

 光先はふと思い、メイに連絡する。


『なぜ真守太さんは学校に行かないのですか?』


 返信はすぐに返ってくる。


『真守太さんは学校でいじめられました。原因は名前です。ますた、と漢字と読み方が独特なため、それをいじられ学校に居づらくなりました』

『親はそのことをどう思っているのですか?』

『特に思っていません。行きたくないなら行かなくていいと』


(それが親としての態度なのか?)


 光先は家族とはどういうものなのか記憶がないので何も分からないが、ネットの記事ではよく学校と生徒の親がメモていることは度々閲覧したことはある。つまり自分の子供になにかあれば争ってでも守ろうとするということだろうか。

 しかしここの家族はそれをしなかった。どうしてだろうか?


「つーか、今日いつも食べているチーズあのババア買ってなかったんだよね、許せなくね?」


 真守太は光先の心情とは裏腹に変わらず今日あったことをマイクに話している。


『チーズとかやっぱりおこちゃまだよな』

『また愚痴が始まったかw』

『いつものだな』


 その流れるコメントを光先は真守太の使っているモニターから見る。


(いつも?)


 ということは、こうして配信をしている時は家族の愚痴を言っているということだろうか。

 おそらくこの家族は仲がよくない。ただ何が原因でそうなっているのかが分からない、それをこの少ない日数で知ることが出来るのだろうか。


「それじゃあ始めまーす」


 そういって真守太は練習をやめて、本格的にゲームをやるようだ。



(今日もよゆーだな)


 真守太はFPSゲームで蹂躙じゅうりんを始める。

 話題になっている、いわゆるバトルロワイアル系のゲーム、ひとつの大きなエリアに3人1チーム計60名で勝ち残っていく。

 カジュアルマッチ、腕前差関係なく初心者から上級者までがいる簡単にバトルしやすいモード、それに真守太は準備体操がてら潜っていた。

 真守太の腕前はかなりの上級者、ランクマッチのあるこのゲームにおいて最高ランクをソロで取ってしまっている。

 今日も自分のペースで試合を進めていく。

 いちおうチーム戦なので当然チームメイトがいるのだが、真守太はお構いなしに一人で漁り、一人で相手の1チームほふっていく。


「げっ、スナイパーいるじゃん!カジュアルでスナイパーとか性格悪!」


 スナイパーは単純に距離を取られるので相手を倒すのに時間がかかるため、キルをたくさん取りたいと考えている真守太としては相手したくない。とはいえ他に敵は見えないので直撃をもらわないように避けながら接近する。

 そして一気にスナイパーを仕留める。


「これで20キルいかなかったらこいつのせいだかんな!」


 20キル、それがこのゲーム上手い人とされるひとつの指標となり、それをどれだけ毎試合取れるかどうかでその人の実力が問われる。

 最近のこのゲームはアップデートや、プレイヤーのゲーム性を理解する人が増えてきており、生半可に取れる数値ではなくなってきており貴重だ。だからこそそれを取ることに意味がある。

 真守太は超がつく実力者だと自身を自負している。だからこそこのカジュアルマッチにおいて無双できなければ調子が良くないのかと思ってしまう。

 試合は終盤、ここからは相手の装備も強いのでカジュアルマッチっといえど慎重にことを進めなければいけない。


「あ、味方そこいったらやばいって!」


 しかし、真守太のチームメイトは知らず知らずに敵の近くに行ってしまい瞬殺されてしまう。真守太のおかげで肥えていた物質を相手に届けるだけになってしまう。


「もぉ~!だれがその物質調達させてると思ってるんだよ!渡すなよ!」


 そう言いながらも真守太はパワープレイで相手を倒していく。

 真守太はこうして暴言を吐きながら、実力で相手をねじ伏せていくプレースタイル及び配信スタイルだ。

 そんな真守太に共感するもの、憧れるもの、もしくは否定的な人ははっきり存在するが、ほぼ毎日配信を続けて1年と半年でチャンネル登録者数は5万5千人まで到達していた。この数値が真守太をより自信つけるものになっている。

 真守太は学校に行っていない、だが配信者としての居場所があった。


「はいちゃんぽん、よゆー」


『今日も調子良さそうでなにより』

『愚痴るわりにはしっかりやるからなー』

『おめ』


 コメントも理想的に流れている。最初の頃は逐一拾っていたが、今は目まぐるしい速度でコメントが流れるので適度に、気が向いた時に拾う程度になっていた。

 最初はただなんとなく始めた配信だった。時間はある、毎日やっていたらいつの間にかゲームの実力も配信者としてのレベルもここまで成長することができた。

 自由にやっている、だからコメントもまた自由にやってくる。


『はいお疲れ、ザコ狩って楽しそうでちゅねー、早く学校行けカス』


「はいお疲れ~、君はもう配信来なくていいからねー。というかお前こそ学校行ってんの?」


 真守太は笑いながらその送り主をブロックする。自由にいるからこそこういう作業も自由にやる。


『相変わらず手厳しくて草』

『ウォールに学校の話はNG』

『学校なんか行かなくていい、僕も行っていない』


 コメントをくれる人たちの大半は共感してくれる人たち、そして分かり合える仲間たち、だからこそ続けることが出来る。

 それが真守太の日常、他の人から見れば非日常をずっとしているように思えるかもしれないがこれで小遣いだって稼げている。

 その小遣いは親に持っていかれ食費されている。だから真守太は早くもっとビッグな存在になって食費だけじゃすまない額を稼いでやろうと思っている。だから今日も今日とて配信を続け、ゲームが上達するために地道に努力する。それは好きなことだから。


「んじゃあ、今日もランク行きますかね~」


 真守太はマイク越しに何千と観ている人たちに伝えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ