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33,しにがみの最初の追跡1日目

 住谷真守太すみやますた、今回のターゲットで初めて人を追跡、もとい観察する対象。

 彼は中学生1年生の男子、都内のそれなりの豊かなマンションに暮らしている。それだけで順風満帆に思えそうだが全然違う。

 本来なら学校に通う年齢だが彼は行っていない、いわゆる不登校。真守太という名前を小学生の時にからかわれてから怖くなって行けなくなり、それが今も続いている。

 それがメイから送られた事前情報のメッセージ、その後は光先が質問する度に送信すると言われている。

 光先は真守太が住んでいるマンションのベランダに潜んでいた。

 任務モードの格好なので人に気づかれることはない。夏の日差しも今は関係ない。


(これから3日間……)


 どんなことになるのだろうか、結果は結局転生することになるので悲惨なことになってしまうことは分かっているのが、それでもしっかり見届けたいと光先は思っている。

 ターゲットの真守太はまだ寝ている、今は午前9時。普通の学生ならとっくに学校に向かい、授業の準備をしているはずだが不登校である彼は熟睡しているようだ。


(親は起こさないのだろうか?)


 そういえばメイから親の情報については言われていない。中学生なのだから親子で暮らしているはず、なのにその雰囲気をまだ来たばかりの光先は感じ取れないでいた。


(いるのかな?)


 光先は立ち上がり、窓を通過し中に侵入する。

 カクヅチさんが作ってくれたツインテール用の髪ゴム。これにどんな場所や障害物がある所でも簡単に透過し進めるようにしてくれた。相変わらず厨二くさい名前がつけられていたようだが光先は聞かされた時、頭をシャットダウンしていたので覚えていない。

 真守太の部屋に侵入、中を見る。

 部屋は綺麗にされており埃やゴミはなかった。物はあまりないが、デスク周りは一段と賑やかになっている。

 まずは大きなモニターが2台あり、キーボードも何種類かあり、何かに使うコントローラーも種類多くきちっと並んでいる。

 光先は興味を持ちデスク周りを見回すと横に大きな箱、確かこれはパソコンの本体だ、ずいぶん重そうである。その後ろには配線コードがいくつもあり、それがモニターやそれ以外の機種にくっついている。

 他のところは真守太が寝ているベッド、クローゼットなど基本的な物が置いてあるがここだけ明らかに力の入れ具合が違う気がする。


(これがこの人の趣味?)


 きっと起きた時、これを操作してくれるだろう。どんな感じで動かすのか、このような本格パソコンを持っていない光先は興味が湧いた。

 当の本人の真守太はすやすやと寝ている。成長期はまだおとずれていないのかあどけない顔たち、髪は長らく切っていないのか長髪でパッと見では女の子と間違えてしまいそうだ。


(それよりも)


 さっそく脱線してしまったが、真守太の親を探したいと思って中に侵入したことを思い出し、光先は部屋を後にする。

 このマンションの作りはファミリー用で光先が住んでいる部屋より当たり前に大きく、見た目も綺麗である。トイレ、浴室、化粧室、リビング、キッチンどれもワンランク上の造りだ。


(いない?仕事に行っているのかな?)


 それもそうか、一般的な人は学生同様社会人としてすでに出勤している時間帯だ。時代は進み最近の家庭はほとんど共働きである。

 光先はスマホを取り出す。そしてメイにメッセージを送る。何か気づいたり質問したいことが見つかった時はすぐに答えてくれるようになっている。逆に気づかない場合はそのままスルーする形になることもある。光先次第でこの追跡の経験が変わるというシステムだ。


『親は普段どうしているのですか?』

『真守太さんの親は共働きをしており、朝から夜まで仕事をしています』


 あくまで質問に答えるだけのメイ、プラスアルファは教えてくれない。


『真守太さんと一緒にいる時間はないんですか?』

『朝から夜まで仕事、家に帰ってきた後はすぐに寝ています』


(うーん、どうすればもっと情報を引き出せるかな?)


『二人が休みの日はどうしているのですか?』

『母親は普段できない家事、掃除などをし、その後買い物に行きます。父親はほとんど寝て過ごしています』

『真守太さんと遊ぶということはしないんですか?』


 中学生まで上がってしまえば親と接する時間は必然的に減ってしまうだろう、しかし不登校の息子に何もしないのは不自然だ。


『遊ぶことはしません』

『不登校について二人はどう思っているのですか?』

『どうも思っていません』


(どういうこと?)


 息子が、身近な人が思い悩んでいるのだ、普通なら相談にのったり解決を見出すために寄り添ったりするのが普通のことだと光先の中では思っている。記憶のない自分でもそう感じるのだから、それが自然なことなはずだ。

 疑問がさらなる疑問で光先は頭を悩ませる中、メイから、


『真守太さんが起きましたよ』


 と内容を確認した時、彼の部屋の扉の開く音が聞こえた。


「ねむ……」


 まだ声変わりは済んでいない彼はそう呟くようにいいながら、とぼとぼとキッチンに向かっている。

 髪はあまり整えていないのかぼさぼさのゴワゴワしており、光先はそれを見るとなぜか体がむずむずとしだした。


(髪、整えて欲しい。それか整えたい)


 女子としてだからなのだろか、メイの言いつけを守っているからだろうか、いずれにしてもむずむずする理由は不明だが、透明天使の今の状態では物に触ることも迂闊にできないので我慢するしかない。

 真守太さんはそんなぼさぼさの頭をぽりぽりとかきながら冷蔵庫を開けて水を飲んでいる。


「今日って曜日なんだ?」


 彼はひとりごとのように話す。

 光先はこちらに気づかれて話しかけられているのではないかと、一瞬驚いたがバレるはずがない。欠陥がない天使の格好が人間に見られるわけがない。こちらに視線を合わせているわけではないので、きっとそれが彼にとっていつもの癖なのだろう。


「あのババア、チーズ買い忘れているじゃねぇか!くそっ!」


 何か食べるものを探していたのだろうか、そして目的のものが無かったのだろうか、真守太は勢いよく冷蔵庫の扉を閉めた。


(ババア、恐らく母親……)


 さっきメイからのメッセージにもあった、買い物は普段母親が行っている。

 彼の年齢くらいは反抗期も重なっていると事前に調べている、そのため親をあまりよく思わないと。

 とはいえ、あそこまで怒ることなのだろうか、それとも年頃はそれが普通なのだろうか、記憶があれば。


「さてっと……」


 真守太は朝ご飯を見繕ってきたらしく、リビングにある4人家族に丁度いいくらいのテーブルに座った。

 朝ご飯は食パンらしく、イチゴジャムがすでについている。それをかじりながらスマホをポッケから取り出していじり始めていた。

 光先は念のため彼から距離をとるためテーブルから離れたソファの近くで潜んでいる、そのためこのままではスマホで何を見ているのかわからない。


(こんな時は……)


 カクヅチさんお手製コンタクトの出番、これで遠距離の細かな文字までも見えてしまう優れもの。ライフルの望遠スコープのように倍率を光先の意思で調整できる。そしてなにより瞳がちょっと大きく見えるカラコン性能付き。もちろんこれにも厨二チックな名前をカクヅチさんがつけていたが覚える気はない。

 それをすでに付けている光先は目を凝らす。

 真守太はSNSを見ているようだ、検索は『ウォール・エリート』となっており、彼は少し表情を綻ばせながら眺めている。


(ウォール・エリート?なんかカクヅチさんが好みそうな名前……)


 なんのことだろうか、人の名前なのだろうか、物の名前なのだろうか、今の光先には全く見当がつかなかった。

 ただ真守太はそれを見て一喜一憂しているのできっと重要な事なのだろうとは理解できた。


(中身をちょっと……)


『エリートは本当の実力者だよな。さすが』

『まああんだけやりこんでるんだから当然』

『今日も良かった、面白かった』


 このように書いてある、いったい何のことだろうか。


『流石学校行っていないだけあるな、プレーがお粗末』


「学校行ったからってプレーは変わりませーん。また妬みか、ったく……」


 真守太はその書き込みを見るなり、子供らしく反論していた。

 光先は何のことだが未だに理解できなかったが、すぐにその答えを知ることになった。

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